開戦
128話 開戦
「実は、私の記憶が完璧ではなくてっな。寺に入れられる前の記憶があまりないのだ。おそらく両親が貧困で食いぶちを減らすのに私を寺に。まあ、それはともかく。日記をな、読んでると妙な親近感のような……ものを感じてな。私は、この日記を書いた人物を知っているような気がするのだよ」
「坊さんは、寺に入る前にニュウの祖父さんの弟子だったとか?」
「う〜む。どうかなぁそれも考えたが何も出てこない……」
「師匠、やはりニュウのお祖父さんの名前を」
と、食堂の扉を開いた瞬間に大砲の音が。
「うわぁ~。もしかしたらこの家の前の壁に!」
ボクは廊下へ出て中庭の方に。
ドドドドド
この音は、跳び大ネズミの群か。
ドッカーン
人ではないので、群れの突進と同時に大砲を撃ってきた。
こちらからの大砲の音が聞こえない。まさか、あのときのように間者が。
やっと高塀の通路に兵隊が。
「アロン、先手をとられたようだな。こちらの軍は何してるんだ」
「将軍さえも戦なれしてない軍だからな。門の方に行ってみる! チャオたちは、兵を越えてくる兵士がいたら、みんなを」
「ああ、この家は守る!」
「ふぁ〜。なんかうるさい。どうしたのリー」
「戦が始まった。ニュウ。寝台の下にでも隠れてろ」
トウメン国陣営。
「歩兵隊、大ネズミの数が減ったら牛、豚の暴走を始めろ。人が出るのはまだだ!」
「ラゴウ、コレなら兵数の不足をおぎなえる」
「だな、ワシも久々に鎧を着た。わざわざ辺境の町まで出陣してきた小僧の首をとってこようではないか」
「まさか、王都から出てくるとは……。王もガキだわね。私は荒っぽい事は好きではないから任せるラゴウ」
「ルファ、俺はまだ出んでもいいのか」
「そうあせるな、ドウジェン。獣共が使えなくなってからだ」
あてにしていたツァンレンコーが、子ども化されたツァンレンで、使えず。
残ったのは力だけの亜人とは。
情けない。が、人間に負けるなどということは、なかろう。
「ルファよ、おまえはどう見てる。幽閉されてたのがツァンレンなら、女狐やおまえが言っていた小僧は、なんなのだ。ワシはヤツとまだ会っておらんからな」
「アレはツァンレンコーか? もしくはツァンレンになりすまし魔天界をあざむく十三番目の魔王かもしれませんな……」
「昔、聞いたことがある。名のしれぬ魔王は、風変わりだと……」
「風変わりといえば、あの女狐。あれから姿を見せんな。何をしているのやら……」
インアルの国王軍陣営。
「来ましたな。やはり、獣が」
「将軍、何者かにより我が方の大砲が使えません!」
「なに……と、なると使えるのは兵士か。門は?」
「まだなんとか、もってますが……跳ねる獣が門の板を、蹴り破ろうとしています」
「門がもたないのか……。槍部隊を門の前に集めろ、その後に騎兵軍だ。あの獣どもは絶対中に入れるな!」
幸い、この町の塀は、東の砦と違い頑丈だ。そう簡単には。それに、登って来る歩兵軍もまだ出てきてない。
トウメンには、思ったより兵士がいないんだろう。
弓兵が高塀から、跳び大ネズミたちを射ってる。
跳び大ネズミを全滅させたら、牛や豚が来るはず。
ラン・ミーレン邸を。町の人達を守るには。
「門番、裏扉を開けろ! 獣なら私等が扱い慣れている」
トッケツの人たちが裏門から出て行こうとするとこへ。
「ボクも出ますムンランさん」
「馬はないぞ。小僧」
「いりません」
「なら、走ってついてこい!」
裏門の前に数人の兵士が綱を張ってる。
「ココは、通さん!」
「その綱をどけろ、馬が通れんだろ!」
「そいつらは間者だ!」
傷ついた門番が。
「そういうことか、貴様らが大砲を」
「ムンランさん、こいつらはボクが。荒っぽい綱を切って早く外へ」
「ぐあっ!」
「うがっ」
「アロン、一人で楽しむな」
リーさんとレイさん。
「コイツラはまかせろ、アロン行け!」
レイさんが門の綱を切った。
そうか、表門に。
ボクは表門まで走るとまだ、門の扉はもっている。
「門番の隊長さん、門に綱を数本張って下さい。そうすれば扉が壊されてもヤツらはすぐに入れない!」
「そうか、門兵っ扉の前に綱を張れっ!」
門番兵が綱を張るのを手伝ってると扉の板が壊され跳び大ネズミが顔を。
ボクはそいつの顔を殴りつけた。
ごめんな。
バキッ
今度は足が出た。
バキバキッ
扉は限界だな。
外で人の声が。
ムンランさんたちが出たんだ。
よし、ボクも。
人が一人くらい出られる扉の穴からボクは、外に出た。
そして、扉を足で壊そうとする跳び大ネズミたちをかたっぱしから殴り倒した。
しかし、もっとやっかいな群がやって来た。
牛や豚の群だ。
つづく