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子ども捜索大作戦編-3

 翌日、栗子と桃果はコートとマフラーを着込み、真凛を探すべく出かけた。二人とも手袋もして、防寒もバッチリである。防寒でモコモコとした出立ちになった栗子は本当に羊のようだ。


 片手にはチラシをもち、何か役に立つかも知れないと、メモ帳やペン、オペラグラス、ICレコーダーも一応カバンに入れて置いた。ICレコーダーは、香坂今日子の事件のとき、元夫の前妻の息子・雪也から貰ったもので大活躍した。


 亜弓は今日で仕事納めだと元気に出かけてしまったが、この行方不明の女の子を探す事については特に文句は言ってこなかった。


「寒い、シーちゃん!」

「そうね、とりあえずどこ行く?」


 12月末になり、もう風も冷凍庫にいるかのように冷たい。でもこんな時に娘がいなくなった母親の気持ちを思うと、文句も言えない。


「とりあえず最後に目撃された商店街近くの公園に行ってみましょう」

「そうね! その後は、どうするシーちゃん?」

「住宅街の方を見てみましょう。何となくそう遠くに行っていない気もするのよね」


 栗子はチラシを見つめながら言う。根拠は無いが、ロリコンがらみの犯罪だとしたら、そう遠くまで行っていない気もする。そういえば5年ぐらいロリコンの不審者がいたという噂も聞いた事があるし、あり得ない話では無いかもしれない。


 栗子と桃果は寒さに身を縮めながら、商店街のそばの公園に向かった。途中、あまりにも寒かったので自動販売機で温かい缶コーヒーを買い、指先と口の中でを温めた。


 公園に入ると、小学生ぐらいの子供がキャッキャと騒いでいた。小さなボールのようなものを投げたり、蹴飛ばしたりして遊んでいる。


「ちょっと子供達に聞いてみようかね」

「えー、シーちゃん行くの〜?」


 桃果はちょっと疲れたのか、公園のベンチに座って休んでいた。


「ねぇ、ぼくたち。ちょっと聞きたい事があるんだけど、いい?」


 お菓子でも持ってきた方が子供の口が軽くなるかもしれない。今度行くときはコージーミステリヒロインらしく、お菓子を持って行こう。


 子供達は寒さでちょっと鼻の頭が赤くなっていた。中には、鼻水を垂らしている子もいてちょっと微笑ましい。子供達は人畜無害のルックスの栗子に特に警戒心を持っていない様だった。シープルと死んだ夫に言われた事は腹立たしいが、シープ(羊)に見られるのはこういう時良いものだ。


「この子、知らない?」


 栗子は真凛の写真が載っているチラシを子供達に見せた。


「真凛じゃん。ウチらと同じクラス」


 鼻水を垂らしている子供が言った。


「行方不明になってるんですってね。どこに居るか知ってる?」


 子供達全員首を振る。


「そう。何か気になってる事はない?」

「僕はよく知らないけど、あの廃神社で幽霊が出る噂があるんだよ」


 再び鼻水を垂らした少年が、廃神社の方を指さす。鳥居の装飾は剥げ落ち、ほとんど赤い色が残っていない。周りは木々で覆われて、薄暗く不気味だ。昼間見てもいい気分はしない。もちろん、あの中に人気はない。


「あそこで殺人事件があったじゃん?」

「今日子さんの事ね」


 秋頃巻き込まれた香坂今日子の事件を思い出す。馬鹿な男たちがあの神社で灰皿で殴り、香坂今日子を殺した。第一発見者はこの町の牧師の三上千尋だったが、栗子はその死体は見ていない。気づいたら大騒ぎになっていたのだ。


「その今日子さんの幽霊が、真凛を誘拐したんじゃないかっていう噂を聞いた事がある」

「そうそう。おばさん幽霊が美人の真凛を嫉妬したのよね」

「うちの父ちゃんが言ってたけど、夜中に誰かがあの神社騒いでいるのを見たって」


 子供たちが次々と言う。幽霊が誘拐?


