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第10話 潔癖症のパートナーと仲良くなる方法(誘拐されたとき編)

※この物語はフィクションです。事実とは異なります。

 広いながらに入り組んだ洞窟をある程度進んだところで、和希はスーノを地面に下ろす。


「ごめんね、ずっと触っちゃって……。いやだったでしょ……」


 和希は取り繕った笑みと冷や汗で謝罪の意を述べる。


「師匠が待ってるし、早く帰ろっか」


 歩み出した和希の裾をギュッと握る小さな手があった。


「……あ、あの。……いやじゃ…なかったです」


 フェイスベールの下の顔がほんのりと赤くなっているように見え、和希は少しだけ目をそらした。


――そのとき、鳴り響く轟音を背景に、野生人が目に入った。


 見ると、そこには3メートルほどの大きさの彼らが3人ほどに分裂して和希たちを捜索して回っていた。


 その中の一人がこちらの気配に気付き徐々に接近してきていた。


 和希はすぐさまにスーノの手を引いて物陰に隠れる。

 小さな物陰に体が出ないよう、2人は密着し座り込んだ。


 ごくり、和希の生唾を飲み込む音がスーノの頭に直接響く。和希は野生人の動きをこっそりと伺いながらスーノを無意識に自分のみぞおちの辺りへ抱き寄せる。


 ここで和希は野生人に見つかるピンチで頭がいっぱいだったが、別のピンチで頭がいっぱいの少女は心の中で叫ぶ。


(近い近い近い!)


 スーノは息を殺しながら、和希の腕の中で鼓動を加速させる。心臓だけではない、内臓1つひとつの動きすら伝わるような距離に居て、はじめて男の人とこれほどの近さで触れ合っている。


 ゆっくりと鼻から息を吸うと、和希の服越しに男らしい匂いが頭の中に入ってくる。頭の緊張は高まるばかり、でも体から力は抜けていくばかりで、癖になりそうな脱力感をスーノは芯から感じていた。


 走って速まった和希の鼓動とスーノのどきどきがシンクロしていく。


 スーノは和希の腰の辺りに手を回してより深く和希の匂いにハマっていく。


 和希はその動きにビックリしてスーノの方を見つめながら野生人の警戒もしなきゃとキョロキョロと視界を交錯させる。


「(ちょっ! スーノ…! 気付かれちゃう!!)」


 小声で話しかける和希を見上げ、スーノはハッと我に返る。だが今度は不安げな表情で見つめてくる和希の不意なかわいらしさに、胸がキュンと鳴いた。


「(カズキさん…♡っ! なんだかワタシおかしいんです…♡ こんな気持ち初めてで…ワタシ、どうしちゃったんでしょうか♡……)」


 和希の胸に手を置いてスーノは困惑する。熱の上がった表情を向けられて和希も狼狽える。


 熱くほとばしる2人の視線、引き寄せられるように世界が小さくなっていく。


 和希の耳元でこんなセリフが聞こえた。


「――ミ~ツケタァ゛…!!」


 途端に世界が壊れ、和希は3mの大男に首根っこを掴まれる。


 そのまま持ち上げられ握りつぶされそうになったときに、スーノは声を荒げる。


「その人を離してください。」


 頬の熱はまだ冷めやらず、ふたりだけのひとときを邪魔されたために少しムスッとほっぺが膨らむ。


「ワタシを女王と慕うなら、お願いを聞いてくれますよね。」


 握りかけた拳を止め、野生人はスーノを見つめて戸惑う。


「ジョオーサマ! コ、コイツ、キケン!」


「ワタシの言う事が聞けないんですか。」


 周りの空間が凍てついていく。背筋に雪が降るように、スーノの言葉は冷えていた。


「ヒエェーー!!!」という泣き声を放ちながら野生人は和希たちから離れ、そのまま手の平サイズ程に分裂して逃げていった。



――だが、スーノはその中の一匹を片手で捕らえ正面に向けた。


「どこに行くつもりですか。……ワタシの服を返してください。」


 一匹は涙を垂らしながら服までの道案内をしてくれた。



「あ、ありました!」


 スーノは整頓して置いてある自分の服に駆け寄っていく。和希はぼーっとその様子を眺めていたが、見えてはいけないモノが目に入った。


 スーノのショーツ。それが裏返しにされ、クロッチが前面に出ていたのである。


 気付いたスーノはヘッドスライディングで必死にショーツを覆い隠し、バッとこちらに振り返る。


「あああの、み、、みえました…?」


 カァーッと急速にスーノの雪が溶けていく。


「ぇ、えっとあの……」


 和希はこんなことを考えた。


――目の前にパンツがあるなら、今ノーパン?――


 滑り込んで乱れたドレスの割れ目(スリット)に目が行ってしまう。



――()隠して、()隠さず――


 パンツが()()()()()になっては本末転倒だなぁ。



 真っ赤に燃え上がったスーノに、ハブアナイスデイ…。






「うむ、上手く力を操作できていたぞ」


 ギルドホームに戻り、和希はマルスから褒められタイムに浸っていた。

 かけられた言葉は少なかったが、それでも嬉しいと和希はウキウキと自室に戻っていった。


 そのままルンルンでオフトンにインしてぐっすり眠りにつく。



――ガサゴソとお布団の中に紛れ込んでくる感覚で目が覚めた。


「(すん。すんすん。)」


 鼻息の荒い吸い込みが聞こえて和希は飛び起きる。


「あわわっ!? カズキさん! えっとこれには事情があって……!!!」


 スーノは壁際に追い詰められる。


「そのっ、どうしてもお昼のカズキさんの事が忘れられなくて、カズキさんのニオイに秘密があるんじゃないかって思ったんですっ。それで迷惑かけないように寝てるカズキさんのニオイを嗅いでたらその…、くっつきたくなってきて……」


 マルスは自分の胸に不安げな手を置いてこちらを見つめる。


「この気持ちが何なのか理解るまで、時々嗅ぎに来てもイイですか…?」



 こうして、キレイな少女とヨゴれていく関係が始まった。

はい、追加します。→追加しました!

記念すべき10話です!

これは来たでショ!応援ありがとうございます!

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