ケンカ獅子
12話 ケンカ獅子
山の中の宿を出て半日ほど歩いた。
すると、くだりに坂下に周りの塀がボロボロに壊れた町が見えた。
「あれって多分戦がなくなって必要がなくなったんで、なおさないのよね」
「敵が攻めてくる心配がないからな……。もう戦がなくなってから長いからね。落ち着いて良かった」
「そうですね、戦なんてするもんじゃないとウチの祖父がいつも言ってました。ウチの祖父は兵として戦に出てましたから。動けなくなると死ぬぞと……毎度」
「だな、マンケイの言うとおりだ。で、今のマンケイはどれだけ動ける?」
「はあ、師匠。わたしは走るのも戦いも苦手で……あ、寝台の上ならけっこう動けるんですけどねゲヘヘ」
「ほお……娼館の女とかけおちをするくらいだ。床技は心得ているとみえる」
「しかし、師匠。そういうのは戦場では役に立ちませんよ。マン・ケイ、早く体重を減らして師匠の弟子になり、ボクらと武術の鍛錬を。いつまでもただの荷物持ちでは……」
「でも、マンケーの上は楽ちんだから、荷物持ちのままでイー」
「ニュウも降りて歩け! 足が弱っちまうぞ」
「師匠、床技もスゴいと聞きました。私をそっちの方で弟子にしてくれませんか」
「それはまた……かまわんが。マンケイよ。やはり痩せなさい。そのままの体型だと、三十までもたんかもしれんぞ。女遊びも出来なくなる」
「はあ……でも」
「荷物運びを続けなさい。あと食事を変えれば、自然に痩せてくるだろう。マンケイ。気長にな」
「なんだかなぁマン・ケイ。おまえの鍛錬は荷物持ちか……しかしなぁ寝台の上で動けるのなら地の上でも……そういう武術はないんですか? 寝台拳法とか」
「寝台とか、床技とかホント男たちは、いやらしいんだから」
「床技ってなんだリアン?」
「ニュウは、まだ知らなくていいわよ」
町の入り口の門まで来ると。門周りだけは崩れてなく立派だ。
役人とか立ってなくて誰でも出入りは自由なようだ。
扉があるが、もう何十年も使ってないのだろう。戦がなくなって三十年か。
ボクらは戦を知らない世代だ。
「おい、なにグズグズやってんだ賭けの締め切りがせまってるぞ!」
「おう、おまえは何処に賭ける」
「もちろん、龍堂門よぉ]
と、男たちが、町の中央へ走っていった。
ドンドコドン、ドンドコドン
太鼓の音が聞こえる。
「あの太鼓音は獅子舞いだわ、お祭りなのね今日は。広場の方よアロン、行ってみましょ」
「あ、行っちゃいましたね。師匠。祭りなら美味いもの食べれそうですね……でもカネがないトホホ」
「カネは、荷物の中に少々あるが。あの太鼓はケンカ獅子だろう。賭けでもして稼ぐか。こい、マンケイ!」
「さっき、賭けがどうとか言ってたよ。どうやら普通の獅子舞いじゃないようだ。ほら、あの木の塀みたいなのは……多分ケンカ獅子じゃないかな」
「ケンカ獅子?」
「リァンの町にはなかった? 大きな武術道場があったけど」
「ケンカ獅子なんてなかったわ。知らない」
「そうか大きな道場が一つだと争わなくていいからね。ケンカ獅子は獅子頭を持って技を競うんだ。だから、町の道場から武術家が出て勝って名をあげるのが目的で。出場者のほとんどがどこかの道場の武術家さ。勝てば道場に門弟が増える」
「そういえば、龍堂門がどーとか言ってたわね」
「おい、オヤジ。賭け札はまだいけるか?」
「だんな、龍堂門に賭けるならおしまいだ。みんな、龍堂門に賭けるから賭けにならねぇ」
「ああ……龍堂門はここ三年連続で勝ってるからな。じゃ俺は穴狙いだ多古塾に賭ける。どんなものにも終わりは来る。そろそろ龍堂門も終わりだろ」
「多古塾か、ならいいぜ!」
「オヤジ、龍堂門の獅子ってどれ?」
「ほら、あの五人で獅子頭を持ってるデカくて黒い奴だ」
「頭でっかちよねアレ。体の方は二人じゃない」
「よそもんだねあんたら、去年のケンカ獅子を見てないのか。あのデカい頭でみんなやられちまってな」
「ふ~んそうなんだ」
「オヤジ、賭けはまだ間にあうかな?」
「師匠! 賭けるんですか、なら……」
「さっきの客にも言ったが、龍堂門以外なら……」
「龍堂門というのは、あのデカいのか……。話は聞いてた。アロンは、どれに賭ける?」
「龍堂門と思ったけどダメなんだよね。多古塾って、ああっあそこに旗をあげてるのか……弱そうだな。う〜んむずかしいなぁ」
あ、アレは……一つ他の獅子と違うのが。
「オヤジ、あそこの棒を咥えた小さい獅子は?」
「あ、アレは町の外に爺さんと住んでる娘だ。ポォとか言ったな、初出場の一人獅子だ。どうかなぁあれは……」
「あれは女の子なのか……。師匠、あの小さなのがいいです」
「そうか、マンケイ。あの獅子に全部賭けなさい」
「え、アレに全部! 大丈夫ですか……」
「私は弟子を信じる」
ドンドコドンドンドコドン カッカッカッ ドコドコドコドン ドーン
ケンカ獅子が、始まる。
つづく




