誰もいらないなら俺が欲しい
君の生きる意味になりたい
あの子とは、配信で偶然出会った。彼女はまだ17歳の少女で、俺は成人した男。年齢差があるから、最初は軽い会話程度だった。彼女はリスナーとして俺の配信に頻繁に来てくれていて、コメントを通して存在感を感じさせた。彼女の言葉は鋭くて、でも
どこか優しく、少しの間だけでも、俺の平凡な日常を明るくしてくれた。
しかし、ある日突然、彼女は姿を消した。いつもいたはずの彼女が、もうコメント欄には現れない。配信者として、リスナーがいなくなることはよくあることだけど、彼女の場合は何かが違った。気になって、俺は思い切って彼女に直接連絡を取った。
「最近どうしてる?」という、何気ないメッセージを送ったが、実際は胸の奥で緊張していた。彼女からの返信があるかどうかも分からなかったし、なぜか心配でたまらなかった。
しばらくして、返事が届いた。彼女は「ちょっと忙しかった」と言っていたが、その言葉の裏に何か隠しているような気がした。もしかして、何かあったのか?あの子は、今どうしているのだろうか?
あの子との会話が深まるにつれて、彼女は少しずつ自分の置かれている状況を話してくれるようになった。その内容はあまりにも残酷で、聞いているだけで胸が締め付けられた。彼女はバイト先の店長に裸の写真を撮られ、それをネタに脅されていた。さらに、暴力を振るわれることもあったという。そんな状況で彼女はずっと苦しんでいた。
俺は「録音をしたり、誰かに相談してみたら?」と提案したが、誰も彼女の話を真剣に取り合ってくれなかったらしい。最も頼りにしている母親にすら話したが、その店長は母親の彼氏で、彼女の訴えは全く信じてもらえなかったという。彼女の置かれた環境は想像を絶するもので、俺はどうすればいいのか悩んだ。
助けたい気持ちは強かったが、実際に何をしてあげられるのか分からない。SNSを通じて出会った俺ができることなんて限られている。けれど、彼女の「推し」であることが少しでも力になれたらと思い、できるだけ明るい話題を提供しようと努めた。映画を一緒に見たり、電話を通して笑わせようとしたり、少しでも彼女の嫌な時間を忘れさせてあげられればと思っていた。
しかし、状況は一向に改善しなかった。むしろ、日に日に悪化しているようだった。警察にも相談したが、「証拠がない」という理由で取り合ってもらえず、彼女は絶望の淵に立たされていた。そして、ある日、彼女が「事務室で犯されそうになった」と打ち明けた。その時、幸運にも母親の彼氏の奥さんがタイミングよく現れ、なんとかその場を逃れたという。
俺はただ画面の向こうで無力感に苛まれた。自分にできることは、限られた「推し」としての時間を提供することだけ。それでも彼女を支えたいという気持ちが強くなるばかりだった。
だが現実は残酷であり、日に日に暴力が悪化して、意識を失う事や胸を触られたりと、同じバイト先の人間は見て見ぬをしており、彼女からはバ先の男の人も一緒に何かするのではないかと日々恐怖をしていたらしい。
警察に相談しても物的証拠がなく、カメラの録画は消されており、徹底的に計画された犯行をしていた。だか警察もバイト先を今月で辞めさせる事。店長も辞める事と約束してくれて、良い方向に向くと思っていた。俺自身も。
だがそんな事はなく暴力はエスカレートし、録画などの対策の為に携帯はロッカーにしまわされて、裸にされたらしい。その時に奥さんが来て助かったが来なかったら何をされていたかは想像がつくだろう。
バイト先を辞めることができたと、彼女は笑顔で話してくれた。その時の彼女は少し明るくなっていて、俺も少しだけ安心していた。しかし、翌日、彼女は配信に来なかった。心配になって理由を聞くと、返ってきた答えは想像を超えるものだった。
「奥さんと離婚して、家を追い出されたから、母親の彼氏がうちに泊まることになったの。」
