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侯爵令嬢の結婚   作者: つきG
8/23

【8】 夜会デビュー!バカップル爆誕

夜会当日、ソレイユの目の色の明るい青のドレスに身を包んだルナリアはとても美しかった。


心に喜びがあるということが、これほどに美しさを増すものなのか。

ドリアード侯爵家一同、あらためてルナリアの美しさに嘆息した。

これほどの美姫をむざむざ第1王子派にくれてやるなど、第2王子派の若い子息が怒りに震えそうである。

迎えに来たソレイユは満足そうにうなずくと、ドリアード侯爵に対峙した。


「令嬢をしばしお借りする。予定時刻には送り届けよう」


無表情に約すと、社交辞令的に侯爵夫人に軽くお辞儀する。

そうしてルナリアの前に平たい箱を差し出す。

侍従が恭しくそれを開けると、中から鶏の卵ほどの大きさがあろうかという青い宝石のついた、見事なネックレスがでてきた。

ぜいたく品は見慣れた侯爵令嬢であっても、滅多にお目にかかれないような逸品だ。

なるほどこれは貸与でしかるべきである。


「グラン・ロウの王女であった祖母が我が国に嫁いだ際に持参した品だ」


ソレイユ自身の手でルナリアの細い首にかけられた。


「大事なお品を身につけさせていただくこと光栄にございます。」


「ルナリア嬢はいずれわたしの妻になる。常にその栄誉にふさわしいものを身につけてほしい。」


「かしこまりました。」


優雅にお辞儀するルナリアの見事な所作に、大公家の侍従も心中感嘆する。

これは邸内でサロンが開けないのはかなりモッタイナイのでは。


無言で馬車に乗る二人。

かぽかぽとのどかに歩をすすめる馬車がドリアード侯爵邸の門をでると、いままでと打って変わってにこにこしながらソレイユが話し出した。


「ドレス似合ってる。すごいキレイだよ。」

「ありがとうございます。」


これ、と首飾りにそっと触れる。


「こんな大きな石はみたことがございません。」


ソレイユがやった、と破顔する。


「門外不出の家宝だもん。姉・・・王妃様がもっていきたがったんだけど、デザインを新しくしたかったみたいで。」


さすがに歴史のある品だから、反対もあり、持っていくのを断念したのだ。


「そういう意味では、流行の品ではないからね」


新しく用意する時間がなくてごめんね、と謝る。

ただ、ルナリアにはアンティークな品がよく似合った。


「とんでもないことでございます。由緒あるお品を身につけさせていただき、うれしゅうございます。」


件の仕立て屋は大変に腕が良いらしく、流行りのドレスでありながら、随所にアンティークのジュエリーの意匠をちりばめ、古いデザインのアクセサリーと流行りのテイストを見事に融合させていた。

その結果、古めかしい重い印象の宝石は軽やかになり、流行の先端を行くはずのドレスは、不思議な重厚さで高貴な印象を与え、それらを顔立ちの整ったルナリアが身に着けた結果、他の誰ともかぶらない、印象の強いものができあがったのだった。

実のところソレイユの衣装は、それに合わせて作られた。

ドリアード侯爵邸ではああいったが、やはり女性のドレスとアクセサリーがメインの華である。

後日、この夜会での二人の姿が人形になり、大量に出回ったのは別の話である。


この日主賓に挨拶した後、注目のカップルは無表情無言のまま、一度だけダンスを踊り、フロアから消えてしまった。

居合わせた第1王子派の諸侯は、ソルシェ公爵の不機嫌さに恐れをなし、第2王子派は、美しく着飾ってはいるものの、ルナリアとその父ドリアード侯爵の心中慮ってやるせない思いをしていた。


が、当のふたりはというと、ダンスの後はいちゃいちゃする場所を探してさまよっていたのだった。


そして、ソレイユは困惑していた。


(わたしって無能だったんだ・・・・)


なんと、「ご休憩」に使える部屋はすべて埋まっていた。

それもそのはず、普段親の目があって思うように逢瀬を重ねられない、若い婚約者同士という名の恋人同士は、あらかじめ邸内の使用人に小金を握らせて部屋を奪い合っていたのだ。

ちょっと考えればわかるようなことではあったが、ソレイユは恋の道には完全に初心者である。


(ならば庭は!)


お答えしよう。


貴族の子弟でもお金が潤沢に使えるものばかりではない。

つまりフリーの庭は真剣に早い者勝ちである。あちらの茂み、こちらのガゼボ、そちらの木陰は千客万来。


(しまった・・・・!)


ふと、ホールのバルコニーにすべきだったと見上げれば、あちらこちらにカップルの影が。

ちょっとキスするくらいならここでもいいかな、どうかなと思い始めたときに、ルナリアの手が冷たいのにきがついた。

それなりに胸元のあいたドレスである。

宝飾品は無駄に大きいし、夜風に冷えたらしく、顔色が悪い。


「ごめん、寒い?」

「大丈夫です。」


ほほえむが表情が硬い。

ベンチがあるが、バルコニーから丸見えなので空いている。もはやこれ以上連れまわすわけにもいかんと判断したソレイユは、ベンチに腰かけ「おいで」と手を広げる。

ルナリアがおずおずと近寄ると、上着を脱いで背中から着せ掛け、そのまま自分の膝に座らせた。

そうして上着ごと腕の中に抱きしめた。


「うわあ、冷えちゃったね。ごめん。」


ルナリアは仰天した。だが、暖かくてついなすがままになってしまった。


(いいわよね、だってソレイユ様はわたくしの夫になられるのだもの。)


「具合が良くなったら送るよ。」


冷えで頭痛がして辛かったが、ソレイユに抱きしめられてだんだんと冷えた体が温まってきていた。


「ありがとうございます。」


未来の夫君の胸によりかかって、必死に痛みに耐えていたが、親でさえ体であたためてくれるなどないことだった。

ちなみにその場所は、園内からもバルコニーからも丸見え。

ソレイユに上着で包まれたルナリアの様子を見て、乳繰り合っていた若いカップルの女性はそれはそれはうらやましがった。なにしろ自分の恋人は、隙あらば自分の花を散らそうと虎視眈々としているし、手はドレスの中をまさぐるのに必死で、なんだか自分のことなどろくろく見てくれていないような気がする。


白状すればソレイユだって、できるものならかれらと同じようにいちゃいちゃしたかったわけだが、出遅れたうえに、ルナリアをすっかり冷やしてしまい、もはやそれどころではないと涙涙であきらめたのだ。

その後復調したルナリアを連れて、庭からでていった二人の背後で、ケンカするカップルが続出したとかしないとか。

なにしろ抱きしめてそのままなにもせず女性を気遣って帰ってしまったのだ。男性陣は心中腰抜けとせせら笑ったが、女性の評判はうなぎのぼりだ。


そうして意外なところから、ソレイユとルナリアの仲の良さが知れ渡り、なんと、ソレイユの秘密の恋の相手は政敵の娘であるルナリアであった、という美しい物語ができあがっていた。

思い合うふたりを気の毒に思った国王陛下は、彼らの恋が実るよう手を貸したとか貸さないとか。

一夜にして美談誕生。


それは、二人の王子の耳にまで届いたのだった。













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