【3】およばれ
お待たせしました。(←待ってねえ)
ソフトエッチ表現のある回ふたたび。
R18までいかないと判断しておりますが、いかがなもんでしょうか。
後日、ソルシェ公爵より正式にお茶会に呼ばれた。
と言っても他に客はいない。平たく言えばお家デートである。
殿方と二人っきりになるなど初めてだ。
いや、ソルシェ公爵とは、家出したとき二人きりでお茶を飲んだ。だが、あの時と違って、ルナリアはとびっきりのおしゃれをしていたし、公爵家も来客にふさわしいもてなしの用意をしている。
緊張と不安でお茶の味がしないのだが、この場にいられることがなんだかうれしい。
頬が緩むのを懸命に抑えるが、実のところ笑い慣れていないルナリアの表情はほとんど変わらない。
ほんのりとあたたかな気持ちになっているルナリアとは対照的に、銀の髪に空色の瞳のうるわしの婚約者の方は、生きた心地がしていなかった。
(どうしよう)
実は、帰ってすぐルナリアへ贈り物をしたのだ。
お姫様の出てくる物語をとりあげられた、幼いころのルナリアがあまりにも愛しくて、恋愛小説をあげようと思い立ったのだ。
きれいなお姫様と貴公子の出てくる流行りの物語を贈ったらどんなに喜ぶだろう。
あまりふだん女性への贈り物を真剣に考えたことがない割には、なかなかよい思いつきであった。
家出したルナリアの捜索にあたった騎士のなかに、読書を嗜む姉妹がいる者がいた。
そこで、「お前の妹に流行りの恋愛小説を教えてもらえないか」ともちかけた。
ご褒美に好きな本を一緒に買っていいと言われ、騎士の妹は大喜びで兄と商店に向かった。
まだ12歳の少女の選ぶものなら、可愛らしいおとぎ話に違いないとソレイユは思ったし、自身は恋愛小説にあまり興味がなかった。
騎士である兄はやはり少女の読む物語にはそそられなかったので、妹が選んだ本を中を改めずに公爵に渡した。
現代日本でも、R18・R15に対する考え方が厳しくなったのは平成令和に入ってからである。
昭和のころは少女漫画少年漫画といってもけっこうきわどい性表現があった。
ましてや本自体が少ないこの世界のこの時代において、未成年への性表現配慮などあろうはずがない。
騎士の妹は読書家であった。
彼女は性表現のあるなしに関わらず、面白いと思うものを喜ぶ、物語への懐深さがあったわけだが、今回は完全にそれが裏目に出た。
(もうじきお嫁にいかれるなら大人の女性よね)
ファンタジー色が強く、王道の恋愛ものでありながら物語の筋のしっかりした、文章の美しい、読み応えのあるものをチョイスしてくれた。
閨の表現がかなり露骨であることを除けば完璧といえた。
贈り物はほぼノーチェックでルナリアのもとへ届けられた。
本を贈られたルナリアはそれはもう喜んだ。
決して返してもらうことのなかったお姫様の本が、めぐりめぐって婚約者の手から渡されたような錯覚さえ覚えた。
彼が自分の話を親身にきいてくれたことだけは間違いない。
次に会うまでに本の中味について語れるようにしなくては、と部屋にこもって読書する時間を欲しがったルナリアに対して、きちんとそのための時間が与えられた。
素敵な物語だった。
黒い髪のヒロインが、長い銀の髪の貴公子に思い寄せられるが、うまく心開けず悩むさまは、ヒロインの容姿ともあいまって、非常に共感できた。
ただ、昔読んだ物語と違って、わからないところがとても多かった。
二人きりになったヒロインと貴公子が、キスの後、たぶん仲良くしているようなのだが?
(なにがおこっているのかまったくわからないわ)
「蜜壺に指を差し入れる」とヒロインが感極まって「ああ」とか「あん」などと声をあげるが、蜂蜜の入った壺に指を突っ込んでこねくりまわしても、指が汚れるだけだとルナリアは思う。
どこに声をあげる要素があるのだろう。
(わかった。お行儀があまりに悪いので、つい「あーあ」と声が出ちゃうのね。)
かき混ぜた指を美味しそうになめた貴公子が「甘い」などと妙に当たり前の感想を漏らす。
それを聞いたヒロインが「そんなこと言わないで」と真っ赤になって恥じらうのが、また不思議な気がする。恋人と二人きりでお行儀の悪い食べ方をしたから、恥ずかしいのかもしれない。これはなるほど二人だけでしかできないかもしれない、と知らずに妙に核心に近づいていたことにルナリアは気づかない。
ここではなぜか、甘いものを食べた後にしょっぱいものを出してくる。
「肉棒」である。
どんなものだろうか。想像はできる。お肉を棒状に固めて煮るか焼いたものであろう。
(ソーセージとどう違うのかしら・・・。)
ソーセージはスパイスなど混ぜて練った肉を腸につめていぶしたもので、動物の腸が必要になる。
きっともっと簡単な料理なのだろう。
そしてヒロインはどうも貴公子に食べさせてもらっているようだ。
「咥える」というからにはナイフもフォークも使っていないようだ。
平民が屋台で食べているような料理だろうか。
(ちょっとおいしそう)
お兄さんの肉棒をいかがかな?と悪い男性が寄ってきてしまいそうである。
ちなみに、前夜、遅まきながら本の内容を頭にいれておこうと、食後のお茶を楽しみながら読み始めたソレイユは中盤に差し掛かる前に飲んでた茶を盛大に吹いた。