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侯爵令嬢の結婚   作者: つきG
6/23

【6】 結婚生活の話をしよう

ソレイユは当初、今回の政略結婚は腹に据えかねていた。

なにしろ、政敵の娘が自宅に鎮座ましますのだ。


(そうだ、離れ改築しよう。)


そうして隔離しちまえ。ただしがっちり監視つけたうえで・・・・、などと職人と打ち合わせ真っ最中であった。


だが、今はお嫁さんになる人がなんだか可愛くて仕方ない。

家でルナリアがいて、仕事の合間にちょっと顔を見れたり、いっしょに食事を楽しんだりできたら、毎日の仕事の疲れもふっ飛びそうな気がする。


なんと、これで顔を合わせてわずか2回目である。


いまとなっては新妻のお部屋は邸内で全然良いのだが、離れは逆にいいアイデアかもしれない。

何しろソレイユの邸宅は、第1王子派の寄り合い所で、まさに本拠地。

プライベートスペースに出入りするわけではないが、同年代の貴族の子弟がうろうろすることも多い。

うっかり鉢合わせでもしたら、妻になったルナリアになにがしかの嫌がらせ行為は想定できる。


(防犯対策がっちりしよう。)


「結婚後は・・・・」


ソレイユはくちごもる。


「あまり自由に出歩くことはさせてあげられないと思う。邸内も、第1王子派の貴族が来ることが多いし」


おそらくルナリアは普通の貴族の奥方より、自分の部屋にいる時間が多い生活になるだろう。


「なるべく居心地よく過ごしてほしいから、希望があれば言ってほしい。」


「・・・・希望」


ルナリアは実家で好きなことをできたためしがない。

なので、大概のことは辛抱できるのではないかと思った。

しかもソレイユはなんだかとても自分に優しい。


「本が読めれば充分でございます。」


読みたい本が自由に読めるだけでうれしい、とまで打ち明けるのはなんだか恥ずかしかった。


「うちにあるのは好きに読んでいいし、新しいのも買うといいよ。」


出入りの商人がいるから侍女長に言って、と言って目線を後ろにやる。

侍女長はルナリアに顔を憶えてもらえるよう、ゆったりとお辞儀をした。


本が読み放題で好きに購入できるなら、実家より待遇いいかもしれない。いやいや、期待するのはまだ早い。


「何か飼ってる?猫でも鳥でも連れてくるといいよ。」


(猫!)


庭に住みついた猫が子猫を生んだことがあった。ミルクを入れた紅茶のようなふわふわの毛がとても可愛くて、ルナリアは飼ってみたいと心中願い、どうやって強請ろうか、両親の機嫌のよいところをみはからっていたのだが、いつのまにか母猫ともどもいなくなってしまった。

猫の親子はどこへ行っってしまったのか。

こわくて聞くことができずにいて、とても残念だったのを思い出す。

猫が飼えたらどんなに楽しいだろう。


「飼ったことがないのですが」


もし飼えたらうれしく思います、とルナリアは希望を伝える。

本が読めて、猫が飼えるなんて、嫁入り先であるソルシェ公爵家の方が間違いなく待遇がよい。おそらく結婚後は両親や兄弟と会うことはほとんどなくなると思うが、いつも一緒にいてくれる猫がいたら魅力的な生活だとルナリアは思った。

使用人たちは、奥方のお輿入れと同時に猫を飼うらしい、と心にメモした。

第2王子派の奥方が作るであろうサロンに戦々恐々としていたが、今日の様子を見る限りお嫁様になる女性はとてもおとなしいお人柄のようだ。愛想はないが、緊張してる様子が好ましい。策をめぐらして誰かを懐柔しようとか、この女性はあまり考えないような気がする。おそらくソレイユの言いつけ通りおとなしく生活してくれるであろう。


(となれば)


女性使用人も男性使用人も心待ちにするのはあとつぎ様の誕生である。

ソレイユはとても美しく、見ごたえ十分な自慢の主様なので、そんな彼の美貌を受け継ぐ赤ちゃんができたらすばらしい。

女性使用人は美しく愛らしいお子様のお世話ができるであろうことに心弾ませ、男性使用人は、職場であるソルシェ家の安泰な存続の予感に胸をなでおろした。

夫婦仲は円満で家庭がおだやかであるのは良いことだ。


実のところこの政略結婚は、使用人にとっても最大関心事であり、目下最大の不安の種であった。


近くお輿入れするであろう、敵勢力の奥方など、いったいどれほど使用人にきつく当たることか。

もちろん、普通の貴族の奥方より不自由な生活になるであろうことはお気の毒だが、その不機嫌のブリザードにさらされるとか、つくづくとソルシェ大公家の今後の職場環境が思いやられていた。


結婚後はソレイユの機嫌もとんでもなく悪くなるであろうし、下手すると自宅に寄り付かなることすら考えられる。主不在の中、形式だけでも女主人の権限を持つ女性と使用人だけで向き合わねばならないとか、考えただけで肝が冷える。


だが、おそらくルナリアはおとなしく生活するであろうし、ソレイユもまたこの様子なら、結婚後ルナリアを大事にしあわせな家庭とやらを築くのではなかろうか。

傍から見れば確かに、離れに隔離された奥方と嫌々娶った夫であるが、当人たちが仲良く暮らす気があれば、家内安全乙!である。










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