第15話 必殺作ろうの回
※この物語はフィクションです。事実とは異なります。
「今日は必殺技の修行だ。」
その一言を聞いた瞬間、和希の疲れが一気に吹き飛んだ。
「必殺技!! つ、ついに俺にもこの時が…!!」
和希は珍しく他人への遠慮の念を忘れてマルスの前に近づく。
「長かった……、ここまで基礎体力の向上に努め、チャラ付いたスキルを覚えず、質実剛健にやってきた真面目さが実りましたっ!!」
「まだ実ってないし割と身の丈に合ってない魔法も教えてきただろう」
それに…、とマルスは人差し指を立てて付け足す。
「元々の体力がないお前が本番で最低限戦えるように教える内容の取捨選択をするのも大変なんだぞ」
「ありがとーござます! 管理されてるおかげで上手くいってます! その実感があります。」
「お前、すぐに調子に乗るよな」
「……あぁ、そうですかね」
「最初の修行の日なんて、今の真逆でウジウジしていただろう」
「アッ、あんま過去の事掘り返されると……、後悔ばかりだからやめてください……」
「後悔って…、ほんの数日前だぞ」
「うわっ、思い出してきた……」
自分の頭をぽかぽかと叩きながら悶える和希を見ながら、マルスは思い出にふける。
「――そう、あの時もこんな朝だった……」
「いやちょちょちょちょっと待ってください。なに回想入ろうとしてるんですか?!」
「良いだろ。思い出を振り返るくらい」
「イヤだッつってんですよ、殊俺のことに関しては」
「……良いじゃないか。私は思い出を振り返るトモがほしい」
マルスは分かりやすく不服そうにいじける。それを見た和希はあわあわと機嫌を取る言葉を考え出してマルスの傍ににじり寄る。
「え、えっと……、安心してください。俺もおんなじ気持ちですから」
「……! 友人になってくれるということか…?」
「いやあの、俺もずっと思い出を振り返る仲いい友達がほしいなと思って、もう15年できてません。」
「…あぁ、………そうかぁ。」
マルスは共感してくれた和希に、素直に同意することができなかった。
「……まあそれを言うと、私は19年できてないわけだしな。似たもの同士だ、私たちは」
「師匠は孤高でクールっていう属性だから、周りが寄ってこないのも納得なんですけどね……」
「ぞくせい? 私がか?」
――それに比べて俺は気高くなんかないし、友達の一人や二人が出来ても良いくらいにはフレンドリーだ。と思うのに!
和希はシンプルな疑問をマルスに投げる。
「あのケモーさんって人は師匠の友達じゃないんですか?」
ケモーとは、ギルドメンバーの赤髪ロングで大人らしさがある女性だ。よくマルスと行動を共にしている。
「あー、あいつは友達とかではなくパートナーだからな。自然と一緒の時間が多くなるんだ。」
ギルドの仕事を共に処理する仕事仲間、それがパートナーであり、マルスとケモーの関係性だ。
「朝ギルドに来るとき、いつも一緒ですもんね。待ち合せとかして相当友達度高めですよ」
「一緒に来るのは当たり前だろう…? 同じ家に住んでいるのだから」
「……え?!」
そのとき和希に電流走る。
「友達どころじゃないってえコトですか!?」
「え……? いやあまり友達という認識はしていないが。友人とは対等に関わる存在のことだろう? 私はあいつに色んな事をもらってばかりだ……。何も返せないのに友と名乗ることはできない」
「あーあ! 美味しいコンテンツ見つけちゃった!」
青髪短髪孤独女子と大人の余裕系赤髪女子が同棲しているという真実を知り、和希は半ギレする。
「こんてんつ? 私達がか?」
「そうですよ! 俺の過去は置いといてもっと楽しい話をしましょう!」
「今から楽しい必殺技の修業をするんだよ。ほら、やるぞ」
「いやぁ〜! 萌え豚小説家になろうよ!!」
マルスに引っ張られ、和希は開けた草原へと移った。
その姿を見つめて呟く者が1人。
「お姉様…… 誰ですか? その男―――。」
待ってて!
→待ってた 俺たちはいつまでも待ってた