人形売りのリァン
4話 人形売りのリァン
「リァン。それは、どういう事。お客様になんてぇ事を失礼な……」
「女将さん……」
接客室。
「ソレはごめんなさいね。リァンファに会いに来たのね。ミン、娘を呼んできてちょうだい」
「はい」
「娘。リァンは、女将さんの娘さんですか」
娼館の女将さんは、若い。
しかも美くしい人だ。
いくつくらいだろう。
そんな人の娘だからカワイイはずだ。あの娘。
「おい、入るぞ……」
「お客様が……」
「そうか、悪かった……。ん、コレは珍しい所にアロン」
「師匠じゃないですか。なぜココに……あ、まあここなら……居ても」
「なにを言いたいアロン。私は女を買いに来たんじゃないぞ、妻に会いにな……」
「妻……師匠、結婚してたんですか」
「妻なんて口だけよ……この人は……放浪癖があってね。先日いきなり帰ってきて……」
女将さんと師匠は。
て、ことはリァンは師匠の。
言われてみれば、リァンの太い眉毛は師匠に似ていた。
「あ、あの娘の名前、本当はリュー・リァンファっていうのよ。リァンとか名乗ってるから、まったく……誰に似たのか、落ち着かない娘で」
女将さんが師匠を見た。
師匠は飾られた絵を見ているけど。
「人形とか手作りして、町中で売り歩いたりしてるのよあの娘。知ってる?」
師匠に言ってるのだろうけど。
「ああ……それでボク、町で見かけまして……で」
「お嬢様がおいでに」
「ナニ、母さん。今忙しいんだけど……」
部屋に入ってきたリァンは、ボサボサの髪に薄い部屋着姿だった。
「わ、お客が居るなら言ってよ。あ、父さんか……あれ、そっちのあなたは……」
「そんな格好で、うろつくから店の女店員と間違われるのよ。このまえ、お客様にあの子をお願いなんて言われちゃたわ」
「あ……そんなコトあったの……」
「こちらの人はお父さんのお弟子さんのアロンさんよ」
「え、あんた父さんの弟子だったの……それにしては……」
「あの、まだ弟子になって日もたってないんで……」
「弟子にはケンカをするなと言ってあるからな……アロンはそれをまもったんだよ」
「し、師匠……。あ、あのリァンさん。このまえは、ありがとうございました。ニュウと一緒に宿まで運んでいただいたそうで。お礼を言いにここまで」
「そんなことでわざわざ……あ、あなた。針と糸使える?」
「はい。たいして上手くないですけど」
「じゃ人形作り手伝って!」
と、ボクは彼女の部屋に。
女の子の部屋に入るなんて、初めての事だ。
いい匂いがした。
「その台の上、かたづけて」
リァンは作りかけの人形や材料を寝台から部屋の中央にある台に持ってきた。
寝台で作ってたのか。
「コレとコレに服を縫い付けるの。出来る?」
「出来ます。コレを着せて縫うんですね」
椅子に座り言われた人形を。
「あら、けっこう針使い上手じゃない」
「子供の頃少しやってたもので……」
「そうなんだ。男の子が針仕事をね……おもしろっていうか変わってるねあんたって」
ボクらは二十体ほど、人形を作り町中に出た。
人形売りをボクも手伝うことに。
リァンは外に行くときは、寝起きで三編みを大雑把に一本で編んでたのを二本にキレイに編み上げてる。
今日は休日のせいもあって、人が多く子どもたちも集まってきた。
「見て見て、この女の子の人形カワイイ」
「こっちのネコもカワイイよ」
町の往来。
「本当にわし好みの娘なんだろうな」
「はい、それはべっぴんで……」
先生は生娘好きだからなぁあの娘はぴったりだ。
「ほら、あそこで人形を売ってる」
「ほう三編みお下げで、いい感じじゃないか……おまえにしては上出来だ。わしの好みがわかってきたのぅ……。う〜ん抱きたい」
アロン、昼寝してたらドコかにいっちゃったよぉ。
どこかなぁ?
あの人形売ってたおねえちゃんのとこかな?
「お嬢さん、その人形を全部買おう」
「え、全部」
「足りないかな?」
「あんたは、龍虎山道場の……。あんたみたいなオヤジに売る人形はないわ!」
「なにィ〜。このアマぁ先生にむかって!」
「まあまて、 お嬢さん。わしなぁ人形などホントはいらんのだ。お嬢さんを買いたい」
「ふざけたコトを……。わたしは売りモノじゃありません!」
「遊天楼の娘と聞いたが……いくらだ。いくらでも払うぞ。おい、チャンロン。カネをだせ」
「本気で言ってるの。わたしは遊天楼の娼婦じゃないのよ! この変態ジジイ」
「クソアマッ先生を変態だとぉ」
「なにすんのよ、はなしなさいよ。チンピラブ男!」
「やめろ、ココは遊天楼でもなければ、リァンは商売女でもないんだ!」
「アレレ、誰かと思えばこのあいだの腑抜けヤロー」
あ、あれは。アロンと人形売りの。
なんか、もめてる。
あ、アロンが、またぶたれた!
大変だ!
どうしょう?
「チビスケじゃないか。こんな所で何をしてる?」
「え、あっ。ししよー!」
「はなしてよ、チンピラ! 痛い。わたしをどうする気」
「ウチの道場で茶を飲まんかお嬢さん」
「誰があんたなんかと。アロン、助けて」
「リァンをはなせ!」
「黙れ、腑抜けヤロー。今度は骨のニ、三本」
ガッ
テテッ。ちくしょう。また殴られた。
「リアーン!」
ナニ、わしに。しがみつきおった。
「あんた、師匠だろ。あいつにリァンをはなせと」
「イテテ……」
わしの尻に噛みつきやがった。
「いい度胸だ、ガキ。わしの技を見せてやろう。大噴火投げ! うおりゃああ」
「うあっあぁあぁ」
「ししょーアロンが飛んだ!」
あれ、ししょー?
あ、あんなトコに。
ダッ
「おや、今日は妙な天気だ。弟子が降ってきたぞ」
「し、師匠!」
「くそガキめ。わしを体当たりでころばすとは、服が汚れたわい。チャンロン。帰るぞ」
「はい、先生。ホラ、おとなしくしろ。おまえがさわぐとケガ人が増えるぜ」
「はなして、痛いわよ!」
「待たれ、そこのかどわかしども!」
「ああ?」
「なんだてめぇは、龍虎山道場の先生だぞ。かどわかしとは、なんだ!」
「嫌がる娘を連れて行く外道にしてはいい身なりと思ったが龍虎山道場の……」
「そうだ。わしは、ワン・チンロウだ」
「さっきの大噴火投げは見事だったのぉワン先生」
「ふん、そうだろう。アレはわしにしかできぬ必殺技だ」
「そんな、大物先生が外道のまねごとかな」
「外道だと、わしは龍虎山道場の……」
「なら、私の名をご存知ですな。私はリュー・ハイシンという破戒坊主だが」
「なに! リュー・ハイシン……だぁ」
つづく