第05話:襲撃 第一日目そして怪我人
本日の第二弾!
おいおいおい。燃えてるよ。
だ、大丈夫なのか!?
「おーーい。大丈夫かーー」
あわてふためく私の横で、ヨハンさんが櫓の上に居るはずの隊員に向かって声をかけた。櫓は村の外に面した方は、防壁に覆われており、弓矢や攻撃魔法を打てるように小窓が開いているが、その反対に村に面した方には防壁がない。上り階段と見張りの隊員たちが居る見張り部屋が丸見えになっているのだ。
上部全体が炎に包まれたように見えたが、ファイアボールが防壁にあたり、あたり一面に弾けただけのようだ。炎が収まると、櫓の三人の隊員が見えた。二人は小窓から応戦して、もう一人が振り返りながら、大丈夫と手を振っている。
良かった。怪我していなんだな。
っと思っていたところ、
「矢が来るぞー」
んな!!
櫓にいる隊員の声に釣られるように夜空を見上げる。月明りに照らされて、二~三十本の矢が弧を描いて防壁を超えてこっちに向かってきているのが見えた。
「おっと。詰所に逃げ込め」
うおりゃゃゃ!!
ヨハンさんの声に従って詰所に向かって走ると、後ろでドスドスと矢が地面に刺さる音が聞こえきたが、振り返る余裕はない! あわてて詰所に飛び込んだ!
ふぃーーー。これで大丈夫だっと思ったら、今度はズン! ときたよ。
詰所の屋根に、何か重い物が落ちたようだ。
あっぶなー!
「ファイアボールを少し打ったぐらいでは門や櫓は壊せないと判断したのか、それとも魔術師の魔力消費を抑えたいのか、わからんが、物理攻撃に切り替えたようだな。あの音は投石だろう。よし、今のうちに動くか」
そういいながら、ヨハンさんは棚から盾を取り出し、ファーレンスに渡した。
ん? 今のうちなのか? さっき、石が降って来たぞ!?
「ファーレンス、お前は西櫓と此処との連絡係をしてくれ。東はカイルがやっている。さっそくだが、北門への攻撃が始まったが、西櫓に異常は無いか確認してきてくれ。特に南門の方に回られるとマズイからな」
「はいよ。矢ぐらいなら盾で何とかなるからな。まあ、投石は盾で受けても痛いから嫌だなぁ」
細身に見えるファーレンスさんだが、意外と力があるのか、私の身長ほどある大盾を軽々と持ち上げ走って行く。
えっ、さっきのズーンって奴、盾で受けれるのか??
いや、それどころでは無い。さっき、何か気になることを言っていたので聞いてみよう。
「ヨハンさん、南門に回られると何か困るんですか?」
「ああ、南門まで隊員を回せていないんだ。そもそも、普段の見張りも隊員だけでは回せていなくって村の連中に手伝ってもらっているからな。この北門の櫓に三名、東西の櫓に二名づつ登らせている。それと連絡係の二名と俺だ。カイルも動員して、ちょうど全員使い切る感じでな。今、南門は村の若い者に見張ってもらっている」
「じゃあ、もし敵が南門に向かったら、防げないってこと?」
「いや、そのときは俺と北門の隊員の誰かが駆け付けることになる。だから、南門に敵が向かうようなら早めに検知したいんだ」
なるほどっ! って人員不足だーーーー!!
ヨハンさんが駆け付けるまで南門は持つんだろうか……とてつもなく不安だ!
