第19話 制御デキナイ
ひ~ん
投稿時間守りたいから土日で書きためるしか無いよン゛
「参ったな……こうも怯えられると修業も出来ない。本番は明後日だというのに」
マルスが和希の肩に手を置こうとすると、和希はそれを左にスライドで受け流す。
「まあ仕方がないですよ。もともと周りに怯えて生きてきたのでしょう。であればそもそも存分に無遠慮に戦う才覚などないでしょうし仕方がないですよ。」
マドイの発言にマルスが顔をしかめて答える。
「仕方ない、か。それでも私はこいつに期待しているのだ。生きる希望があって、周りを救う勇気があるこいつに。」
和希はマルスに目を合わせないまま口ごもる。眉間にしわを寄せてマドイが開口した。
「……この男に勇気? 失礼ながらお姉様のおっしゃるようには感じられません。」
マドイは睨みを効かせながら和希に歩み寄った。
「まあ当人に聞けば分かる事です。どれほど情けない人生を送ってきたか、拝見しようではないですか」
「え……っ」
マドイは怯える和希の頭にゆるりと手を置いた。すると和希の頭の内側から滲み出るように光の群れが放出され、それがスクリーンのような一面の世界を形作っていく。
「彼の過去を看てあげましょう」
マドイは自身の能力を用いて和希の来し方を暴こうとしているのだ。
徐々に時間が巻き戻されるような感覚に、和希は開口したまま慄く。
そこに矮小な自分が映し出された。
世界は真っ暗に覆われ
立ち上がれもせずひとり不安だった
愛の記憶すらまだ少ない
いつからか物心付いていた
なんにも無いような心地で
きっとなんでも他人より持っていた
夜になったら目を閉じた
その度になにかが無くなった
ひとりくるまった寒い朝
木洩れ日のような光が差した
陽向に行けない僕のため
口うるさい手が差し伸べられた
視線に怖がる僕のため
そのフードで目を覆ってくれた
はじめて感じたあたたかさ
勇気の火が芽生えはじめた
伸ばした手の先が血に濡れた
「――やめてって言ってるじゃないですか!!!」
和希の慟哭が響き渡る。響いた声と一緒に辺りに飛び散るのは魔力の圧迫だ。和希を中心にして魔を帯びた風が鈍重な感じを上乗せして広がる。
マルスと、特にマドイが驚いた。
「こんな乱暴な魔力の使い方、見たことない……」
マドイは構えを取って固まり和希の方に鋭い睨みと僅かばかりの高揚を向ける。和希の犯行によって生み出したスクリーンも心象風景もすべて吹き飛びかき消されてしまった。
「二度も私の技が破られるなんて心外だなぁ」
和希の魔力による風圧を凌ぎきり、ふうっと息をつくマドイ。和希の目の前まで足を滑らせて飄々と顎に指をあてがう。
「君にはよっぽど知られたくない過去があるらしい。そのごうつくばりな精神は嫌いじゃないさ。さあ続きだ。君の心を奪わせて――」
和希の方は頬を赤紫色に染めていた。魔力の一斉解放という物がたいそう負荷になるらしい。
息を荒げてそれでも抗う和希の瞳を、空しくもマドイは犯してしまおうか、と思った。
だがその時だった。
こちらの様子を遠くから伺う男の姿があった。
米粒ほどの男の影はやがて突風とともに目の前へ。
急接近した目と鼻の先、男はボーダーのない白服姿で内に秘める体の造りの良さが手に取るように分かる。男はかっちりと正装の感を帯びた服装を着こなし見蕩れてしまいそうな身体捌きでマドイを地面に押し付けた。
「――現行犯ってやつだ。脱獄は立派な犯罪だからな、逮捕する」
「あっ、やっば…… お姉様との楽しい時間を過ごしていたら、今脱獄犯だと言う事を忘れてしまっていましたよ♪ でもあれ? 私って脱獄なんてしていなかったような気がするんですが、おまわりさん、どうでしたっけ?」
マドイは「おまわりさん」と称した男の中に入っていくように心象を操る。
膨らんで、風船ガムのように割れてしぼむ。マドイの身体はそうやって男の手を抜け出した。
男は何も無くなった自分の手の感覚を確かめながら、独り言を吐く雰囲気で和希やマルスの耳に言葉を届ける。
「マドイ・コロントーン、【心象操作】による撹乱を得意とする。能力の発動条件は、嘘をつく事。でもそれはオレに効かない」
男が腰に帯びた質素な剣を引き抜くと、視界の歪みが元に戻っていく。マドイの作った見せかけの風景が現実に戻っていくのだ。
「相手に抱かせた疑念が大きいほど、より強い幻覚を見せる能力と聞いている。ちゃちな嘘でも疑いを持ったらこちらの負け。侮れない能力だな。オレが相手で良かった」
すでに男の視界を脱けて遠くまで逃げ足を進めていたマドイは、男に掛けた魔法が解けた事を察してさらに足早に逃走を続ける。
男は背を向けて走るマドイを捕捉し、何一つ迷いの無い声で唱えた。
「【身体強化】」
次の瞬間には、マドイの肩に刃を突き刺し地面に押し倒して、自由を奪うために貫通した刃を地面に深く差し込む。
「――痛ッ!! クゥ~、ヒドいなぁ~…… 」
刺された肩からは血が噴き出し、マドイの飄々とした笑顔にも淀みが現れる。その状態にあってもマドイは抵抗することをやめない。
マドイは地に手を付き、力を振り絞って剣の柄の部分まで肩を滑らせる。もちろん刀身から抜け出す事は男側が許さないため、柄を固く握りしめたままマドイに痛みを与え続ける。
「こんなに接近して大丈夫かなぁ~?…… 私の本当の能力を知らないでしょうに」
マドイは苦しさに紛れながら言葉を吐き捨て、後ろ手で男に触れようと手を伸ばす。その指先が男に触れる刹那に、どこからともなくエンジン音とテンションの高い咆哮が聞こえてくる。
「――どいてどいてェ!! 危なぁーーイ!!!」
ガタガタと道無き道を跳ねながら進むのは、紛うことなきパトロールカーである。
一番大きな跳ねをして飛び上がった車体、その前輪が死戦の最中である2人の延長線上で豪快に回る。
ぐしゃっ
パトカーの白黒の車体が紅くペイントされる。
キキーッ と車が制動距離を稼いだ。
「――あちャー…… もう使えないかなァ」
車窓から顔を出したのは短い紅髪の上に帽子を被った少女である。
ドアが開いて身体が見えると、男が着ていた制服と同じ物を身につけているものの、体躯の小ささゆえにぶかぶかに余った布を引きずっている事が分かる。
「……まあ上官が隠蔽してくれるよネ♪」
白い制服を着た少女は、黒く笑った。
あとちょい待てて
→ワーイ!ブクマ5人目だっほーい。ギブミ、そのがっぽーり。感じたの誰かっぽーいとかじゃなく俺がオンリー 分かったよ今日も書き出すアとイ
→おっけぃ。毎度更新頻度ごーみーですいません。ご一読ありがとうございます! 二、三読くらいさせてるかもしれませんりがとござます