生贄の花嫁編-6
栗子は、真凛の家を後にすると教会に向かった。
真凛の家から近いし、牧師の千尋が礼拝をこの日に行うことを思い出した。といっても時間をすぎてしまったので、すっかり礼拝は終わり、礼拝室の中は信徒は誰もいなかった。
代わりに何故か陽介の姿が見えた。
「うぇ、何であなたがここのいるのよ。正月早々見たくない顔ね」
栗子は陽介の顔をみて嫌そうな顔をした。一方の陽介は、そんな栗子の様子に気づかず、千尋と熱心に聖書を読んでいた。千尋は普通にスーツ姿で、以前言っていたように独特な黒い服などは着ていなかった。
「まさかとは思うけど、あなたクリスチャンなの?」
「そうさ。子供の頃からな。こっちに越してきたから、ここの教会員になろうかと考えてる」
「うげぇ〜。クリスチャンだったら、もうちょとこの牧師さんみたいに優しそうな性格になったら?」
「嫌だね」
クリスチャンだというのに、そのイメージと違って陽介は口が悪い。一体聖書のどこを学んでいるのか不思議に思いながら、栗子たち三人でお茶する事になった。礼拝室の隣にある多目的室で、机と椅子も置いてある。千尋に聞くとここでたまに聖書を信徒達に教えているといい、ホワイトボードも置いてあった。そこには、イスラエルあたりの地図やイエス様が行った奇跡などが纏められた資料が貼りつけてあった。
「改めて、あけましておめでとう! 栗子さん」
千尋は、新年の挨拶をしながら温かなほうじ茶をテーブルに置いていく。香ばしい香りが栗子の鼻をくすぐる。
「あけましておめでとう。今年もよろしくね」
栗子はお年玉袋風のクッキーを千尋や陽介にも渡した。真凛の家ではケーキの存在感に負けて結局渡せなかった。まあ、あとでまた色々と理由をつけて渡しに行けば良いだろう。事件についても聞きたい事もある。
「なにこれ、クッキー?」
陽介は小馬鹿にしながらもポチ袋風のラッピングを剥がし、クッキーを食べ始めた。
「あれ? シープルおばさんが作ったの? その割にはこのクッキーうまいな」
意外な事に陽介にクッキーを褒められた。
「意外。添加物入りとか言ってくると思ったのに」
「まあ、手作りのクッキーには添加物は入っとらんだろ。うまい」
あの陽介に素直に褒められて何となく居心地が悪くて栗子は首をすくめた。一方、千尋はもったいないとクッキーには手をつけず、いそいそと自身のカバンにしまっていた。クッキーひとつとっても性格が出るなと栗子は思う。
「ところであなたのSNSによると、謎が解けたと書いてあるそうだけど、どういう事よ?」
栗子は事件の事に話題を変えた。こんな陰謀論者が謎を先に解いたと思うと悔しい思いがした。
「実は俺は、ずっとこの町の民俗資料を牧師さんと調べていてな」
千尋は別の部屋から、段ボールに入った資料を持ってきた。どれも古い資料のようだ。明治か大正時代のものなのか、少し日本語も古いものだった。
「実は私の父は、牧師を引退したしてからこの町の歴史を調べるのが趣味でしてね。こんな古い資料が山ほど」
「すごいわ。これ、図書館とかでも無いものじゃない? よく調べたわね」
小説を書くために資料を集める事も多いが、こんな古い資料は当たった事はない。もしかしたら、何か仕事で役に立つかもしれないと資料をペラペラとめくる。古い紙の匂いが鼻をくすぐり、くしゃみが出そうになった。
「で、この資料と事件になにが関係あるの?」
栗子がそう言うと、陽介と千尋は言いにくそうに顔を見合わせた。千尋はともかく、陽介までこんな微妙な表情をしているのはどういう事だろうか。よっぽど酷い秘密でも見つかったのだろうか。
栗子は一旦心を落ち着かせるため、温かなほうじ茶を飲んだ。
「かなり、嫌な閲覧注意レベルの話だけど、シープルおばさんは聞けるか?」
やはり、いい話ではないらしい。しかし、事件のことが気になるし、桃果や幸子と比べればメンタルも強い自信もある。栗子は、陽介や千尋にわかった事を教えて欲しいと頼んだ。
「じゃあ、話すけど。由紀乃の呪いの謎から言うぜ?」
「あんまり気分の良い話じゃないですよ」
この時点で千尋の表情が暗い。よっぽど酷い話なのだろう。でもここまで来て聞かない訳にはいかない。
「由紀乃は生贄として殺された。これは本当。でも、酷い殺され方だった。生きたまま痛ぶって村のみんなで彼女の肉を食べたらしい」
陽介の言葉に栗子の表情が固まる。
肉をたべる?これではまるでカニバリズムではないか。想像すると気分はかなり悪くなった。




