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第118話:シリルの暗躍――王国の売買

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私は短槍を握りしめながら、黒いフードを被った男たちを追いかけていた。

王都ベルハルトでの暴動を鎮圧した直後、遠くからこちらを監視していた男たちだ。


(間違いない……この暴動を裏で操っている連中!)


男たちは狭い路地へと逃げ込んだ。


「逃がしませんわよ!」


フランは盾を持ったまま走っている。ちょっと重そうだがフランは気にしてないようだ。


「あ、待って、リナさん!」


クララが私の隣に駆け寄る。


「この先、用水路があります。おそらく、そこに逃げ込むつもりかもしれません!」


「本当!?」


「ええ。前に、スカーレットと一緒にこのあたりを歩いたことがあるのです」


私は迷わず決断した。


「クララ、お願い!」


「……承知しました」


クララは私と並走しながらタイミングを見ている。


曲がり角を曲がって、追い続けていくと、確かに自然の川とは違う人工的な水路があるような感じがする。

何と言えば良いのか分からないが、道の前方を遮るように欄干が見えるのだ。

おそらく、その欄干の向こうは用水路になっていて、道はその用水路に沿って折れ曲がっているのだろう。


「アイスアロー!」


――ヒュンッ!


逃げる男たちを越えて欄干の向こうに消えていく。

ん? 外れたのか?


「アイスアロー!」


すぐさま、第二の氷の矢が放たれた。

鋭い氷の矢が飛び、逃げる男たちの足元を凍らせる。


「うわっ!」


一人の男がバランスを崩し転倒する。それでも他のメンバーは欄干に向かった走っていく。


「あ、逃げられる」


欄干を飛び越すように用水路に向かって飛び込んだ。


ゴン!


「捕まえました! 捕まえましたが、リナさん……彼ら頭から血流していますけど……」


フランの声を聞き近づくと、そこには頭から血を流している者、腕が変な方向を向いている者、意識が無い者と様々な感じでに横たわっていた。


なるほど、用水路を凍らせたのか。

その氷に向かって勢いよく飛び込んだんだな。


「リナさん、そろそろ出ないと、せき止めている水が溢れますよ!」


クララの声で慌てて、フードの男たちを引っ張り上げてもらった。


「この者たち、どうします?」


カール曹長が尋ねる。


「王宮騎士団に引き渡しますか?」


「……いいえ」


私はすぐに首を振った。

王宮騎士団には、シリル殿下の影響があるかもしれない。


「エドワード殿下が直接指揮している近衛騎士団に引き渡しましょう」


「……なるほど」


カール曹長は納得し、すぐに伝令を飛ばした。


しばらくすると、鎧に王家の紋章を刻んだ近衛騎士団が到着する。


「エドワード殿下の命により、捕虜を引き取る」


「よろしくお願いします」


私は敬礼し、捕虜たちを彼らに引き渡した。

これで、シリル殿下や事件に加担した貴族の手が届かない場所で尋問ができる……。

しかし、これで終わりではなかった。

近衛騎士団の騎士が、私たちに新たな指令を告げた。


「リナ・アレン中尉、エドワード殿下がお前たちに極秘任務を託したいと仰っている」


「極秘任務ですか……?」


私は、騎士の言葉に耳を澄ませた。


「エドワード王子が、君たちにシリル殿下の取引の証拠を掴む任務を託したいと仰っている」


「シリル殿下の……取引?」


私は思わず眉をひそめた。


「詳しくは殿下自ら説明される。すぐに王宮へ向かってほしい」


「……わかりました」


私は、騎士の言葉を聞いただけで、また面倒ごとを頼まれるのだと理解したが、殿下からの依頼を

無視するわけにもいかない。私は仲間たちに目を向け、頷く。


「全員、王宮に向かう!」


「はぁ、大尉はまだ入院中かな?」


「そうだと思いますよ。結構大きな怪我で出血量も多かったので、しばらく安静にしておいた方が良いのでしょう」


私のつぶやきにビアンカが答えた。そうなのだ。大尉は今、入院しているのだ。エドワード王子に死にかけた話をしたら強制入院になってしまったのだ。まぁ死にかけたのではなく、一度、死んだんだけどな。

私の最上級回復魔法については、まだ話していない。色々と重なって話している暇が無かったと言うのもあるが、そもそも王家が信用できるのかってところが不安なんだ。



王宮の作戦室に通されると、エドワード王子殿下が待っていた。


「よく来てくれた、リナ中尉」


殿下は机の上に何枚もの書状を並べていた。


「これは……?」


「シリルがウィジアナ共和国と交わした密約の証拠だ」


私は驚いた。


「王国の機密情報、人身売買、不正薬物取引……こんなことを?」


「そうだ」


エドワード殿下は険しい表情で続ける。


「シリルは、王国の機密情報をウィジアナ共和国に流し、対価として金と兵を得ていた」


「……!」


「それだけではない。王都内で誘拐された者たちは、ウィジアナ共和国を経由して奴隷として売られていたことが判明している」


私は強く拳を握る。


(王国を……自ら売ろうとしているのか!?)


「では、私たちは何をすれば?」


私は殿下の指示を求める。


エドワード殿下は冷静に答えた。


「ウィジアナ共和国の議員が、密かに王都内に潜入している。近衛騎士団と協力して、その議員を捕らえよ」


「……了解しました!」



作戦は即座に実行され、私たちは近衛騎士団と共に、ウィジアナ共和国の議員が潜伏しているとされる屋敷へと向かう。


「静かに……」


私は短槍を構えながら、慎重に屋敷へと侵入した。


(敵の警備は……?)


「門に二人。中に数人の護衛がいるようです」


ビアンカが観察しながら小声で報告する。


「なら、二手に分かれて……突入するが、護衛も気にせず全員捕まえろ! 邪魔なら倒して構わん!」


私は指示を出し、カール曹長を先頭に正面突破を仕掛ける一隊と、私たちが裏口から回る一隊に分かれた。裏口に居た護衛を三人、物音も立てることなく倒す。


――ガチャッ!


裏口の鍵を外し、中へ侵入する。

何やら複数人の話し声がする部屋がある。


「失礼しまーす」


扉を開けた途端、薬瓶を放り込む。


ドサ!


はい。片付いたみたいですね。やはり密閉された空間に睡眠薬は無敵だな。

いや、ある意味最強は下剤なんだが、制圧するにはこっちの方が後が楽だ。


順番に部屋を覗いていく。


「あ……いた!」


豪華な装飾が施された部屋の中に、一人の男がいた。


「何者だ!」


「おとなしくしてもらう!」


私は短槍を突きつける。


「ふん……!」


男は何かを叫ぼうとしたが、背後から忍び寄って来たカール曹長が素早く口を押さえ、捕縛する。


「捕らえました!」


「よし、王宮へ連行する!」


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