4章 ハリー
この双子の姉妹はたちまち、学院内で人気の高い生徒になりました。姉のセーラは心優しくて頭も良く、妹のローラは明るく運動神経もいいことと、自分たちのことを自慢しないことが人気の理由でした。
プラチナ生のガートルード・ソロモンは、2年生のサクラ・ヨシノを自分の部屋に呼んでいました。
「ルーちゃん、話って何?」
サクラはお茶を飲みながら、向かい合って座るガートルードに言います。「ルーちゃん」というのは、サクラがつけたガートルードのあだ名です。
「あの双子のこと。ラビニアは明らかにライバル視しているわ。」
「確かにラビニアさんの前で話すのは、やめた方がええね。」
ラビニアはセーラとローラのことをねたんでいました。赤薔薇である自分をさしおいて、セーラとローラがちやほやされるのが嫌だったのです。
「ジェシーさんから聞いたんやけど、セーラさんとローラさんは勉強したわけでもないのにフランス語が得意なんやって。英語やフランス語を聞くだけで覚えられるなら、うちも苦労せえへんのに。」
サクラは「吉野流」生け花の家元の娘で、ミンチン学院の生徒の中ではたった1人の日本人です。まわりがほとんど欧米人の環境で苦労するのもしかたのないことでした。
セーラに恋をする男の子はたくさんいましたし、ローラもセーラとそんな男の子たちの橋渡しをすることがありました。セーラの元には毎日のように、ラブレターとプレゼントが届きました。
ある放課後、ローラはハリーに声をかけられました。ハリーは茶髪の快活な少年で、クラスのムードメーカーのような存在です。
「ローラはセーラとは双子の姉妹なんだろ?これをセーラに渡してほしいんだ。」
「へえ、自分で渡せば?」
ローラはハリーから渡されたプレゼントを見ました。
「いいわ、これをセーラに渡せばいいのね?ライバルが多いわよ!」
プレゼントを受け取ったローラは、セーラを探しに行きました。ハリーはその後ろ姿を眺めていました。
ハリーはこれまで女の子にプレゼントを贈りたいと思ったことがありませんでした。美しく心優しいセーラに、ハリーは生まれて初めての恋をしていました。
ハリーが歩いていると、メイナード先生がアメリア先生を遠くから見ていました。アメリア先生はカール先生と姉弟で話をしているようです。
メイナード先生が何回かため息をついていた理由が、ハリーにはわかりました。邪魔をしてはいけないと思い、そっとその場から離れました。
「メイナード先生はアメリア先生のことが好きなんだな。」
ひとりごとを言ったハリーですが、ふとローラと話しているセーラを見つけました。ローラはセーラにプレゼントを渡しています。
「自分の気持ちは、自分で伝えなきゃ!」
それを見てハリーはそう思い、セーラに声をかけました。
「セーラ、今日も素敵だな!」
「ありがとう、ハリー。」
セーラはハリーににっこりと笑いました。ハリーは照れながら言いました。
「そのプレゼント、おいらからなんだ。」
「あなたからなのね、嬉しいわ。」
ミンチン学院の生徒の多くは裕福な家庭で育った子どもたちですが、奨学金で入学する庶民や移民の子どもたちもいます。ハリーも奨学金で入学した生徒の1人でした。
奨学生は高い学費を払う必要はありませんでしたが、裕福な生徒たちより下に見られるなど待遇はよくないものでした。
セーラとローラは、邪険に扱われがちな奨学生にも優しく接するので、彼らからも支持されていました。だから、ハリーがセーラに恋をするのも当然のことでした。
今まで恋を知らなかったセーラですが、ハリーは自分のことが好きだということを知りました。