 そんな事はあり得ないと思うが、子供たちの間でそんな噂があるのは事実のようだった。


「あなた達、あったかくしないとダメよ。いくら子供は風の子だって」


 栗子はカバンからカイロとポケットティッシュを取り出して子供達に配った。栗子の子供はいないし、もちろん孫もいないが、このぐらいの孫が居てもおかしくない年齢である。


 すっかり世間的に正しい人生コースから外れてしまったな、などと思いながら桃果の方へ戻る。本当にやもめだと思う。


 缶コーヒーをちびちびと飲んでいる桃果に今知った事実を伝えて意見を聞く。


「どう思う? 桃果」

「そうねぇ。幽霊が誘拐するなんてありえないわよ」

「でも実際あそこで人が死んでるからね」


 栗子も幽霊などは信じないタイプだが、長年ファンタジックな少女小説界隈に携わっているせいで、そんな事もある気もしてしまう。とにかく真凛が無事であるなら今日子の幽霊に保護されていても良いのかもしれないとも思う。


 一応子供達からの情報をメモしたが、大きな手がかりではない。警察も動いているだろうし、この噂も把握済みかもしれない。


「どうする? 住宅街の方に行く?」

「もちろん行くわ、桃果」


 二人はゆっくりと歩きながら住宅街に方を歩く。かなり注意深く住宅街を見て回るが、真凛らしき子供はもちろん、ロリコンらしい男の姿も見えない。


「ぎゃっ!」


 その時、誰かが栗子にぶつかった。かなりふくよかな女で、栗子達を追い抜かそうとしてぶつかったようだ。彼女が持っていた荷物が散らばる。じゃがいも、にんじん、豚肉、チョコレート、カレールウ。


 どうやら今日のご飯はカレーにするんだろうと思いながら、栗子は桃果と一緒ににそれらを拾う。カレールウは子供向けの甘口だった。ルンルンメロディというウサギにキャラクターのイラストが付いている。女は五十代ぐらいに見えたが、子供にでも作るのだろうか。


「あぁ、ごめんなさい」


 女は拾った荷物を受けとった。言葉では謝っているが、憮然としていてどうも太々しい雰囲気の女だ。どこかで見た事がある。


「あれ、あなた、香田香水(こうだこうすい)さん?」


 栗子はこの女が誰だか思い出した。町で一番大きなお屋敷に住む人気霊媒師で、一時期テレビにも引っ張りだこだった女だ。今はテレビの仕事をやめ、引きこもりのような生活をしていると聞くが。近所付き合いはなく、その存在はほとんど忘れていた。


「そうだけど」


 香田香水はブスッとした態度で言う。


「お子さんいらっしゃったんですか? 子供用のカレーね」


 そう桃果が言うと、香田香水がキッときつく睨みつけた。比較的おっとりと世間知らずのおばさん二人は、震え上がる思いがした。


「私は辛いカレーが嫌いなんだ」

「まあ、だったらウチでカレー作った時きません? ウチのカレーはおばさんにも優しい味ですよ。噛みやすいように人参もジャガイモもやわらかくなり…」


 栗子は何故か香田香水から挑発されたように感じ、わざとおっとりと話した。


「ふぅん、それは良いね。今度ご馳走になろうじゃないか。私も辛いのは嫌いなんだよ」


 意外と香田香水は、笑って語った。北風と太陽ではないが、悪意に悪意を返すよりも優しさで返した方が良いと栗子は思う。


「ところでこの子知りません?」


 栗子はあのチラシを見せた。香田香水は、眉間に皺をよせて考えていた。


「さぁね。こんな女知らないよ。でも守護霊が弱ってる。お祓いした方が良いだろう」


 霊媒師らしい事を言っていたが、果たしてそれは効果があるかどうかわからない。


「じゃあね」


 意外な事に最後にニコッと笑い、香田香水は去っていった。


「守護霊なんていると思う?」


 桃果は、首を傾けていた。


「さぁ、いる訳無いと思うけどね」


 さっきの子供は幽霊、香田香水には守護霊。この行方不明事件は、どこかフワフワとした現実感がない様相を見せ始めた。


「シーちゃん、寒い」

「そうね、寒い!」


 北風が吹き、栗子と桃果を再び肌寒くなった。

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