17章 魔法
ジェシーはラビニアの部屋に来ていました。
「庶民のハリーがセーラに、白薔薇のニコルがローラにデレデレしてて、本当に不快だったわ。」
不満を言うラビニアにジェシーが言います。
「欲望を抑えきれずにメイドに襲いかかったとなれば、彼らへの評価も下がるだろう。そうなれば、ニコルは白薔薇ではいられなくなるどころか、この学院にもいられなくだろうね。」
「メイドに恋なんかするから、こんなことになるのよ。」
ラビニアは、セーラとローラがメイドになったとしても彼女たちを愛するニコルとハリーが許せませんでした。
セーラとローラは、とぼとぼと屋根裏部屋に向かいました。そこにベッキーがやってきました。
「セーラ様!ローラ様!部屋が大変なことになってるッス!」
ベッキーがあまりにも慌てているので、セーラとローラは急いで自分たちの部屋を確認しました。
夢でも見ているのでしょうか。見ると、ふたつあるベッドには分厚いベッドカバーがかかっており、ふわふわの毛布もあります。テーブルの上には、なんとごちそうまでありました。さらに、テーブルに置かれたランプも夢のような演出をしていました。
「夢かしら?」
セーラは部屋に入り、考えました。すぐ近くで、ローラはテーブルの上のフォークを手にしています。
「セーラ!これは夢じゃないわ。きっと魔法よ!ベッキーやシンディも呼んで食べましょう。」
ローラの呼びかけにうなずいたセーラは、部屋に戻っていたベッキーとシンディを呼び、4人でごちそうをいただきました。
「魔法」は次の日も続きました。朝起きると、ボリュームのある4人分のパンがテーブルの上にあったのです。セーラとローラ、ベッキーとシンディはそれを食べて、元気に仕事を始めました。
一方、なぜニコルが白薔薇をやめなければいけないのか納得がいかず、ハリーは悔しい思いをしていました。そんなハリーに、ピーターが声をかけました。
「ニコルへの処分を取り下げてもらえるように僕たちからも言うよ。大丈夫、君たちが困るようなことにはしないから。」
放課後、ラビニアとジェシー、そして新しい白薔薇のクラウスにとって都合のいい内容の記事を作るために、ミンチン・タイムスの編集をする新聞部はジャネットに取材をしていました。いつもは笑顔で何を考えているかわからないジャネットですが、明らかに怒っていました。
「相手の気持ちを考えずに面白半分で取材を行うなんて無神経です!それで白薔薇だったお兄様は困っているんですよ!学院の新聞を作るなら、それくらい考えるのは当然ではないのですか!?」
はじめて聞くジャネットの大声に新聞部員はびっくりして、ほかの記事について話し合いながら歩いていきました。近くのテーブルに座っていたリックが言いました。
「ジャネット、見直したよ!お姉ちゃんたちが見世物にされるのが嫌だったんだけど、僕はそんな行動力がないし…。」
「いえ、私は当然のことを言っただけです。あまりに無節操だったので。私はこれで失礼しますね、リック。」
いつもの笑顔に戻ったジャネットがこう言うと、リックを置いて歩いていきました。
「ジャネットに初めて名前を呼ばれた…。」
呆然とするリックのもとに、ハリーとロッティがやってきました。
「ジャネットはお兄ちゃんのことが好きなんだよ!お兄ちゃんったら、にぶーい。」
「そ、そうなの?」
兄をからかうロッティと視線をずらすリックの横で、ハリーはつぶやきました。
「よく言ってくれたな、ジャネット!」
その頃、ジャネットはプラチナ生のピーター、サクラ、ケント、ガートルードと合流していました。ミンチン先生に本当のことを言うために、みんなで院長室に行くためです。
「なんですって?クラウスくんが不正を行って白薔薇の地位を得たのですか?」
聞き返すミンチン先生に、ピーターが言いました。
「はい。クラウスは自分が白薔薇になるために、ラビニアやジェシーと協力してニコルを罠にはめました。」
「院長先生、こちらが証拠となる音声です。」
ジャネットがそう言って、持って来ていたスマートフォンに録音した音声を再生しました。クラウスは実力ではニコルに勝てないから、ラビニアやジェシーと不正を行ったのです。
