その子をかえせ
2話 その子をかえせ
一人旅らしい小さな子、名はニュウ。
姓は言わないが、どこか謎めいた子だ。
団子をやったせいか、ボクになつき。
旅を共にすることに。
目の前にこのあたりでは大きめの町の門が。
土で作られた大きな門をくぐると、広場になっていて布をひろげただけの小さな店がたくさんならんだ市場になっていた。
けっこう人が居る。最近では大きな町だ。
「久々に屋根が有るトコで寝れそうですね師匠」
「だな……」
あれ、突然目の前の人たちが横によけた。
前の方に男女三人の姿が。
真ん中の女はマントに呪い模様が。呪術士か、なんかか?
横ののっぽと小太りの男たち。どう見ても普通の町の者ではないのはわかる。
のっぽの男が持つ槍にも妙な呪物らしい飾りが、こいつらはやはり呪術士か?
彼らを見て、肩ぐるましてたニュウが、降りるとボクの後ろに。
ニュウの知り合いか? でも。
「その、汚いガキを渡してもらおう」
ニュウを見ると怯えている。
「お、おまえらはこの子のなんだ?!」
「おまえこそ、そのガキとは関係ないのだろう」
うわぁ、のっぽの槍先がボクの目の前に。
「関係者だと、いろいろ問題あるわね……命も」
「たまたま、旅で知り合っただけで深い関係者とかないけど……」
槍が、くるりと反対側の先に変わるとボクの肩を突いた。
ボクは後方に倒れると、のっぽはミュウを抱えて、元の女の横に。
肩に激痛が。しかし。
「イッ……くそっ」
奴らはニュウを連れ去ろうと。
「まてっ! その子をかえせ」
女が振り向き
「うるさいガキだね、その程度じゃすまないよ」
「師匠! なんとか……」
「修行がたらんな……アロン」
「修行って、ボクは師匠からなんの技も……」
「坊主、よけいなことは、しないのが身のためだよ」
「私も坊主のはしくれ。目の前で幼き子が拉致されるのを黙って見てるだけにはいかないでな」
「面倒だ、ゴージン。手早くすましな」
「はい、姐御」
ニュウを女に渡したのっぽは、師匠に槍を向けた。
「坊さん、俺の槍が避けれるかな」
槍が師匠の顔を突いた。
シュバ シュバ シュバ
師匠は、素早くかわすと槍先を指二本ではさみ。押し返すと槍が、のっぽの肩を突いた。
「グッ!」
「弟子の分だ」
そして次な突きは腹のミゾを。
「グハッ」
「ウンチャン!」
小太りの男が飛刀を両手で放った。
槍を捨てた師匠は飛刀を片手の指ではさみ受けると投げ帰した。
二本の飛刀は、放った小太りの両耳に刺さった。
「ギャひぃ〜」
「良い耳飾りではないか……」
スゴい! さすが師匠だ。
「クソ坊主が!」
女が剣をぬいた。
その女に師匠はすたすたと近づく。
「よるな。このガキは外道の呪術士の生き残りだ、生かしてはおけぬのだ」
「あのね……いかなる理由が、あろうと、殺生はいかん!」
と、怒鳴った師匠は女の剣の先を指ではさんでどかし、別の手で女の頬を触りながら。
「とくにそなたのような美人はだ。その子供をはなしさい」
師匠は女を見つめた。
「子供を……はなしなさい」
「は、はい」
女はニュウをはなした。
「よろしい……そなたに……幸あれ……」
「アロン!」
「ニュウ!」
「姐御?!」
「姉さん!」
「ん、」
「姐御、大丈夫ですか?」
「あ、どうしたんだ、ワタシは……おい、クソ坊主からガキを!」
「いません姐御」
「逃げ足の早い……捜せ!」
町のとある宿。
風呂はないので、たる湯でニュウの頭と体を洗った後で安い夕食をとりながら。
「師匠、ニュウは呪術士の子だとか……」
「呪術士には天導引派と魔導引派があると。おそらくあの連中は魔導引派を撲滅しようと動いてる天導引派の者だろう……外道の呪術士とか言ってたからな」
「天導引派は魔導引派を外道と……」
「魔導引派は、鬼神や妖怪の類いを使い術を施すそうだ……で、外道と。天導引とて、神獣とか言った魔物まがいな妖怪を使ったりしてるから、たいしてかわらん」
「ゲップ」
「安メシだが、けっこういけただろう娘」
「うん、し、しょー」
「おい、私はおまえの師匠ではないぞ」
と、立ち上がり戸の前で。
「アロン、ちょっと夜風にあたりながら散歩してくる」
「いってらっしゃい師匠」
「夜の鍛錬は忘れるなよ」
と、出てったが、食後の散歩だけかな。
「四十、四十一、四十二……」
ちいさいわりに数が数えられるんだなニュウは。
師匠は、技はまだ早いと体の鍛練法ばかり教えてくれる。腕や腹筋、足腰を鍛える毎日だ。
早く師匠のようなスゴい技が使えるようになりたい。
「三百九十九……」
「はあ……もういいよニュウ。ハアハア……もう限界だ」
「アロン……」
「ん、なに?」
「しゅぎょーがたりん!」
夕べは帰らなかったようだ師匠。
寝台は使った様子がない。
宿で朝粥を食べ、通りに出てみた。
「師匠、夕べ戻らなかったな。イイ女でも見つけたんだろ……師匠はああ見えて女好きなんだ」
「オンナ……好き。ししょー」
「さあ、どうぞ。手にとっていいですよ」
「母ちゃんコレ、カワイイ。買って?」
通りで手作り人形を売る女の子を見た。
あの三編みの少女はボクと同じくらいの歳かな?
かわいい。
「アロンも、イイ女見つけた?」
つづく