旅立ちの前に
87話 旅立ちの前に
夜遅く師匠が帰ってきた。
「どうしたんです? 服が泥だらけ、だけではなく……コレは刃物で斬られた」
「問題はない。服だけだ。すまんがアロン、縫っといてくれ」
「いいですけど、あれ、コレは血ではありませんか」
「ほう、どれ……私の血ではない。相手が初めてだったからな……。ちょっと意外だった。で、極楽を見せるのに時間がかかってな。ふぁあ。疲れたから寝る」
いったいナニが、初めて。極楽を見せるって。この血は?
師匠が闘いをしたのは、たしかだが。
それも、かなりの強敵だ師匠の着物を斬り、汚すような。
何者だ。極楽を見せたって。
某地を走りゆく狐が一匹。
私が、人間に負けるとは。しかも、身体まで。
なんという失態。
あの天狼のシリスなんかと。恋をしていた姉さん。
なぜ男なんかと。いちゃつくのかなんて、いつも思ってた。
姉さんは、シリスとあんなコトをして極楽を見ていたのか。
恋とは、男に極楽を見せられるものなのか?
そうなのか、姉さん!
こんなことがあったからこそ姉さんと会って話がしたい。
姉さんは、何処へ行ったんだ!
ラン・ミーレン邸。
朝、朝食が終わると。
師匠が。
「アロン、西の県タイホーへ行くぞ!」
「いきなり、西へって……」
「行きたくなければ、別について来なくてもいいが」
「師匠が行くのなら弟子のボクも」
なんていうやりとりの後。
西のタイホー県にいく支度をして、門の前に。
「くそ〜ホントは行きて〜んだが、俺はここで外国語の勉強し、西方の地へ早く行きたいからな。今回はあきらめるが、いつか俺も行く!」
「帰ったら土産話たくさん聞かせてやるよグッピー。じゃ」
剣修行もかねてるリーさんも。
「あっちにも大河拳法をひろめてくる」
チャオは目的はコレだ。
「今度はついてく!」
と、きかないニュウはボクの肩に乗り降りない。
今回はマン・ケイは、同行しない。
彼女に止められたのか?
マン・ケイの旅にはもともと目的はないのだから。ただ、娼婦とカケオチして、家には帰れないだけだ。
この町に残った方がいいだろう。
ソン・スウーも居るし。
で、リァンはまだ怒ってるのか?
姿が見えない。
ウーサイも。
「マン・ケイ、ウーサイは?」
「さあ、ブタもいないなぁ」
「どうしたんだ、いつもならボクに同行したがってたのに?」
ガタガタガタ
「リューさん、間に合ったよ!」
「セン、悪いな忙しかっただろうに」
出かける寸前センさんが小型の馬車を。
師匠がセンさんに頼んでいたらしい。
「馬車? ですかコレ。馬でなくブタが引いてますけど。コレはもしかしてウーサイのブタでは?」
「ああ、あたいのブタだアロン」
やはり、馬車の荷台の立て幌からウーサイが現れた。
「来るのかウーサイ」
「あたりまえだろ」
「荷物を乗せても」
「ああ。で、そのチビも荷物か」
「チビじゃない、ニュウだ! チビ」
「あ〜チビにチビ、言われたくないわチビ!」
「アロン、ニュウ、大人になるため歩く!」
おお、ニュウ。成長したな。
「よし、ニュウ。今度はボクがニュウを強く……」
その時、あのヤンとか言う天導引派の男の言葉が。
〘何も知らないという子に良い術の使い方を教えてやってくれ〙
「そうだなぁ、ニュウ。ナニか知りたいことはあるか?」
「アロン、なんでリアンとケンカした!」
「ケンカなんかしてないよ」
「わかるよ、アロン。アロンが帰ってきてからリアンが変だ」
「あたいも、わかるぞアロン、アレの様子が変なのが」
「なんだ、ウーサイまで」
「アロン、なんでリァンが来てない?」
「それを僕に聞くなよ、コッチが知りたい。ケンカなんてしてないのに……なんか誤解でもあったのかなぁ。急に機嫌を悪くして」
「なんだ、アロン。リァンになにか言ったのか?」
「わあ、いつの間にリーさんとチャオ!」
「特に怒らせるようなことは」
「まあなぁ女の子には、男にはわからないコトがいろいろあるんだ。わからなくても、謝まちゃいなアロン!」
いや、でもボクはナニも悪いことは。
「でも!」
「このまま変な関係で別れんのかアロン!」
「ナニ、もめてるんだ。そろそろ行くぞ、日が暮れる前にタイホー県に入りたいんだ。ウーサイ、ブタの速度は大丈夫か」
「ああ、こう見えて足も速くなってる心配ない坊主。じゃ行くぞ」
「あ〜あ、いいのかアロン」
「う〜ん、とりあえず謝って来るよ。で、リァンはドコにいるんだ? 誰か知ってる?」
「さぁ?」
「それじゃ……探して謝ったらまた、戻るから」
「待て、アロン。なんだか、忙しいなぁおまえは。まあ足が速いのはわかるが。面倒だろ、行ったり戻ったり。おいリァン、出てこい!」
え、リァンが馬車、いや豚車? の幌荷台の中に。
「ウーサイ、まだ早いわ。ここからだと師匠に帰されちゃうじゃない。師匠は……」
リァンは、昨夜師匠に。
「今回の西行は、おまえを連れてはいけない。危険だからな」
と、言われていたそうで。
「なら、アロンと話せリァン!」
ボクは師匠に見えないよう豚車の後ろに回った。
「ごめんねアロン。わたしが変なことしたから。で、たたいちゃってゴメン。謝りたくて……」
「いや、ボクがキミを怒らせるようなコト言ってしまったんだろ。謝るのはボクだゴメン」
「ホントにただの姉弟子関係かね……なぁブタ。ハイッ」
ガタガタガタガタ
良かった。コレでわだかまりがなくなった。前に行くか。
「ニュウ、まだ歩けるか?」
「え、まだ門が見える」
師匠の一歩後を歩き始めると。
「アロン、用は済んだか」
「え、まあ……」
「アレは母に似て気が強い。だが、守ってやってくれ」
師匠は、なにもかも。
つづく




