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Little Twin Princess  作者: Clover☆Fairy
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5章 リックとロッティ

 学院でも指折りのお金持ちで明るく優しいセーラとローラに、プラチナ寮の男の子たちも関心がありました。中でもニコルは、何かと幼なじみのセーラとローラのことを気にしていました。

「セーラとローラはチャーミングだと思うよ。だから、ニコルもそんな彼女たちを放っておけないんじゃないかな。」

 クラウス・ワイアットが言いました。クラウスは金髪の美少年で女の子にモテモテですが、かなりのナルシストなので他のプラチナ生からは軽い男だと思われています。

「あのニコルが冷静じゃなくなるほど人を好きになることなんてあるのかな?」

 携帯(けいたい)ゲーム機を持った見るからに内気そうな男の子が、クラウスに質問(しつもん)を投げかけます。このピーター・マクナリーという少年は、IT企業の社長の御曹子(おんぞうし)で、クラウスと同じ高等部の3年生です。

 クラウスもピーターも、セーラとローラとは同じクラスの生徒です。

「セーラとローラは、マスグレイブ夫人にインドのお話をしなさいと応接室に呼ばれていたぜ。」

 そうおどけた口調で言ったのは、2年生のケント・シンクレア。ケントはプラチナ生のムードメーカーで、学院のサッカーチーム「ミンチン・イーグルス」ではキャプテンを(つと)めています。

「そういえば、この前もピトキン夫人にフランス語でお話しなさいとミンチン先生に言われていたぜ。」

「学校で習ったわけじゃないのにね。お母さんがフランス人だったからでしょ。」

 ピーターはため息をつきました。

「だよな!サクラもただ聞いてるだけで覚えられるなら苦労しない、って言ってたもんな!」

 ケントも納得(なっとく)したように言いました。

「ラビニアのことなんだけどさ、セーラとローラのことが(きら)いなんじゃないかな。」

 ピーターが話題を変えました。ピーターは、ラビニアが事あるごとにセーラとローラに敵意を向けているのを見ていたのです。

 ラビニアは、世界的に有名なアメリカの大手芸能プロデューサーのダニエル・ハーバートと女優キャロル・ハーバートの娘で、シンガーソングライターのカルロス・ハーバートの妹です。ラビニアもティーン向けのファッション雑誌(ざっし)「ブリリアント」のモデルで、「エンタメは世界を救う」と言うほど仕事には真面目(まじめ)に取り組んでいる少女でした。168㎝もある身長とツインテールに結われたオレンジの髪も美しく、ルビーのような赤い(ひとみ)も人を()きつける魅力(みりょく)があります。

 モデルとして妥協(だきょう)を許さず、ミンチン・イーグルスの応援(おうえん)にも力を入れているラビニアですが、赤薔薇の権力(けんりょく)を利用して他の生徒にいばる意地悪なところもありました。自分と同等の権力を持つ白薔薇のニコルに注意されても、聞く耳を持ちません。

 幼なじみのジェシーは、「赤薔薇の騎士(きし)」と呼ばれるほど美しく優雅(ゆうが)な立ちふるまいをしていましたが、どことなく人を見下していました。ラビニアに心酔(しんすい)しており、他の生徒にはアメとムチを使い分ける態度(たいど)をとっていました。制服と仕事で着る撮影(さつえい)用の衣装(いしょう)以外のラビニアの服装(ふくそう)を決めているのはジェシーでした。

猿回(さるまわ)しと(さる)だね。」

 ピーターは鼻で笑いました。

 セーラとローラがいばらないというのは、本当でした。彼女たちは優しく、なんでも人に分けあたえたのです。この学院では、高等部の1年生になる13歳にもなると、すっかりおとなのつもりになります。小さい子たちを泣かせたり、ひどい時にはけがをさせることもありましたが、セーラとローラはそんなことをしません。

 むしろ優しく、転んでひざをすりむいた子がいたら飛んで行って起こし、保健室で手当てを受けさせて、その後にポケットからキャンディを渡してあげました。相手が初等部の生徒だったとしても、年齢(ねんれい)を理由に軽んじたり邪険(じゃけん)(あつか)ったりすることはありませんでした。

 初等部の4年生で11歳のリック・レグーは、絵を()くのが好きな男の子でした。この日もリックは、ローズガーデンにて絵を描いていたのですが、高等部の生徒にスケッチブックを取り上げられたので、取り返そうとしました。しかし、この男の子の方がリックより体が大きく力も強いので、()(たお)されてテーブルに(うで)を打ってしまいました。

大丈夫(だいじょうぶ)だよ、ロッティ。」

 リックが妹のロッティ・レグーを心配させまいと立ち上がろうとした時、男の子がロッティに向き直ったのを見たセーラは(きび)しく言いました。

「あなただって8歳の時は、8歳だったはずよ!でも次の年には9歳、その次の年には10歳になるわ。そして、12年経てば20歳になるのよ。」

「ばかにするな!計算ぐらいできる!」

 8+12=20。確かにそうですが、20歳という年齢を出されたら、どんなにおとなぶっていたとしてもまったく想像(そうぞう)ができずたじろぐしかありません。その男の子はスケッチブックをそばのテーブルに置くと、走って行きました。ローラはリックにスケッチブックを返してあげました。

