3章 アーメンガード
淡い金髪を三つ編みにした女の子は、セーラとローラがぺらぺらとフランス語を話すのを驚いて見ていました。アーメンガード・セントジョンは、「ラ・メール」がお母さんで「ル・ペール」がお父さんということすら覚えられませんでした。
アーメンガードのフランス語の発音はあまりにひどいもので、デュファルジュ先生も思わず笑ってしまうほどでした。
「笑うなんて、ひどいわ。」
セーラはそう思いましたので、アーメンガードの発音も聞こえないふりをしました。
「あなたたち、フランス語が上手なのね!」
授業が終わり、デュファルジュ先生が教室を出た後、アーメンガードはセーラとローラに話しかけました。教室のあちこちで話をしていた生徒たちは驚いて3人の方を見ています。
「確か双子のセーラとローラだったわよね!白薔薇様と親しいみたいだけど、どんな関係なの?」
一方的に早口でしゃべるアーメンガードにたじたじとしながらも、セーラは言いました。
「ごめんなさい、その前にあなた、なんて名前なの?」
「あ、私はアーメンガード・セントジョンよ。」
「物語に出てきそうね!」
ローラが言いました。クラスメートたちは、アーメンガードが自分の過去を知らないセーラとローラに近づいたのではないかと思いました。
セーラとローラはその後もずっとアーメンガードのことを見ていて気の毒になりました。数学では数式の間違いを指摘され、情報ではパソコンで作ったおかしな表を誤って2回も印刷してしまい、歴史ではクラスメートだけでなく授業を担当するメイナード先生にも呆れられました。
アーメンガードは勉強が苦手で不器用だっただけではありません。アーメンガードは自分の妄想をノートに書くのが趣味で、「ミンチン・タイムス」という学院の壁新聞にその妄想を書いて問題になってしまい、新聞部をやめたのです。「スキャンダル・メーカー」と呼ばれるアーメンガードのことを苦手な生徒も多く、関わりたくないと思うクラスメートもいました。
放課後、落ち込むアーメンガードにローラは言いました。
「あたしたちの部屋に来ない?バニーユとフレーズも待っているわ。」
アーメンガードがうなずくと、セーラとローラはアーメンガードを自分の部屋に連れて行きました。部屋の前まで行くとセーラはひそひそ声で言いました。
「今日はバニーユとフレーズが歩いたり、話したりしているのを見られるかもしれないわ。」
足音を立てないように数歩歩いたと思えば、セーラは勢いよくドアを開けました。バニーユとフレーズは椅子に座っていました。
「見つかる前に、元の椅子に戻っているわ。」
「イナズマのようにすばやいんだから!」
バニーユとフレーズを見て、アーメンガードは気付きました。
「ああ、バニーユとフレーズってこの子たちだったのね!私、あのアニメ大好きだったの!」
アニマルアカデミーは10年前に放送されていたアニメで、当時は世界中の子どもたちがこのアニメを観ていました。そのためミンチン学院の高等部の生徒たちは、このアニメをリアルタイムで観ていた世代です。
「この人がアーメンガード・セントジョンよ。だっこしてみる?」
「え、いいの?」
アーメンガードはまずはフレーズを、次にバニーユを手に取りました。ふわふわのぬいぐるみは手ざわりが良く、かわいいです。
「どうして、あんなにフランス語が上手なの?」
アーメンガードはセーラに聞きました。
「いつも聞いていたからよ。あなたも聞いていたら話せるわ。」
「絶対に無理だわ!聞いたでしょ、いつもあんな調子なの。」
アーメンガードの悩みは、名門大学で教授をしているお父さんと、頭のいいお姉さんとお兄さんがいることでした。お父さんは語学を教えており、英語やフランス語の他に、イタリア語、ドイツ語、スペイン語、中国語、韓国語、日本語を話せるマルチリンガルで、何千冊もの本の内容を暗記しているような人で、自分の子どもたちに外国語の簡単な文章を書けることと、数式や歴史の暗記はできて当然と思っていました。
アーメンガードは、そんなお父さんにとっては困った存在で、お姉さんとお兄さんは優秀なのになぜこの子はぱっとしないのか理解できませんでした。お姉さんやお兄さんも勉強ができないアーメンガードのことを見下していました。
「あんたを見ていると、イライザ叔母さんを思い出すわ。」
アーメンガードはお姉さんによくそんなことを言われていました。イライザ叔母さんはアーメンガードのお父さんの妹で、物覚えが悪く覚えてもすぐに忘れてしまうような人でした。
「そうだわ、あなたたちのことを親友にしていい?セーラはかしこくて、ローラは明るくて、私はクラス一の問題児だけど、あなたたちのことが大好きよ!」
セーラとローラはほほえみ、うなずきました。
「あたしたち、もう親友よ!」
「これからは、フランス語の勉強を見てあげるわね。」