第6話 美しい青バラの
※この物語はフィクションです。事実とは異なります。
「という訳で訓練を担当するマルスだ。武闘家をやっている」
短髪が照らされ透き通った水色の映える美しい女性、それが和希を鍛え上げる先生だ。
「バイスさんの命を受けてお前を見ることになった、が……」
マルスは足元に転がる和希を目線だけ動かして見つめた。
その仕草や浮世離れした美しさは、人間的な熱の存在しない冷酷さを感じさせるようで、和希はそれを見上げながら、いやそれどころではない、と大きく息を切らし続ける。
和希は正直運動が苦手だが、それでも日常生活に支障が出るレベルではない。和希がこうして強く鼓動を揺らしている理由はただ1つ。異常に歩かせられたのだ。
マルスはさも当然のように現在地に辿り着いているが、和希のように無様を晒していないところがやはり日頃の精進の差を物語っている。
「大丈夫か、これから訓練をするというのにそんな体で」
淡泊に告げるマルスにどことなく含みを感じた和希は、諦観するように下を見つめそうになる。
だが、こんな時に自らを鼓舞する方法を和希は知っている。
ファサ…ッとパーカーに付いたフードを被り、顔にできた黒い影の奥からゆっくりと瞳を開く。
「にししっ、安心してくださいよ…! 僕は元気ですって」
肺から漏れる息を歯で食い止め、紅く染まった目尻をポリッと掻く。
「そうか、それは良かった」
マルスはそのまま空中に手をかざし、何か魔法を放つ準備をしているようにも見える。和希は興味を持ちその姿に見蕩れながら、ぼーっと辺りを視野に入れる。
辺りは荒野、人は見当たらないが代わりに魔物が見える。和希が最初に会った魔の者と言えば魔王のことだが、それと比べるとサイズも小さいし迫力も死んでいる。厄介なのは群れでいることくらいだろうか。
「ココロがいればこのくらいの魔物は瞬殺なんだろうけどなぁ~、僕じゃあまだ歯が立たないかな?」
両手を頭の後ろに組み、和希はとりとめもない言葉を吐き出す。
「なあ、カズキ…と言ったか、私はお前のことを強くし戦えるように鍛えろと言われている。だが私は怠惰だからな、自分の強さ以外にはあまり興味がない。だからお前が勝手に強くなってくれれば良いなと、思っている。つまり――、」
マルスの伸ばした手の先にココロやスーノが現れる。
人がひとり入るくらいの大きさの穴が空間に開いていて、その先はギルドホームに繋がっているようだ。枠に手を掛けるようにしてマルスはその中へと入っていく。
「自力で戻ってこい。話はそれからにしよう。」
穴が閉じていく。
それとほぼ同時、魔物の群れがこちらにたくさんの目を向けているのを見つける。
和希は足に命令を出した。
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