表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Little Twin Princess  作者: Clover☆Fairy
9/20

9章 誕生日の悲劇

 12月13日はセーラとローラの誕生日(たんじょうび)です。朝はみんな夢中(むちゅう)でパーティーの準備をしました。

 午後になると、立派(りっぱ)なスーツを着たミンチン先生に手を引かれたセーラとローラはちょっとした行列の先頭に立って、ヒイラギが(かざ)られた大広間に入りました。その後に、人形の入った箱を持つ2人の()し使いの男性、3つ目の箱を持った家政婦(かせいふ)が続き、最後には箱を持ったベッキーが続きました。

 セーラとローラはふつうに入っていきたかったのですが、プラチナ生の誕生日は特別ですから、とミンチン先生に言われていました。

 高等部の生徒たちはセーラとローラをまじまじと見つめ、初等部の生徒たちはわくわくしてじっとしていられない様子でした。

(みな)さん、静かに!」

 ミンチン先生は、ざわつく生徒たちに言いました。

「ハロルド、ロビン、テーブルの上に箱を置いて、ふたを取りなさい。エマ、お前の箱はこの椅子(いす)の上に。ベッキー!」

 ふいにミンチン先生が(きび)しく言いました。ベッキーは興奮(こうふん)してしまい、リックや近くの(せき)に座っていた他の生徒に笑いかけていたのです。うっかり箱を落としそうになり、あわてて頭を何度も下げました。

「生徒に気安く笑いかけるんじゃありません。さぁ、箱はそこに置いて。」

 ベッキーはドギマギしながら箱を置き、あわててドアの方に行きました。

「お前たちはもう下がって結構(けっこう)。」

 ミンチン先生は手を()って、使用人たちに命じます。ベッキーは先に目上の使用人たちを出て行かせました。大きなふたつの箱が気になって見てしまいます。

「ミンチン先生、ベッキーはここにいさせてもらえませんか?」

 セーラがそう言ったので、ミンチン先生はびっくりして、眼鏡(めがね)を上げました。セーラの横にいたローラも言いました。

「きっと楽しいと思うんです。今日はあたしたちの誕生日ですし、お願いします!」

「今日はあなた方の誕生日ですし、許可しましょう。ベッキー、お二人の優しい気持ちに感謝(かんしゃ)しなさい。」

 ミンチン先生は(おごそ)かに言いました。ベッキーはそう言われると、とたんに(うれ)しくなって、頭を何度も下げました。セーラとローラ、ベッキーの目には親愛の(かがや)きがありました。

「セーラ様!ローラ様!マジでありがとうございます!それと、ミンチン先生もありがとうございます!」

 ミンチン先生はドアの前を指さして命じます。

「あそこに立って、生徒たちにはあまり近づかないように。」

 ベッキーはニコニコしながらそこに行きました。これからわくわくするようなことが起きるのに、台所に行かなくてよくなるのです。

「それでは皆さん、少しお話を(いた)しましょう。」

 ミンチン先生が(せき)ばらいをしました。

「また演説(えんぜつ)か。」

 生徒の1人がささやきました。これはセーラとローラのパーティーでしたので、彼女たちに関する内容でしょう。

「ご存知(ぞんじ)の通り、セーラさんとローラさんは、本日をもって16歳になりました。高等部にはもうすでに16歳になった人もいますが、この双子姉妹の誕生日は一般生徒のそれとは違います。(さら)に成長したら、莫大(ばくだい)な財産を引き()ぎ、世のために(かしこ)く使う人になるのです。」

「ダイヤモンド鉱山のことか。」

 ジェシーがつぶやきました。

「セーラさんの頭の良さと、ローラさんのダンス、そして彼女たちのフランス語は学院の(ほこ)りです。まさにプリンセスと呼ぶべきでしょう。このような素晴らしいお友だちを持てたことに感謝(かんしゃ)しましょう。セーラさん、ローラさん、お誕生日おめでとう!」

 生徒たちは一斉(いっせい)に立ち上がりました。

「お誕生日おめでとう!」

 みんなは声をそろえて言いました。ロッティなど一部の初等部の生徒は、飛び上がりながら言ったほどでした。拍手(はくしゅ)が起こる中、セーラとローラは息を合わせてとても優雅(ゆうが)なおじぎをしました。

「セーラさん、ローラさん、おみごとですよ。プリンセスが人々から拍手を受けた時に、まさにそうおじきをします。では、この後は皆さんでお楽しみなさい。」

 ミンチン先生が部屋から出た途端(とたん)、いつもみんなをお行儀(ぎょうぎ)よくさせている魔法(まほう)が一気に()けました。初等部の生徒たちだけでなく、高等部の生徒たちもあっという間に席からいなくなりました。

 ジェシーはハリーにこう言いました。

「私はラビニアの近くにいたいから、君は彼女たちのプレゼントでも見せてもらったらどうだい?めったにこのチャンスはないよ。」

 生徒たちは箱に集まっていたので、ハリーもその中に加わりました。

「これはきっと本だわ。」

 アーメンガードはびっくりして言いました。

「本!?あなたたちのお父さんも、誕生日に本を送ってくるの?」

「セーラがたのんだの!」

 ローラはそう言って、大きな箱に向き直りました。セーラとローラがそれぞれ大きな箱から人形を取り出すと、みんなは歓声(かんせい)を上げました。

「こんなに大きい人形ははじめて見たぜ!」

 ケントはびっくりしたように言いました。ロッティは嬉しくなって飛びはねました。

「なかなかの代物(しろもの)だな。」

 少し(はな)れたところからニコルがほほえみながら言いました。ニコルは学院の誕生日パーティーでこんなにわくわくしたことはありません。7月17日にある自分の誕生日パーティーでさえ、冷静にふるまっていました。

