第17話 コントローラー
まっずいぜ
轟音と爆発を背に、和希とマルスは走り出した。
和希はアイコンタクトで逃げる方向を相談し、それにマルスが答えるように見えてきた宮殿跡の物陰に隠れる。
「や、やっば。こんな急に戦い挑まれるんだ…… 異世界人こわい……」
「あいつ、あんなに見境無く他人を攻撃するような輩だったか……?」
恐怖に慄く和希、冷静に思考するマルス、その2人を威嚇するように遠くで建物が弾ける音が響いた。
「――このままやってもあの男が死ぬだけか……」
マドイは誰に聞かせるでもなく呟いた。
「そうだ。もうお互いが信頼できなくなるくらいに、壊せば良いのですね。お姉様」
マドイが遠くを見やると、息を潜めて気を張り詰めている2人姿を見つけた。
マドイに見つかった事も知らず、和希はマルスの隣で未だにビビっていた。
(いやぁ相手脱獄犯でしょ… 怖ぇ… 何されるか分かったモンじゃねぇ…)
そんなとき、和希の隣に居たマルスが立ち上がる。座り込んでやっと隠れられる物陰に潜んでいたため、和希は見つかるのではないかという怖れの目をマルスに向けた。
(し、師匠……? 何を考えて……)
物陰を挟んだ向こう側からマドイはゆっくりと近寄ってくる。マルスもそれに応えるように宮殿跡を離れて数歩の所で2人は落ち合った。
和希はまだ物陰の隙間から2人を疑って見ている。幸い、マドイはマルスにすぐ危害を加える素振りを取ることはなかった。
「カズキ!」と、マルスの呼び声。
それにビクッと身震いで反応する。ひょいと頭を出し恐る恐る和希は両人を見つめる。
次に告げられた言葉は、和希の頭にズキッと強い衝撃となって届いた。
「お前はもういい。じゃあな。」
冷酷無比の見捨てる目。マルスはワープを開き、2人はその中に入っていく。
「お姉様なら分かってくれると思っていました! さあ、あんな奴置いて行きましょう」
逆光激しいワープの先、2人は腕を組んで前へと進む。和希はその場に力無く座り込んで、ただその光景を見ていた。
――弟子を褒めたのは、嘘だったのか。
ビビって何もできない俺を守って戦うより、長く慕ってくれる人に取り入った方が良い。歴の浅い師弟関係は捨てられても仕方ない。
和希は光を失ったように目を俯した――。
和希を呼ぶ声がする。
何度も何度も必死に呼び掛ける声は、暗闇に居る和希の胸に届いてきた。
「カズキ、しっかりしろ……!!」
声の主はマルスだ。うつらうつらとぼやけた眼でマルスの綺麗な顔が目の前にあるのを見る。
「あ…れ……、ししょう…? 俺の事、キライになったはずじゃ……」
「嫌いになるわけがないだろう… 私の唯一の友だちだ、お前は」
マルスは必死に柔らかく笑い和希の肩を揺らす。
「友……だち……?」
和希は友達を信じられなかったのだ。簡単に見捨てられてしまうと思い、信頼が揺らいだという事実が和希に飲み込み難い真実として残った。
和希の腹がマルスによって蹴り飛ばされる。
転がる体と困惑、漏れる嗚咽と絶望感。
和希は再び闇へ落とされていった――。
マルスはガタガタと震える和希を抱きしめ、「大丈夫だ、目を覚ませ」と声を掛けるも、もうその声は届いていないようだった。
マルスは思い出す。先程から和希の様子がおかしいのは全てマドイの魔法のせいである、と。
【心象操作】、それが彼女の力だった
おまち
→でけたです!お待たせしました!




