肉屋の若旦那
9話 肉屋の若旦那
「弟子でなくてもかまいません荷物持ちでも……」
誰かと思えばボクに遊天楼を教えてくれた太っちょの。
「あら、肉屋の若旦那マンさんじゃないの。なぜ?」
「実は……遊天楼の娼婦とかけおちを……」
「え、また大胆な。もしかしてチュー・ランとかしら? よく一緒に」
「はあ……で、彼女が」
『これから旅に必要な物を買ってくるわ。お財布を貸して。マンさんだと目立つじゃない、私が一人で行ってきます。峠の入り口付近で待っててね』
「彼女は。チュー・ランは、いつまで待っても来ません。私は昨日の夕方から待ってるんですよぉ……いまさら、のこのこと家に帰ったら……。オヤジに焼き豚にされちまうっ!」
うわぁ~マンさん泣き出した。
「うむ〜あんた、運動は出来るのかな?」
「はあぁ? 苦手です」
「だろうな……その体重を半分に減らしなさい。そしたら弟子に加えよう。それまでは雑用係だ。まずは荷物でも持ってもらおうか」
「ありがとうございます!」
荷物のほとんどをマンさんが背負った。
ニュウはその荷物の上が気にいったのか乗っかった。
「おい、ニュウは荷物じゃないだろ」
「こっちの方が楽ちん!」
「大丈夫です兄弟子。子供の一人くらい」
「マンさん、兄弟子は……」
「そうよ、マンさんはまだ弟子じゃないんだから」
「あんたは、いくつだマンさん」
「師匠、マンさんは、やめてください。私はマン・ケイといいます十五です」
「ええ、十五だって、ボクより歳下じゃないか!」
「わたしよりもよ。あんた十五で娼館がよいしてたの。で、娼婦とかけおちぃ。チューはあんたの歳は知ってたの?」
「はあ……よく老けて見られますから、チューが二十だから二十二と。」
「あら、わたしはチューは三十と聞いたわ」
「お互いウソついてたのか……。マン・ケイとんだ災難だ」
五箇山天導引堂。
「父上、お呼びだと」
「ああ……ティンソー。わしはとんでもないものを見てしまった。魔天が動いたのだ」
「魔天が……まさか魔導引の魔導のせいで」
「うむ……かもしれん。恐ろしいことが起こるぞティンソー。平和な時代が終わる。また、戦乱の世が始まる……ゴホッゴホッ」
「父上!」
「大丈夫だ……魔天の十三の魔王が地上に……」
ドタッ
「父上!」
「大丈夫だ、まだ朝食をとっておらんで腹が減った」
「父上、もう昼です。すぐ仕度を……」
場所は峠の入り口付近に。
「まいったな、あのバケモノには……。俺の槍はもう使い物にならなくなった」
「あ……テテッ見ろ、この大きなコブ。おまえ石頭だなぁ。ぶつけられたとき目から火花が出たぞ。あ、姉貴はどうしたんだ?」
「あの坊主が来たからな……何処かに」
「おい、アレを見ろ人だゴージン。女が木に吊るされてるぞ!」
「姐御じゃないのか?」
「そうだ、姉貴だ。助けるぞ!」
「おーい、ウンチャン、ゴージン。おろして!」
「姐御大丈夫ですか」
「下から見るな、何も付けてないのよ!」
「姉貴、コレは坊主に?!」
「そうよ、早くおろして!」
「ゴージン、オレは木登りはダメだ」
「わかった短剣を貸せ」
「フーッ、おまえたちもヤラれて誰も来ないかと……」
「見事にヤラれました……大事な槍も」
「ウンチャンのその頭のコブは、あの坊主に?」
「こいつは……あの小僧に……」
「小僧にヤラれたのか?!」
「突然大男になって雇ったチンピラどもをちぎっては投げ、オレらも……」
「大男に……おまえら策が失敗したからとウソ言わなくてもいいんだよ。ワタシもバレて……吊るされたんだから」
「いや、ホントだ姉さん。きっとアレは魔導引の小娘のしわざだ」
「小娘がぁ? あんなガキがかい。ウソだろう。字も読めないようなガキだよ」
「しかし、姐御。ガラガラドッカーンと雷が落ちて魔人が」
「魔人……大男じゃなかった?」
「まあそうですが、アレは魔人だ。目がこうつり上がって獅子のような長い髪に牙もあった。アレは魔人だ」
「まあ魔人でも大男でもいいわ。とにかくあの小娘を……。ソレがワタシらの使命だからね。あいつらを追うよ!」
つづく