セカンドトレーニング 01
「じゃあ、俺と春波は別の場所でトレーニングしてるから」
そう言って、青柳と春波は部屋の外に出て行った。
その瞬間、由里さんが指をパチンと鳴らした。
すると、狭かった部屋が急に東京ドーム並に広くなり
そして高い足場が俺達の地点と、遠くの地点に現れた。
「このビルはトレーニングビルとも呼ばれててね、
このビルのあらゆる場所はトレーニング場にできるのよ。
今私が作ったのは、空中ロードのステージをできるだけ再現したものよ」
空中ロードのステージか……。確かに似ている。
けれど、空中ロードとは明らかに異なる点があった。
それは、二つの地点の距離が異常に離れてるということと、
風が全くといって良いほど吹いていないということだった。
「春波から聞いたんだけど、あなた風を読んで道を探っていたのよね?」
由里さんがにこっと笑顔を作ってたずねる。
俺はこくりと頷く。瞬間、由里さんの顔が強張る。
「でもそれじゃ駄目なのよ。
あなたはその脚をもっと生かせる様にならなきゃ駄目。
それにはあなたの脚で道を感じ取れるようになるくらい、
経験を積んでいかなきゃ駄目なのよ」
そう言って由里さんはポケットからストップウォッチを取り出した。
「3分。3分でこの空中ロードを渡り切りなさい」
「3分!?」
「ええ。できるわよね?」
俺が無理ですといおうとした瞬間、由里さんが笑った。
「無理ですとか言ったら殴り飛ばしてしまうかもっ」
怖い。この人は怖い。
語尾に「っ」を付けたのが逆に怖い。
確かにこの人はユリじゃない。薔薇だ。
俺は仕方なく、向こう側の地点を見た。
確かに今の俺の脚なら全速力を出せばいけるだろう。
ただ、全速力を出しても道から落ちたら意味が無い。
俺は仕方なく崖の淵に立った。
風が吹いていないので分かりにくいが、
空中ロードと同じように再現しているのなら、
途中までは俺がたどった道のりと同じように走れば大丈夫だろう。
由里さんがストップウォッチを掲げる。
「準備はいいわね?」
「はい、いいです」
「じゃあスタート!!」
そう言って由里さんはストップウォッチを鳴らした。
俺はその瞬間、勢いよく一歩を踏み出した。
しかし、そこでアクシデントが起こった。
「道が無い……?」
俺は由里さんを見た。
彼女はまったく変わらない笑顔でこう告げた。
「空中ロードのステージをできるだけ再現したのよ。
できるだけね。でも道は作ることが出来なかったわ」
「うそだろおぉぉ……」
俺はあの時と同じように崖から真っ逆さまに落ちていった。