第20話
投稿時間と頻度を守れ!(戒め)
赤い血と、白黒のパトカー。
和希はそれらと少女を見比べながら言葉を失っている。少女はというと腕を組んで考え込むような仕草のまま、うんうん唸っていた。
マルスがこの異様な空気感を割って声を上げる。
「おい、どういうつもりだ。その制服……国の衛兵だろう。こんなことをして――」
少女の身分を踏まえながら揶揄するマルスの言葉を制して少女は言う。
「今ダイジなとこなんだから静かにしてヨ! もウ! 戻らなかったらどうするのサ!」
少女は憤りを抑え血溜まりに目をやる。
マドイが立ち上がった。体は無傷。刺された肩は元通りだ。
「……うわ。これだから国の犬は嫌いなんですよ」
マドイは死の淵から、と言うか死の底のど真ん中から蘇って一言目で悪態をつく。
酷いヨ!と目を潤わせ少女は軽く握った両手で手招きするように拳を上下させた。
「ボク達は善良な市民を守るために日々全力だワン」
「市民をたった今轢き殺したじゃ無いですか」
「――お前はただの市民じゃない」
そう言ってパトカーの中から漁ったのであろう手錠でマドイの自由を奪うのは凜とした表情の男。こちらもまた無傷であるが、純白の制服には破れ傷が入っており、隙間からは引き締まった身体の一部が露出している。
「犯罪者は再度ブタ箱、だろ?」
男はマドイの口に何かを入れ、嘘をつかせないように仕向けた。口に入れた物を「何か」と称したが、和希にはそれが現代でも見られるようなギャグボールのように見えた気がした。生憎和希の15年のキャリアでは実物に目を触れた実績は無い。そしてこんなファンタジーの世界にギャグボールなどが存在する事はあるのかと思い、もう一度よくマドイの口元に注意を向ける。
「むごごっ! もがぐがッ…!!」
マドイは「お姉様ぁ~!!」と喉の奥だけで嘆きながらよだれを垂らした。和希は「何か」に期待を持つことを諦めた。
「 …… 」
マドイと紅髪の少女は両者ともに唸り合ってうるさくしているが、一方でもう一組静かな2人組ができていた。マルスと白服の男だ。
和希の頭に過ったのは男に対する恐れである。
マドイは犯罪者にして脱獄者であり、そんな彼女とともに仲良く一緒にいた――と想われても仕方が無い程近くで言葉を交わしていた――自分たちは衛兵に怪しまれる対象であってもおかしくない、と和希は2人の隙間を見ながら息を飲んだ。
そこに意外な一言を入れたのは男の方だった。
「先輩。明日の大会、出るんですよね」
マルスは眉をキリッと上げて受け答えする。
「もちろんだ。そしてこいつも出場するぞ」
和希の肩をクイッと引き寄せた。マルスが出場する話を知らず気を取られていたために、和希は遅れてビクッと反応する。そのまま肩を組んでマルスは続けた。
「今はみっちりシゴいているところだ」
男は気まずげな和希を一瞥し顔色を変えずにマルスに向き直る。和希はその表情にうっすらと冷淡さを感じた。
「まあお互い頑張りましょう。師匠。」
「もうお前の師匠じゃ無いと言っているだろ」
「おれは何時までも貴女の弟子ですよ。」
やれやれ顔でマルスは男に微笑んだ。和希は、彼がマルスの元弟子だと知り、怪しまれる可能性は一旦無くなったのかと胸を撫で下ろす。
「……それじゃあそろそろ行きますね。コソドロを檻に入れないと行けないので」
男の視線の先に、マドイの暴れ姿と、それを壊れた車に括り付けてなんとか抑えようと白い目を剥く少女の奮闘が見えた。足早に去ろうとする男に、和希は咄嗟に声を掛ける。
「あ!あの…… ありがとう、ございました……」
和希の小さな声が耳に届き、男は振り返る。
「あー、あんま話し掛けないでもらえると助かる。お前みたいな奴見るとむかつくから。」
和希がマルスの後ろからオドオド喋る姿を全く熱の籠もっていない目で見遣り、もう一度マルスに会釈をした後に男は荒地の方へ急いで駆け寄る。
「……イ、イラつかせちゃったか…」
和希は下を向きながらなんとか口角を上げる。
マドイを括り付けた壊れかけの車を少女が魔法を使う仕草で楽々宙に浮上させる。マドイはギャグボールの奥から慟哭を上げながらマルスに向けた涙で滝を作るも徐々にその姿も見えなくなり街の方に消えていく。
「あはは、不思議な人たちでしたね」
和希はマルスと目が合った。
すぐにその視線を外に向ける。
「……なぜ目を合わせない。私の事が嫌いか?」
「……い、いえ……―――、さぁ!師匠! 必殺技開発の途中でしたね、俺がんばります! ですからやりましょう」
和希は震えながらマルスの顔を見た。
マルスの顔に黒い影が重なる。先程和希が観せられたマドイの幻覚は、確実に和希の意識に根づいていた。
ビクつく肩を、定点がブレる手で抑え込む。和希がフードを被ろうとして衝動的に手を伸ばすと、手首を掴まれて制された。
「私の目を見ろ。お前の目で」
マルスの言葉はいやに刺さる台詞だった。
和希は自分から、そして目の前の相手から逃げてしまったような罪の意識を抱いた。
パンッとマルスは両手を弾き、整理が付いたふうに口を開く。
「――よし、今日の訓練は無しにしよう。明日の大会に向けて体を休めるべきだったな、すまない。お前はもう十分戦える」
震えと力みが和希の指先から抜けていく。マルスの言葉が妙に頭に入り込んで来た。
――これで、得体の知れない恐怖感から解放される。
震えは自然に止まり足元を見つめる和希。
空が厚い雲に覆われてゆき、和希の顔を照らす光は無くなった。またひとりになることを示すように
「――ぁあの! 俺、それでも師匠と修業がしたいです」
和希は髪の毛をくしゃくしゃに掻き乱して喉を震わせた。
くしゃくしゃの心から伸びたまっすぐ思いはマルスに伝わり彼女の首が縦に揺れる。
「だが、」
待っていてください。
→ブクマ6方目です!ありがとうございますですよ!!テストかテイストかテンペストか知らねえけど俺らでテッペン取るんすよっ!!ぜひぜひ覧ててね★☆★