それは、彼女にとって本当の地獄の始まりだった。最初の暴力は、深夜に家族が寝静まった頃に始まった。彼は彼女の部屋に忍び込み、鍵を閉めて痣ができない程度に暴力を振るう。日を追うごとに、その暴力はエスカレートしていった。ついには、家族がいるリビングでも彼女を叩くようになったという。
それでも、彼女の母親は何もしてくれなかった。母親はネグレクト状態で、彼女の弟だけを大事にしていて、彼女の苦しみに目を向けようともしなかった。彼女がどれほど苦しんでいても、母親は無関心で、助けを求めることさえできない状況だった。彼女が愛されていないことは、その話を聞いて俺にもはっきりと伝わった。
俺は「家にカメラを置いてみたり、散歩の帰りにスマホで録音したりして証拠を集めた方がいい」と何度も提案した。しかし、彼女はその提案に対して怯えたように言った。「もしバレたらどうすればいいの?」と。彼女の被害者思考はますます強くなっていて、自分だけが我慢すればすべてがうまくいくと信じ込んでいた。彼女は「私は強い子だから、大丈夫」と言い聞かせるように話していたが、その言葉は痛々しく響いた。
俺には、彼女が典型的な虐待を受けている子供のように見えた。心の中で、彼女は目を閉じ、耳を塞ぎ、恐怖に震えながら嵐が過ぎ去るのを待っているように思えた。彼女の強がりは、むしろその状況に耐えるための唯一の手段だったのかもしれない。
だけど、そのまま耐えていても、彼女が壊れてしまうのは時間の問題だと感じた。何とかして彼女を助けたいが、俺にできることは限られている。それでも、彼女の「推し」である俺は、せめて彼女に少しでも希望や安心感を与えられるように、話を聞き続けた。
彼女の状態を聞いて、俺は心が押し潰されそうになった。もし彼女が自ら命を絶ちたくなった時には、最後に通話をして楽しい話をして、天国でも最高の思い出を作ろうと約束した。「逃げるのはずるじゃない。だって誰も手を差し伸べてくれない世界で、君は何を夢見て過ごせばいいんだろう?」と心から感じた。彼女には逃げる選択肢すら許されていないのだと痛感した。
彼女がまた配信に現れなかった。特別な配信の日だったのに、彼女の不在は心配を呼び起こした。すぐに連絡を取ったところ、彼女からの返事は衝撃的だった。彼女は性的虐待を受けたと言い、自分の価値や存在について悩んでいた。「私は汚れていない?私はここにいていいの?」と、彼女の声には深い疲労と絶望が感じられた。自らの存在を否定するほどに疲れ果てており、恐怖さえも麻痺していた。
彼女の苦しみを聞いた瞬間、俺は心が締め付けられるような感覚に襲われた。これ以上彼女の辛さを耐え続けるのは無理だと感じ、どうにかして支えたいという強い気持ちが芽生えた。彼女が自分自身をどうにかしようとする姿を見て、彼女がこの状況から解放される方法を考えなければならないと痛感した。
「逃げるのもいいよ。こっちにおいで、匿ってあげる。楽しい世界を見せてあげる」と何度も伝えたが、彼女にはその言葉を信じることが難しかった。彼女は家族を頼ったことがない上に、SNSで出会った俺の言葉をどう信じればよいのか分からなかった。信頼を築くために、通話の回数を増やし、自分の個人情報を共有して、少しでも彼女に安心感を持ってもらえるように努めた。
その後、俺たちはこっそりと移転届を出して逃げる計画を立てた。しかし、その計画は実行できなかった。彼女が17歳だったからだ。彼女はその時、19歳だと俺に言っていたが、その嘘は彼女自身の罪悪感を増すだけだった。自分の年齢を偽ることで、自信を失い、さらに苦しむ羽目になっていた。
さらに、彼女の保険証やマイナンバーは親が常に持っており、母親の彼氏も常に近くにいるため、身分証を回収することができなかった。物理的にも精神的にも、彼女の状況は抜け出せないほど厳しかった。
その状況の中で、俺はただ一つの希望を抱いて、彼女が少しでも心の支えを得られるようにと思いながら、支え続けるしかなかった。
手が届かないもどかしさ