 だから、初等部の生徒たちはセーラとローラを(した)っていました。

「セーラとローラに会うためについてきたのか。」

「そう言う白薔薇様も、その2人のことを何かと気にかけてるじゃないですか。」

 ニコルとハリーが愛するセーラとローラは、部屋で初等部の生徒たちを集めたお茶会を開くことがありました。花柄(はながら)のティーセットにうすめた(あま)いお茶をふるまったのです。この時には、バニーユとフレーズもみんなをおもてなししました。ハリーもニコルの手伝いという口実で、このお茶会に参加していました。

 リックとロッティの兄妹(きょうだい)は、本当にセーラとローラのことを姉のように(した)っていました。交通事故で両親を()くし、遺産(いさん)目当てで子どもたちを引き取った叔父(おじ)さんに邪険に扱われ、厄介払(やっかいばら)い同然にこの学院に入れられたのでした。

 リックはそのトラウマで大人を信じられなくなってしまい、先生を(こま)らせていました。ニックは気弱な男の子でしたが、「ロッティは自分が守らないといけない」と強い責任感(せきにんかん)を持っていました。

 セーラとローラがはじめてこの兄妹の面倒(めんどう)を見たのは、ある日曜日のことでした。()(さけ)ぶロッティと意地でも動かないリック、そんな2人をなだめるアメリア先生とカール先生を見つけました。

「リック!いいから出なさい!」

「嫌です!ロッティを置いていきたくありません!」

 アメリア先生は言い争うリックとカール先生を見て、おろおろしています。

「困ったわ。お姉様に見つかってしまったら、どうすればいいのかしら?」

 ミンチン先生に見つかれば(おこ)られてしまいます。セーラはアメリア先生に声をかけました。

「あの、アメリア先生。」

「ああ、セーラさん、ローラさん。」

 アメリア先生は驚きました。

「わたしたちなら、ロッティをなだめることもできると思います。リックもロッティから離れたくなさそうですし。」

「あなたたちなら、ロッティをなだめることもできそうね。行きましょう、カール。」

 アメリア先生とカール先生が部屋を出ました。セーラとローラはリックのとなりに座って、静かにロッティを(なが)めました。ニックはロッティの叫び声以外物音がしないので不思議に思い、セーラとローラの様子をうかがっています。いつもなら、ロッティが泣き叫ぶとたくさんの人が集まって、なだめたり、怒ったりします。リックは妹が見世物(みせもの)にされるのがたまらなく嫌でした。

 ()じていた(なみだ)のあふれる目を開けると、リックの他に2人の女の子がいます。しかも、彼女たちはバニーユやフレーズなどといった、すてきなものをたくさん持っている双子の姉妹なのです。

 ロッティはしばらくしてまた泣こうとしました。しかし、部屋があまりに静かなので泣くのも気が乗りません。

「いない!パパも、ママも!」

「あたしたちにもママがいないのよ。」

 ローラが優しく言いました。思いがけない言葉にリックもロッティもびっくりして、ローラを見ます。何をやってもうまくいかなかったのに、このやり方は大成功でした。大人を信用することができなくなっていたリックとロッティでしたが、なぜかセーラとローラのことは好きでした。

「どこに行っちゃったの?」

 ロッティは気になったので、横になったまま聞きました。

「天国に行ったのよ。わたしたちからは見えないけど、ときどき会いに来てくれるの。あなたたちのパパとママは今、この部屋にいるんじゃないかしら。」

 セーラが答えます。お母さんは天国に行ったということを聞いていましたが、セーラは一般的(いっぱんてき)に知られている天国とは(ちが)ったものを考えていました。

 ロッティはぺたんと座り、あたりをきょろきょろと見まわします。カールした金髪に、まんまるな(むらさき)の目が涙で、(つゆ)のおりたワスレナグサのようです。この30分ほどの間、ずっと見られていたとしたらきっと(あき)れられていたかもしれません。

 ローラの話す素敵(すてき)な天国の話に、リックとロッティはうっとりと聞き入っていました。パパとママは天国に行ったんだよ、とリックはロッティに話していましたし、自分で描いた天使の絵も見せていました。その天使は、背中(せなか)に白い(つばさ)が生えていて、頭の上にわっかがありました。しかし、ローラが話す天国はどこかに本当にありそうで、住人も普通の人間でした。

「どこまでも、どこまでも、ユリのお花畑が続いていて、人々はいい(かお)りのする空気を()っているの。子どもたちは元気に走ったり、花輪を作ったりして遊んでいるの。通りはキラキラで、どんなに歩いても(つか)れないの。(かべ)(ひく)くて、そこからあたしたちを見下ろすことができるのよ。」

 ローラが何を話しても、リックとロッティは興味を持ったでしょう。しかし、この天国のお話が他のどのお話よりも素敵なものでした。

「双子のママっておかしいわよね。なら、あなたたちのお姉ちゃんになってあげようか?」

 お話が終わった後、ローラが少しおどけた様子で言いました。ロッティが真っ先にうなずき、つづいてリックもうなずきました。

 4人はセーラとローラの部屋に歩いて行ったところを、アメリア先生とマルク先生は見ていました。マルク先生はミンチン学院の前学院長で、ミンチン先生、アメリア先生、カール先生のお父さんです。

「あれ、ロッティはもう泣きやんだのかい?」

「セーラさんとローラさんがなだめてくれたのよ。」

 セーラとローラはこの事件をきっかけに、リックとロッティのお姉さん代わりになったのです。

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