 セーラとローラは(ゆか)に座って、それぞれトランクを開け、中身を出しました。レースの付け(えり)(きぬ)靴下(くつした)とハンカチ、もふもふのマフラー、パーティー用のドレスにスポーツウェア、訪問着(ほうもんぎ)帽子(ぼうし)やティアラにネックレス、(おうぎ)までありました。

 女の子たちはもちろん、人形遊びに興味がないはずの男の子たちまで大はしゃぎで、ひとつひとつを手にとって、うっとりと眺めています。

 その時、アメリア先生が入ってきました。

「セーラさん、ローラさん。あなたたちのお父さんの事務弁護士、バロウさんがもうすぐいらっしゃるの。食堂(しょくどう)にごちそうの用意ができているから、みんなで食べに行きましょう。」

 ごちそうと聞いて、みんなは目を輝かせました。アメリア先生はセーラとローラを先頭に生徒たちを2列にならばせ、部屋を出て行きました。

 ベッキーはアメリア先生に仕事に(もど)るように言われていましたが、ごちそうをいただくわけにはいかないので置き去りにされたふたつの人形とトランクやドレスを眺めていました。部屋の外からミンチン先生の声がしたので、ベッキーはあわててテーブルクロスの下に(かく)れました。

 ミンチン先生は小柄(こがら)紳士(しんし)を連れて部屋に入りました。

「バロウさん、どうぞ座ってください。」

 バロウ弁護士はすぐには座りませんでした。ふたつの人形やそのドレスを眺めていました。

「この人形、2つで200ポンド以上はするでしょう。高級な材料で、パリの老舗(しにせ)の仕立て屋によって作られたものですね。あの男は、娘たちのためなら湯水のように金を使う。実にばかげている!」

 ミンチン先生は、その発言を不快に感じました。失礼だと感じたからです。

「失礼ですがバローさん、おっしゃっていることが理解できません。」

「16歳の子どもたちにばかげたぜいたくだと、私は言っているのですよ。」

 ミンチン先生は()すじを()ばし、かたい口調で言います。

「クルー大尉は裕福な資産家です。ダイヤモンド鉱山を…。」

 バロウ弁護士がくるっと()り返り、大声で言いました。

「ダイヤモンド鉱山!?そんなもの現代にあるはずがない!雲をつかむような話です!事業の経験もないのに全財産をつぎ込んだのです。今は()きクルー大尉は…。」

「今は亡き!?どういうことですか?」

 ミンチン先生が取り(みだ)したので、バロウ弁護士は冷静に言いました。

「ダイヤモンド鉱山で起こった不慮(ふりょ)事故(じこ)()()まれて、亡くなりました。娘たちに財産は何ひとつ残さずに。今開いているパーティーはそちらの支出(ししゅつ)になりますな。多額(たがく)請求(せいきゅう)の支払いもせずに、クルー大尉は亡くなりましたからね。」

 やっと、ミンチン先生は事情(じじょう)理解(りかい)しました。自慢(じまん)のプラチナ生がミンチン学院から消えていくのを感じました。クルー大尉、セーラ、ローラ、バロウ弁護士に何もかも強奪(ごうだつ)されたような気持ちになりました。

「これ以上は何も支払わない方がいいでしょう。」

「あの子たちは一文無しですって…!?とんでもない!あの双子を今すぐ追い出します!」

「待て、マリア!」

 出て行こうとするミンチン先生を、父のマルク先生がおさえつけて止めます。その様子を見てバロウ弁護士は言いました。

「やめておいた方が良いでしょうな。一文無しになった生徒を追い出すと、悪いうわさが出かねない。あの娘たちはもう16歳だ。ここで働かせる、というのはどうでしょう。では、失礼。」

 バロウ弁護士はおじぎをして出て行きました。

「放して、お父様!あの双子はやっかいなお荷物になったのよ!」

 ミンチン先生がそう(さけ)んだとき、わっとテーブルクロスの中から泣き声が聞こえてきました。

(だれ)かいるのか?」

 マルク先生の注意を引いたすきに、ミンチン先生は走って()げました。テーブルクロスをめくると、そこにはベッキーがいました。

「いけないと思っていながら、人形を見てたンスよ。先生方が入ってきたから怖くなって、ここに隠れたンス…。」

「まさかとは思うが、話を聞いていたんじゃないだろうな?」

 いつもと(くら)べて厳しい口調で、マルク先生は言いました。

「聞いてないッスよ!でも、聞こえてしまったンスよ!()け出そうとしたくてもできなくて!セーラ様とローラ様を追い出すなんて…!マジでどうかしてるッスよ!」

 ベッキーはそう言って、また泣きだしました。

「わかった、彼女たちが追い出されないようにしよう。とりあえず仕事に(もど)りなさい。」

 ベッキーはうなずき、台所に戻りました。マルク先生はその時、ミンチン先生がいないことに気がつきました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