この日の夕食後、ラビニアたちは院長室に呼び出され「二度とほかの生徒に危害を加えない」と誓約書を書かされました。これを書かないとプロムに参加できませんし、ラビニアは赤薔薇をやめさせられてしまいます。不正が発覚したクラウスも、白薔薇の地位を剝奪されました。
「みんな、俺のために動いてくれたのか。」
ひさしぶりにプラチナ寮の談話室に顔を出したニコルが言いました。
「ラビニアたちのやったことが許せなかったんだ。それに、ニコルは白薔薇にふさわしい人だと思う。」
ピーターは少しほほを赤らめながら言いました。ピーターはニコルのことを尊敬していましたし、自分にはないリーダーの素質があるとも思っていました。
次の日の朝食が終わると、ニコルはミンチン先生に呼び出されました。ニコルはなぜ呼び出されたかわかっていました。
「ニコルくん、あなたには白薔薇に戻ってもらいます。」
院長室でそれを聞いたニコルは嬉しくなりました。そして、お礼を言いました。
「ありがとうございます!」
この日もセーラとローラ、ベッキーとシンディは用意してくれた朝ごはんを食べて、仕事をしていました。放課後、アメリア先生とカール先生は姉にセーラとローラを探して院長室に連れてくるよう言われました。セーラとローラが来ると、ミンチン先生が言いました。
「セーラ、ローラ、お前たちあてに荷物が届いています。明日は働かなくていいから、放課後のホームルームにこの中の服のうちどれかを着て行きなさい。メイナード先生にも話をしておきますね。」
ミンチン先生はそう言って、ふたつあるトランクをそれぞれセーラとローラに渡しました。セーラとローラは自分たちの屋根裏部屋にこのトランクを運んで話をしました。
「『右側の屋根裏部屋の少女たちへ。』と書いてあるわ。きっと魔法使いさんからよ、ローラ!」
セーラがローラに持っていっていた名刺を見せました。ローラは目を輝かせ、うなずきます。
トランクを開けてみると、たくさんのお洋服がびっしりとつまっています。セーラとローラは次の日に何を着て行こうかと話し合っていました。
次の日の放課後のホームルームで、メイナード先生は明るい声で言いました。
「今日はみなさんに特別なゲストをお呼びしています。入ってきてください!」
メイナード先生の合図で、セーラとローラが入ってきました。驚く生徒たちにメイナード先生は言いました。
「世の中には不思議なことがあるんですね。ないと思っていた遺産があったんでしょう。」
3年A組のみんなと記念写真を撮った後、セーラとローラはピーターに話しかけられました。
「大事な話があるから、この後プラチナ寮に来てほしいんだ。」
談話室に来てみると、ニコルに連れられて来たハリーもいました。ニコルのブレザーには、白薔薇のブローチが輝いています。しばらくすると、ピーターがラビニア、ジェシー、クラウスの3人を連れて談話室に入りました。
「ごめん!あんたたちにひどいことをして、赤薔薇として失格だわ…!」
真っ先にラビニアが頭を下げました。泣き出すラビニアに、セーラは優しく言いました。
「そんなことないわ、ラビニア。あなたは、なんにでも熱心に取り組むすばらしい赤薔薇様よ。」
「セーラ、僕たちも君の優しさを見習わないといけないね。実に魅力的だよ。」
クラウスがセーラをほめたので、ラビニアは注意しました。
「クラウス、その前にあんたはあやまらないといけないでしょ!あんたが提案しなかったら、こんなことにはならなかったんだから!」
ラビニアとクラウスの様子を見て、ジェシーがすまなそうに言いました。
「私たちは許されないことをした。君たちを欺いてしまったのだからね。この一件で私たちは君たちの絆の美しさを実感したよ。」
こういったジェシーに続いて、クラウスも言います。
「僕も申しわけないと思っているよ。取り返しのつかないことになっていたかもしれないからね。」
あやまったラビニアたちを見て、ピーターはこう言いました。
「ラビニアたちはあの後、もう二度としないように言われたからね。これからはこんなことはないと思うよ。」




