第31話:村の様子:カイル視点
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灰色の空が低く垂れ込め、冷たい風が村の残骸をさらう。俺は村の外れに立って、焼け落ちた家の跡を見つめた。煙の匂いはもう消えたが、村のいたるところに火事の跡が残っている。俺の胸の中には、なんとも言えない空虚な気持ちが渦巻いていた。
あの日、突然盗賊団が村に押し寄せ、俺たちは必死に戦った。父さんが指揮する守備隊の中で、俺はただの見習いで、大した役には立たなかった。まぁ、リナは別格だった。守備隊でも無いはずなのに誰よりも役に立ち、頑張っていた。それでも、三分の一の家屋が焼け落ちる結果になってしまった。
あの時、国防軍のハンスさんたちの到着が一日遅れていたら、門も防壁も壊された村が、もう一晩持ちこたえる事が出来ただろうか。
守備隊のメンバーに指示を出している父さんの声が背後で聞こえる。父さんは盗賊団との戦いの後も忙しく動き回っている。だが、そんな父さんの顔は暗い。村を立て直すのは無理だと考えているらしい。冬が近づいていて、食料も木材も十分ではない。多くの村人が焼け出され、テントでの仮住まいだ。
村の長老たちも、もう限界だと感じているようで、隣町やもっと大きな都市への移住の話を進めている。
ここが俺たちの故郷で、何もかも知っている場所なのに、もう捨てなければならないかもしれないなんて、そんな現実に胸が痛んだ。
でも、俺が一番気がかりなのはリナのことだ。
「リナがいないのは、ちょっと寂しいな」
俺は、ぽつりとつぶやいた。
リナは、村で唯一の薬師で、村人たちにとってなくてはならない存在だった。
だからこそ、役場の会議室で村長やお父さんが話していた「リナを村に縛り付けてはいけない」って言葉の意味がわかる。このままでは、村はリナに依存してしまうのだ。いや、すでに依存してしまっているのだろうな。
リナは小隊長のハンスさんに紹介状を書いてもらい、回復魔法を学ぶ場所を見学してくると言ってマグリーナに向けて出発したが、俺は事前に裏話ってやつを役場の会議室で聞かされていた。
会議室では、砦で捕まえた連中の事よりも、最重要課題としてリナの事が議論された。
父さんが、ハンスさんから聞いた話しとして、
そもそも回復魔法と言うのは、簡単に教えてもらえるものでは無い。
回復士は全員登録され国で管理されている。
回復魔法が使えるとわかった者は国防軍に徴兵される。
徴兵されて行くよりは志願兵として行った方が待遇が良い。
世の中に、一般人の回復士というのは存在しない。
街にいるのは軍務を外れた退役軍人の回復士だ。
だから、回復魔法を学べる場所というのは軍の訓練施設のことだ。
これを聞いたとき、俺は、『はぁ? なんで教えてあげないんだ? リナは軍の訓練所って知らないぞ! 皆でリナのことを騙すつもりか!!』って憤りを感じ暴れそうになった。
しかし、これには理由があった。
小隊の皆の前で、リナが回復魔法を使えてしまったからだ。
軍人は回復魔法を使える者、もしくは素質を持っている者を発見した場合、速やかに軍の司令部に報告しないといけないと軍法に定められており、それに違反すると軍法会議にかけられ重い刑罰が科せられるそうだ。
ハンスさんは、最初にエルザさんからリナが回復魔法を使えるかもって聞いたときは、リナを説得して自発的に志願兵としてマグリーナに行かせるつもりだったようだ。ところが、村の状況を聞いてしまうと、リナを村から引っ張り出してまで軍に連れて行くのが正しいことなのかと悩んだ。
ちなみに、エルザさんは、軍法をろくに覚えていないので、もしリナを村に残す場合はごまかしてしまう予定だったらしい。
いや、それもどうかと思う。バレたら重い罪になるんだろう! それならエルザさんに軍法を教えてあげた方が良いと思うが?
まぁ、その悩みは結局、無くなってしまった。戦闘中にハンスさんを回復魔法で治療してしまったのだ。その結果、小隊メンバー全員にリナが回復魔法が使えると知られてしまい、リナの事を隠すという選択肢が無くなってしまったのだ。
今回、リナ自身は気が付いていなくても、本人が自ら志願兵として出向いた扱いになるので待遇は随分と良くなるそうだ。もし、回復魔法が使える者が居たという報告だけすると、後日、徴兵という形でリナは連行される羽目になったらしい。これは、隠していたとか、隠れていたとか疑われて、連行された本人も印象が悪くなり、入隊後の待遇に大きな差が出るそうだ。
エルザさんは、入隊してから回復魔法の素質があるってわかったので問題は無かったが、ハンスさんの知り合いで徴兵された回復士がいたそうだ。その人は良い師に会わせてもらえずに下級回復士のまま、前線ばかり担当させられて戦死してしまったと言っていた。非協力的だとか愛国心が無いだとか判断され、それでも敵国に渡るのを恐れて飼い殺し、または、使いつぶしという状態になる。
リナは入隊することに否定的だった。
おそらく理由を説明しても、村を残して自分だけ出ていくことに納得できず、最後は強制的に徴兵されたかもしれない。それは最悪の印象を与える徴兵になるだろう。それなら、騙された形でも自分で行った方が良いし、村長や父さんも外の世界を見てほしいという思いもあったのでハンスさんの考えに乗っかる形を取ったようだ。
あ、紹介状を書くにあたって、ユリアンと言う人が、何やら心底勘違いしているってハンスさんは気が付いたけど、そのままにしておいたって言っていたな、あれはどういう意味だったんだろう?
いや、リナの事ばっかり気にしてしまうが、俺自身も、もっとしっかりしないと駄目だ。俺も守備隊の見習いとしてやるべきことは分かっているつもりだが、リナは俺よりはるかに先に進んでしまっている。焦る気持ちと、寂しさで心が締めつけられる。
「もっと、強くならないと……父さんのように」
父さんの教えは厳しく、時に容赦がないけれど、剣術の腕はたしかだ。
俺がリナに少しでも追いつくためには、父さんから剣術を教わることが、……いや、違う!
教わったことを自分で何度も繰り返して、体にしみこませないと駄目なんだ。
剣を握りしめ鋭く空を切る。寒さで指先がかじかむ中でも、俺は歯を食いしばり、ひたすら鍛錬に打ち込む。俺はもっと強く、父さんのように人から頼られるような存在になりたい。自分自身も、そしてこの村も守れるようにならなければならない。そのために今できることは、鍛錬に励むことだけだ。
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