はじめての食べ物
96話 はじめての食べ物
門をくぐるなり。
一番前の大きな家から、黄色い道着を着た男女たちが現れ、ボクたちの前に並んだ。
そして、大きな扇子をあおぎなが白髪、口ひげの男がゆっくりと歩いて中央にたった。
後ろの連中は、その男にか、ボクたちにか、わからないが。
「押忍っ!」
と、声を揃えて言った。
「ようこそ、華中最果ての地グァイビへ」
「そなたは?」
「申し遅れました。私、グァイビの町長をしてますハイ・ワンシンという者で、そこの道場は私の経営です。この町の治安を守っているのが、私のマントラ道場で。お泊りは決めてあるのですか?」
「いや、我々ははじめ来たので。宿は?」
「宿はありません」
「え、ココには宿がないの、じゃ外で野宿?」
「いや、お嬢さん。ウチの道場が、宿代わりになってます。この辺境の地には武者修行や武術研究等の客がほとんどで。当道場にて、学び、武術を教えて行かれると言う方々が……」
「なるほど武術がカネ代わりみたいな物か」
「さよう、ここでは強さに価値が」
なんて、言ってるが強ければ何でもありな町らしい。
物を手に入れるのは強さか。
「わかりました。では、貴君の道場でお世話になりますか」
「おい、あの方たちを案内しなさい」
「押忍!」
「では、こちらへ」
道場という建物に入ると広い道場だ。
練習器具やら鍛錬器具が置かれている。
皆、外に出てるので中で練習している人は居ない。
そしてソコを通りまた、広い部屋に。
そこには武術家らしい人間が数人。
「この部屋で、お休み下さい」
「え〜嘘でしょう。ただの広間で寝泊まりするの。ねぇあんた、この町にはホントに宿はないの?」
「ありません」
どう見たって女に飢えてそうなのがゴロゴロしてるじゃない。チャオとあの部落に居れば良かったわ。
「ブタは入れちゃだめだと馬小屋に……。まあ当然だろうが、ブタみたいのは居る」
部屋の隅にイビキをかいて寝ている坊主頭のおっさんのことか。
たしかにブタみたいに太ってる。
槍や蛮刀、剣と多彩な武術家が居る皆、さっきみたいにココに。
「あんたらは今、ココに?」
「町にはついたら、即ココに通された」
「俺も同じだ」
声をかけてきた男は部屋の隅、寝ているブタ男の逆の隅に居た。
男は剣を持ち座っている。
僕よりは歳上だろう。
「あの、毛布を人数分と。ココに名を」
「あ、ボクは字は書けない」
「他の方は?」
「私が代筆しよう。字は何でもいいだろアロン」
「師匠にまかせます」
「あの、この字は?」
「あたいの国の字だ。それしか書けん」
「はあ……で、なんと?」
「ウーサイだ、覚えておけ!」
門弟がなにやら書き込んだ。
「食堂はないのかな?」
「お泊りの方にはお食事も」
「酒は?」
「用意します」
「この町は、よそ者は外に行けないのか? 女は?」
「ソレは我慢していただきたい……。わが道場の武法の一つは禁欲なので」
「なんだ、そんな武法があるのか? ソレは珍しいが……門弟は皆」
「はい、女を絶ってます」
「それは、悲惨だな。キミたち人生を半分損してるぞ」
「師匠、女を絶ってるの損なんですか」
「そりゃ当然だ……キミたち、その武法は直ぐやめなさい。不幸になりますよ」
「そういうわけには……ウチの師匠は」
「坊さん、そんなのやってる奴らの自由だろ。おせっかいだ」
また、隅の男が。
「女を絶って強くなれれば苦労しねぇよ。俺は武術を極めるために女房と分かれたが、なかなか……強くなれねぇ」
壁の真ん中に座ったボサボサ頭でヒゲはボウボウのボロボロの着物を着たおっさんだ。
「ほう、女を絶ってるのに成果が出てないという者がいるではないか……」
「しかし、コレばかりは師匠には逆らえません。法を破ると破門だけですみません……あ、長話をしてしまった。では、私はコレで」
「いろんな、武術がありますが。あるんですね女を絶つ武法が」
「ソレは、私にとっては邪道だ。女を絶って強くなる意味がわからん」
「だよなぁ。さっき出てきた門弟に女も居たよなぁ。あいつらは男を絶ってるのか?」
「ソレはかわいそうな気も……」
リァンもそう思うのか。
「男女交際のどこがいけないのかしら」
しばらくして、さっき来た門弟がまた来た。
「コレはお食事です。コレから後半の稽古が始まりますから、食べておいてください」
「ナニ、コレは食べたことない?」
なんだ白い玉のようなものに黒い紙みたいのが巻いてある。横に白い野菜のような物が。
「あんたら、ソレは初めてか? そいつはにぎり飯って言って海の向こうの極東の島国で作られたのをある武芸者が持ち込んで、この国でも食べるようになったと聞いた。毒はねぇ美味いから食べてみろ。白いのは米だ」
言われてみれば白い玉は小さな粒がかたまっている。
野菜は塩味だ、塩に漬けてあるんだろう。
にぎり飯の黒い紙みたいのは海藻の干したやつでノリというそうだ。
米も塩味で美味いが、中に酸っぱい木の実のような物が。
「酸っぱい、コレ腐ってません!」
「そいつは梅干しだ、塩で漬けてある。それも極東の珍味で暑いときには体に良いそうだ」
「あなたは、いろいろ詳しいですね」
「ああ、あっちこっち旅したからなぁ」
「スー・チーアル殿、道場におこしください」
「おう、今行く!」
あの人はスー・チーアルというのか。剣を持ってるから剣術使いかな。
つづく




