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第129話:王都決戦――シリルの進軍

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「本隊の規模は……?」


エドワード王子の問いに、伝令の騎士は息を切らしながら答えた。


「少なくとも、二万を超える大軍です!」


「……二万!?」


フランチェスカが驚きの声を上げる。


私も衝撃を隠せなかった。


(たった今、魔導強化兵を撃退したばかりなのに……今度は二万の本隊!?)


「それだけじゃありません!」


伝令は続けた。


「シリル王子が、自ら軍を率いて進軍中とのことです!」


「……!」


私は息をのんだ。


「シリル王子が……前線に?」


ウィジアナ共和国の軍事力を背景に暗躍していたシリル王子が、ついに王都へ乗り込んでくる。


「王都を直接奪いに来る気ね……!」


クララが険しい表情で言う。


「今度は、魔導強化兵だけじゃ済まないわね……」


サンドラも腕を組みながら唸る。


「戦力差がありすぎる……」


カール曹長が歯を食いしばる。


確かに、王都の防衛軍は先の戦いで疲弊しており、まともに戦える兵士は多くない。


現在、王国軍が王都に集められている兵力は約七千。

対するウィジアナ共和国軍は二万以上――数で圧倒的に不利な状況だった。


王宮の作戦室に戻ると、エドワード王子を中心に、王国軍の将校たちが集まっていた。


「――状況はわかったな」


エドワード王子は鋭い目で全員を見渡す。


「この王都を、何としても死守しなければならない」


「しかし、殿下……」


参謀の一人が重い声で言った。


「兵力差は歴然です。まともに戦えば、こちらが不利なのは明白です」


「だからこそ、持久戦に持ち込むしかない」


エドワード王子は王都の地図を指し示しながら言った。


「王都の城壁を最大限に活用し、徹底的な籠城戦を行う」


「……籠城戦?」


私は地図を覗き込みながら呟いた。


(確かに、王都の防壁は強固。でも……それだけで持ちこたえられる?)


「しかし、籠城戦では時間稼ぎしかできません」


クララが冷静に指摘する。


「増援が期待できない状況では、いずれ消耗してしまいます」


「その通りだ」


エドワード王子は頷いた。


「だからこそ、籠城戦の間に“決定打”を打つ必要がある」


「決定打……?」


「シリル王子の首を取る」


エドワード王子ははっきりと断言した。


「敵の本隊を全滅させるのは難しい。だが、指揮官であるシリルを討てば、敵の戦意は崩れる」


私は息をのんだ。


「……つまり、籠城しつつ、シリル王子を討つための奇襲部隊を編成する ということですね?」


「その通りだ、リナ中尉」


エドワード王子は私を見つめた。


「そして――その奇襲部隊に、お前たち特殊魔導小隊 を任命する」


「……!」


「私たちが……シリル王子を討つ?」


私は驚きながらも、エドワード王子の言葉を噛みしめた。


「お前たちは、魔導強化兵を打ち破った実力を持つ部隊だ。今回の作戦は、敵の中枢を叩く奇襲作戦になる。戦場のど真ん中に飛び込む危険な任務だ。

また無茶言ってしまってすまないが、小国の我が王国では、正攻法に頼っても勝ち目はないのだ」


エドワード王子は真剣な表情で言う。


「だが、これが最も勝率の高い戦法だ」


私は少し考えた後、強く頷いた。


「……わかりました」


「リナ……大丈夫なの?」


フランチェスカが心配そうに尋ねる。


「ええ」


私は短槍を握りしめた。


「……私たちがやるしかない」


「籠城戦で持ちこたえている間に、私たちが敵本陣へ奇襲をかける。シリル王子を討つことができれば、戦局は一気に変わる」


「……ふふっ」


サンドラが笑った。


「まったく、また無茶な作戦ね」


「でも、これしかないのなら、やるしかないわね!」


スカーレットが元気よく拳を握る。


「面白そうじゃない!」


ビアンカも微笑みながら、弓を構える。


「……生き延びましょう」


クララが静かに呟く。


「そうね」


フランチェスカも笑った。


「ここで王都を守り切れなければ、私たちの未来もないのですから」


「よし!」


私は仲間たちを見渡し、強く頷いた。


「シリル王子を討って、王都を守る――やるわよ!!」


「おおおおおっ!!」


仲間たちの士気が高まり、王都決戦に向けた準備が始まった――。


夜明け前――。


王都の城壁の上には、無数の松明が灯されていた。


ウィジアナ共和国軍は、夜明けとともに進軍を開始する。


「リナ中尉、すべての準備が整いました」


カール曹長が報告する。


「ええ」


私は深呼吸し、王都の城門へと目を向けた。


そして――。


遠くの地平線から、黒い波のように押し寄せる敵軍の大軍勢が見えた。


王都決戦の幕が上がった。



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