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第114話:新たな脅威――王国内の混乱

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「……これで、本当に終わったのね」


私は砦の壁に寄りかかりながら、戦場の静寂を感じていた。


戦いは終わり、王国軍は勝利を収めた。


帝国軍の撤退により、砦は守られた――けれど、それはまだ戦争の終わりではない。


「リナさん、大丈夫ですか?」


フランチェスカが優しく声をかける。


「ええ、少し疲れただけ」


私は微笑みながら答える。


「そりゃ、疲れるわよねぇ……あれだけ戦って、治療して、策を考えて……」


スカーレットがぐったりと座り込む。


「でも、戦場での勝利が王国にとって大きな意味を持つのは間違いないわ」


ビアンカが遠方を見つめながら言った。


「そうだな……少しでも、この戦争が終わる希望になれば」


私はそっと手を握りしめた。


しかし、そんな束の間の安堵も長くは続かなかった。


「緊急報告!!」


砦の門から、王都からの伝令兵が駆け込んできた。


「王都で……暴動が発生しました!!」


「暴動……?」


私は伝令兵の言葉に耳を疑った。


「どこで起きたんだ?」


レオポルド准将が厳しい表情で問う。


「各地で発生しています! 特に王都と周辺都市での暴動が激しく、治安維持部隊だけでは鎮圧が困難な状況です!」


伝令兵の報告に、砦にいた全員が息をのんだ。


「暴動の原因は?」


アンジェリナ大尉が尋ねると、伝令兵は答える。


「ウィジアナ共和国から流入した者たちが煽動しているとの情報があります」


「ウィジアナ共和国?」


私は違和感を覚えた。


(ウィジアナ共和国は商業国家のはず……王国に直接介入するような動きをするのかしら?)


「さらに、一部の暴動では第三王子シリル殿下の派閥に属する貴族たちが関与しているとの情報もあります」


「……!」


私は思わず拳を握った。


シリル王子が、暴動の黒幕……?


でも、シリル王子は、私が王都図書館の地下書庫に入るための閲覧権限をくれた人だった。


「それが事実なら、これはただの暴動ではない。内乱だ」


アンジェリナ大尉の言葉に、場の空気が張り詰めた。


「王国軍はどう動く?」


レオポルド准将が伝令兵に尋ねる。


「エドワード殿下が、すでに対策を指示されています!」


エドワード王太子――王太子であり、王国の正統な後継者。


「リナ中尉、あなたたち特殊魔導小隊にも出動命令が下っています!」


「私たちに……?」


私は思わず伝令兵を見つめる。


「はい。王都に向かい、暴動鎮圧の任務にあたってほしいとのことです!」


「……すぐに準備をして出発しましょう!」


アンジェリナ大尉の号令で、私たちは王都へ向けて出発することになった。



私は馬に乗りながら、徐々に見えてくる王都の姿を眺める。


(王都が……燃えている……。)


王都の一部では、煙が立ち上り、混乱が広がっているのが見えた。


「本当に、何が起きてるの……?」


私の胸に不安が広がる。


しかし、王都へ到着するや否や、私を待ち受けていたのは――


王太子エドワード・ルーシスだった。


「よく来てくれた、特殊魔導小隊」


黄金の刺繍が施された軍服を纏い、厳格な表情で立つエドワード王太子は、戦場での疲れを見せることもなく、堂々としていた。


彼の背後には近衛騎士たちが控え、周囲には宮廷魔導士らしき者たちの姿も見える。


(やっぱり、王都の状況は尋常じゃない……。)


エドワード王太子殿下は私をじっと見つめる。


「君が、リナ・アレン中尉だな。君には聞きたい事があるので、少し別室まで付き合ってもらおう」


ん? 別室、思わずアンジェリナ大尉の顔を見たが、彼女も当然聞かされていないようで困惑しているようだ。

しかし、王太子殿下の言葉に逆らう訳にはいかないので、彼の後についていくことにした。


王太子殿下とあった広間よりはこじんまりとしているが、それでもさすが王城内だけあって、十分な広さがある部屋に通された。


「殿下、私に聞きたいこととは何でしょうか?」


「うむ」


再びエドワード王太子殿下は私をじっと見つめる。


(……なんだろう、この視線)


私は殿下と初めて会うわけではない。王都で士官学校に通っていた頃、公式行事で遠くから姿を見たことはあったが、直接話すのはこれが初めてだった。


けれど、彼の目には何か、探るような鋭い光が宿っている。


(私を……疑っている?)


殿下はゆっくりと口を開いた。


「君は……王都図書館の地下書庫に入る権限を持っていたそうだな」


「……!」


その言葉に、私は思わず息をのんだ。


なぜ、それを? あの図書館に勤めていた司書さんに聞いたのか??


「その閲覧権限は、第三王子シリルから与えられたものだったと聞いている」


殿下の視線が鋭さを増す。


私の胸の奥が、嫌な予感でざわめいた。

つまり、エドワード王太子殿下は……私とシリル殿下が繋がっている可能性を疑っている!?


私は落ち着いて、できるだけ冷静に答えることにした。


「はい。シリル殿下から閲覧権限を頂きました。それがなければ、私は王都図書館の地下書庫に入ることはできなかったでしょう」


「……やはりそうか」


エドワード王太子殿下は腕を組み、深く息を吐いた。


「それにしても、あの火災が起こった時、君は運よく生き延びたそうだな」


「ええ……正直なところ、一歩間違えていたら、私は地下書庫で焼け死んでいたはずです」


私は王子の目をまっすぐ見つめて言った。すると、王太子殿下は話の続きを促すように頷いた。


「当時、私は士官学校の生徒でした。そして事件のあった当日、元々は予定していなかった講義に空きが会ったので、興味本位で飛び入り参加してしまいました。そのため、図書館に到着するのがいつもよりも遅れたのです。もし、普段通りの動きをしていたら、私は逃げ場の無い地下で火災に巻き込まれて死んでいたかもしれません」


エドワード王太子殿下はしばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。


「……なるほど」


彼の表情が、ほんのわずかに和らいだ。

おそらくだが、彼は私がわざわざ言わなくても、裏どりは出来ているのだと思う。そうじゃないと、私が口で言っただけで、はい分かりました。とはならないだろうな。


「君がシリルと直接繋がっているわけではないことは理解した」


エドワード王太子殿下はそう前置きした上で、静かに言葉を続けた。


「しかし……君がいた王都図書館の火災には、アズスター帝国は関与していない」


「……えっ?」


私は一瞬、耳を疑った。


「しかし、以前に宮廷魔導師のレイヴァンさんとテロリストの拠点に乗り込んだ事がありますが、その時にアズスター帝国の紋章の入った書類が見つかりましたが……」


「ああ、聞いているよ。焼け残っていたようだな」


そうだ。あの時、テロリストたちは証拠を隠滅しようとして、資料などを焼いた形跡があったのだ。

その燃えカスに紋章が入った紙が見つかったのだ。


「君は、正式文章に押す紋章印を見たことがあるかな?」


「はい、シーリングスタンプですよね。辞令にも押されているので見たことあります」


「ならば、わかるだろう。あれは封蠟だぞ」


「……あ! あぁ、何故、今まで気が付かなかったのだろう。蝋が燃え残る訳が無い! 燃えなくても熱で融けてしまう」


「そういう事だ。あれは偽造だ」


そうなると、あのテロリストたちは帝国の関係者ではない……?


「正確には、アズスター帝国を装った者たちが関与していた。」


「それって……つまり?」


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