そんなことを思っていると、カイルの声が遠くから聞こえてきた。
「リナーー。怪我人だ。すぐに来てくれーー」
東の櫓に行っていたカイルだった。詰所に飛び込むとすぐに駆け寄ってきた。
その顔は煤で汚れており、東の櫓でも戦闘が行われたとわかった。
「カイル。状況報告が先だ。防壁を壊されたり、南への移動が確認できたわけではないんだな。リナ、先に行けるか?」
ヨハンさんは、焦るカイルの肩をつかみ落ち着かせるように言っている。
カイルは全力で走ってきたのか、息が上がって上手く話せないようだ。
「はい。先に向かいます」
持ち物を確認して詰所から、そおっと顔を外に出してあたりを見渡す。うん。いつの間にか矢の飛来は止まっているようだ。
良かった。飛んで来る矢を避けながら突っ切るのは大変だもんなぁ。
小さいころのお父さんに特訓だぁぁ! って言われて、何度もやったけど、最初は死ぬかと思ったぞ。
ってそれどころでは無かった。
うーーん、どこからか投石機が発する音が聞こえてくるが、北門を狙っているわけではなさそうだな。そうなると、東の櫓が狙わているのか?? 敵の主力が移動している??
――――
東の櫓に到着すると、地面には流れ弾となった石が多く散乱しており、櫓の防壁にも多くの投石が当たったような跡があった。
えーっと。ここから見た感じ、今は交戦中ではなさそうだな。
「皆さん、大丈夫ですかーー」
小さな声で呼びかけながら、櫓の階段を上っていった。階段から登って行っているから敵に間違われることは無いと思うけど、声掛けは大事だよね。
「リナさん。運悪く投石が窓から入ってしまって……。シュザイルが……」
櫓には二名の隊員が居た。無事だった人は外の様子を見張るため小窓から離れることができないようだったが、もう一人は壁にもたれて肩から血を流している。どうやら怪我をしているのはシュザイルさんのようだ。シュザイルさんは去年結婚したばっかりだ。死なすわけにはいかないな。酷い怪我じゃ無ければ良いけど。
「見せてもらいますね」
守備隊の人たちが普段来ている皮鎧を四苦八苦しながら脱がした。この皮鎧は私のよりも厚くて重いか着るのも脱がすのも大変なんだよな。
あ、ちなみに私が着ている皮鎧は特注品なんだ。小柄な私にあわせて、小さくって軽くできているんだ。お父さんの知り合いの店で作ってもらったんだが……今思うと、お父さんって意外と顔が広かったな……
って今はそれどころでは無かった。
あーなるほど。肩に当たったんだね。肩から腕にかけて痛みがあって、腕も動かないようだ。
うーーん。鎧下のシャツは肌に密着しているので、腕が動かさずに脱がすのは無理だな。なによりも、出血が多くって顔色がどんどん悪くなっていっている。急がないと!
ちなみに、地肌の上に皮鎧を着るような者は居ない。鎧で擦れて体が擦り傷だらけになるんだ。
うん。仕方がない。シャツは切ってと…………。
うゎーー! 、粉砕骨折になっているぞ、これは痛かっただろうな。
とりあえず、鎮痛と傷口の消毒、止血だ!
まずは、カバンから鎮痛解熱効果がある「ルミナ草」と消毒、止血効果がある「月光の雫」の薬瓶を出して、それと、薬にとろみをつけるためにスズガ茸の粉末っと。後は、薬を混ぜるための小皿を用意して。これら混ぜ混ぜする! 薬全体に、とろみが出たところで、きれいな布に塗ってと……
よぉーっし。傷口保護用の湿布、完成!
この湿布を傷口を覆い隠すように貼って、最後に包帯を巻いてっと……よし。応急処理は終わりだ。
「とりあえず、薬と包帯で止血と痛み止めなど、今できる応急処置はしました。ただ、傷口が大きいから縫った方が良いのと、酷い骨折しているので……早めに、ちゃんと治療した方が良いですね」
「ありがとう。すまないが、監視の目が足りないんだ。交代要員が来るまで、そっちの小窓の監視もお願いできるか?」
「はい、任せてください。たぶんカイルかヨハンさんが来ると思うので待ちましょう」
はぁーーー。
肩関節か……構造も動きも複雑だから、後遺症が出やすい難しい場所なんだよな。
こんなとき上級回復魔法が使えたら、すぐに治せるのにな……
などと考えながら、監視を続けた。
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