山賊現る
22話 山賊現る
「ほう、大河酔拳とな、聞いたことがない拳法だ。チャオとやら」
「正しくは『大河侠酔拳』って言うんだ。坊さんも武術家なら知ってるよね大河侠のウェイ・ポンって」
「知ってるがその男は小説『大河英傑伝』の登場人物で架空の人物じゃないのか」
「そうだけど、あの小説には元があるのは知ってるだろ。『大河英傑伝』の登場人物の何人かは実在の人物なんだ」
「それは聞いたことがあるが、誰とは。確かに大河侠のウェイは酔拳の達人だか、あの拳法は架空の拳法だと」
「坊さん、細かいこと言うなよ、実は大河酔拳は、あたしが創ったんだよ。だから、あたしは大河酔拳の創始者で総帥だ。機会が出来たら見せよう大河酔拳!」
「おい、あんたの荷に下がってるひょうたんは、まさか酒か」
「よく気がついたな太っちょ。そうだよ、ソレがあたしの力の源だ」
「ああ、私は家の使用人頭に聞いたことがある呑めば飲むほど強くなるなんていう酔拳は小説で作られた架空の拳法だと」
「疑うなら、あたしと一勝負する?」
「あ、いゃ私は拳法は使えないし、運動は苦手だから……」
「新拳法の創始者か、これはおそれいる。機会が有りしだい拝見いたす」
「なんか、坊さんバカにしてないか?」
「いや、してない。あんたは辺境の武術大会に出るのだろ。並の武術家はあの大会には出ない。それくらい出場者の強さは高い所にある。それを知ってて出るのだろ。私は怖くて出れない」
「そんな、師匠は武術を見たいからと。怖いなんて……チャオと言ったな師匠は強いんだぞ」
「それは見てわかる。それにあんたもだ」
「チャオとやら、おもしろコトを教えてやろう。そこの太っちょマンケイは、床技ならなかなかの使い手だ。勝負してみるかな」
「師匠、まだ午前中ですよ……まあ私はかまいませんが」
「はあ、床技。自慢じゃないが、あたしはあまり寝台では寝ないんだ野宿が多い。だから床技は苦手だ……」
赤くなってる。
まあボクもまだ床技なんてぜんぜん。彼女も?
「ふぁふぁふぁふぁふぁ、面白い用心棒たちだ、退屈しないよ。な、ドンゴよ」
「あう……」
「お婆さんは名前、なんていうんです。そちらの使用人の方はドンゴさんで。で、お婆さんは」
「まだ言ってなかったかい?」
「聞いてないな、なぁマンケイ」
「師匠、名前も聞かずに仕事を。あきれたわ」
「わしはワン・メイという。そして、使用人のドンゴだ。コヤツは生まれながらに口が不自由でな、ようしゃべれんのだ。そっちもまだじゃな。名は?」
「ボクは、アロン。師匠は、リューで妹弟子のリアンに……」
「アロン、わたしは妹弟子じゃないわよ。わたしは師匠に子供の頃に習ってるのよ、だから、姉弟子だわアロン」
「そうか……。じゃ姉弟子のリァンに荷物持ちのマン・ケイだ。その荷物の上の子は」
「ニュウだ!」
「ボクの妹みたいなもんだ。マン・ケイはまだ、師匠の弟子になってない」
「いや、アニキ。わたしはもう床技で師匠の弟子だ」
「だ、そうだ。彼はボクや姉弟子より歳上に見えるが歳下だ」
「だが床技では上だ」
「それだけは自慢なんだな……マン・ケイ」
「ただのスケベよ。マン・ケイは」
「姉弟子、『スケベ』は……『女好き』の方がましです」
「あんたら、おもしろそうだな。やはり道中退屈しないでいいかもね。ふぉふぉふぉふぉ」
林道を通過する白虎会の馬車。
「頭、あれが情報で聞いた白虎会ですな。どうします?」
「アレは、ヤバいな。下手すりゃこっちが殺られちまう。あの連中は手強そーだ。特に一番前の大男はあぶねぇ」
「あの馬車の荷はたいそういい物と……」
「だが、命あっての物種だ。死んだら意味ねぇ」
「じゃ見逃しますか……」
「師匠、林道に入ります。馬車の通った跡だ。あいつらも同じ方向に進んだんだな」
「アロン、あたしの聞き込んだ情報によると林道に山賊が出るそうだ。あいつらも今頃襲われてるかもな、少なくても荷物には金貨百枚は積んでるからな。いい獲物だね」
「が、チャオ。あのデカぶつ見たろ、あいつが山賊なんかにやられるだろうか?」
「まあ手強い相手ではあるだろう……」
林道をしばらく歩く。
「アロン、馬車が襲われた様子ないわね……」
「アニキ、山賊なんか居ないんじゃないのか……」
「そうでもないようだ。アロン、ワンさんを」
林道の両脇から数人の男たちが、後方にも同じ数が。
「チャオどの後ろはまかせた」
「ああっバアちゃん、太っちょはあたしの後ろに」
「チャオ大丈夫なの、相手は刀や槍を」
「問題ない。小娘!」
「え?! あんたも小娘でしょ」
「おい、坊主。この道通りたかったらカネ出しな」
「ソレは逆だ。旅の貧乏坊主には、ほどこしをするのがあなたたちの幸だ。わざわざ罪を働くこともあるまい」
「おっなんだ坊主!」
師匠は一人、前に歩き出した。
後方の連中は動かない。
「なんだ、坊主。死にたいのか」
山賊の頭らしい男は剣を抜いた。
「今ならまだ、ケガをしないですむぞ。武器は、しまいなさい」
「はぁ、ナニをぬかしてんだ、このクソ坊主!」
つづく




