保安長が来た
90話 保安長が来た
「は、聞こえないなら大河酔拳で耳の穴を大きくしてやるよ!」
「おもしろい、お嬢ちゃんやるかい」
「待てよ、せっかくの新鮮な小娘だ。裸踊りでもしてもらおうか」
前に出た男は両手に短剣を持ち蟷螂拳のかまえをとった。
「チャオ、あいつ刃物を出しちゃたよ。今度はあたしにやらせて」
「ハイッ!」
ひと跳ねし、あたしらの真ん中に躍り出た男は両脇へ剣を振るった。
「ナニ!」
「なにする気だったんだおっさん!」
チャオは親指と人差し指で短剣を掴み止めたが、あたしは思わず剣をぬいてしまった。
ポトッと音がした。
「ウワァ手が!」
「あ、ゴメン。痛かった?」
ちょっとしてから斬り落とした腕から血飛沫が。
あたしは汚れないように横に跳んだ。
チャオは掴んだ剣ごと後ろへ投げた。
後から来た小斧を持った男に当り。
「グギャ!」
こちらにもう一人が剣をぬいて来た。
あたしはもう1本、剣ぬきそいつの横腹をバツの字に斬った。
「ヒッ」
男は剣を落とし脇腹をかかえて転げ回った。
「痛ててて」
「浅めに切ったから少し痛いかもね。前のおっさんみたいにスパッと斬り落とした方が良かったかな? そしたら中から、でろでろと出ちゃうけど」
「そんなことねぇアトから激痛がぁああ痛てぇよ母ちゃん!」
手首を斬り落とした男は逃げて言った。
「アレ、最初になんとか言っていたおっさんは、来ないのかな」
「来ないなら、あたいから!」
「ひいっ!」
さすがチヤオだ、素早くヤツの前まで行くと両方の耳の穴に指を突いた。
「ぎゃあああ」
そして横腹を掴み投げ。クルミもくだく、あの指で、服ごと投げたから。
ビビリッ
「痛ててて」
皮膚と服が一緒にちぎれた?
小斧持った男はそいつに肩をかし、逃げだ出した。
「ちくしょう! おぼえてろ」
「ナニを? おまえたちのぶざまな姿か? ゲスども!」
「ああ、運動したら目が覚めちゃたわよねぇチャオ」
「オーマイガー!」
女将が出て来てあたしたちの手を取り。
「スカッとしたよ。あなたたち強いのね」
「アレはただのチンピラだから……」
「まあね。とにかく中に、また来るかもしれないよ」
「あんなのは何人来ても同じだよ」
反対側の宿、雄天飯店。
「なんだい、おまえたちその姿は」
「母ちゃん、強い女に斬られた」
「女……あんたら女にやられたのかい」
「ああ、花火してたら。出て来やがって」
早朝、町の保安長という男が宿に現れた。
「この宿に罪人が居ると聞いたんだが」
「なんの事だい。罪人って言うのは夕べ宿の前で爆竹やって客の安眠妨害した奴らかい。そいつらなら、向こうの宿に居るはずだよ保安長」
「その向こうの宿から通報があってな。ケガ人が出てる」
「おじさん、ザイニンってなんだ!」
「お嬢ちゃんザイニンとはハンザイを犯した人の事だ。人を斬ったり、殺したり」
「なら、みんな罪人だよ。戦で同じことしてた」
「戦はな、罪にならないからザイニンじゃないんだよ」
「そーか。勉強になる!」
「なら、あたしらは罪人じゃないな。あたしは戦で二、三百人斬った」
「そんなに、斬ったか?」
「なんだか、朝から騒がしいな」
「あんたは?」
二階から降りて来ると、なんだか偉そうな男が居た。
「私はコーメイから来た旅の武術家だが、なにか?」
「私は町の治安を守る者だ。夕べこのあたりで騒ぎがあったと」
「あ〜ありましたね。チンピラが夜中に火遊びをしてたな。誰かに怒られ、泣く泣く。帰ったよ。今夜、ああいう輩が来ないよう夜回りしてくれ。うるさくて眠れなかった安眠妨害の犯罪者だ。奴らを捕まえてくれないか」
「あ〜あ」
男は出ていった。
「今の男は保安長なんて言うが、あっちの宿の『マダム・ヨー』が、雇った奴だからね。だから、いつも向こうびいきさ。言いたかないけど、ウチの料理人は『マダム・ヨー』に毒殺されたんだ。証拠がないから訴えても無駄なんだ、いや有っても無駄かしら……」
「そりゃ酷いな。師匠。ぼく、向こうの宿へ行って様子を見てきましょうか」
「だな、おまえなら顔は知られてないから」
「師匠、わたしも……恋人同士ならば相手もけいかいを」
「アロン、ニュウも!」
「ダメだ危険なトコに行くんだから」
「アロン、ニュウも連れてけば親子としてもっと、けいかいをゆるめるぞ」
「それは私たちが夫婦ってことかしらウーサイ」
「面白いだろ、昔読んだ武侠小説には夫婦武芸者がよく出てきた」
「ボクは、知らないよそんなの」
「なんなら夫婦拳法や夫婦武術を教えてやる」
てなことをウーサイが言い出し、夕方までボクらに教えてくれた。
昼間に仕返しに来るかと思ったが連中は現れなかった。
日が暮れる前にボクら三人はマダム・ヨーの宿へ馬で向かう。
「こちらはいかにも華中な造りの宿だ」
「そうね、なんか遊天楼に似てない? 娼館とかじゃないわよね」
「違うだろう、だったらあっちの宿とは客層が違うから争わない」
「名前も似てる、アロン。雄天飯店だって」
「そうなのか」
馬から降りて門をくぐった。
「いらっしゃい旅のお方、雄天飯店へようこそ」
なんだか、笑った面を付けた男が出てきた。
つづく




