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お年玉大作戦編-6

 栗子が佳織に接触していたころ、亜弓は火因町総合病院の前で雪也を待っていた。


 火因町総合病院は、駅からバスで十分ほどの所にある。周りは森か雑木林ばかりで静かではあるが、少し辺鄙でがある。正月だったか門松など華やかな飾りはしていない。そのせいかいつもの平日のようにしか感じられなかった。


「タッキー、お待たせ!」


 雪也はバスでなく走ってやってきたようだ。確かに雪也の家からだったらバスを使わない方が早いかもしれない。


「じゃ、行こうか」

「ええ。ミチルさんは何階に入院しているの?」

「四階」


 エレベーターで四階に向かう。疫病の対策のためか、エレベーターに乗る前に体温を測られ、手も消毒される。今は緊急事態宣言中ではないので、面会は比較的自由にできるそうだ。


「それにしても私が来ても良かったのかな?栗子先生が行った方がよかったかも」


 ミチルとは唐揚げ屋であったが、あまり良い印象を持たれていない事などを思い出す。


「でもあの騒々しいオバタリアンが言ってもかえって迷惑だろ。なんとなく、アホっぽいオバタリアンよりもタッキーが話したいが聞いた方が良いんじゃないかね?」


 そんな事を話しているとエレベーターがつき、ミチルの病室へ向かった。精神的ショックがあるので個室で入院中らしい。


「ミチル、来たよ!」


 ミチルはベッドの上で半分身体を起こして、ペットボトルのお茶をゆっくりと飲んでいた。頭には包帯を巻いていたが、それ以外はどこも変わっていないように見えた。


「この方は? 前にうちに来たお客さんじゃない。何しに来たの?ユッキーの友達?」


 ミチルは明らかに機嫌を悪くしていた。こういう時こそお菓子だ。亜弓は紙袋からお年玉風クッキーを取り出して、ミチルにあげた。


「お年玉です。その、前はちょっと失礼な事をしてしまったと思いまして、一応謝罪の意味で…」

「ふーん、そうなの。でも味はどうかな?」


 ミチルはラッピングを丁寧剥がし、クッキーを食べ始めた。みるみるとミチルに表情が明るくなっていく。


「美味しい」

「これ、うちの親父の元奥さんが作ったんだよ」


 雪也は、亜弓との関係性を説明した。クッキーの味で機嫌が良くなったのか、ミチルは警戒心を解いてきた。


「そうなの。あのメゾン・ヤモメの住人だったのね。うん、美味しい。手作りのクッキーってなぜか美味しいのよね。生地のバター量が多いのかな」


 ミチルはあっという間にクッキーを完食してしまった。怪我で入院中なのに、あっさりとした味の入院食ばかりで飽き飽きしていたと愚痴もこぼす。


「退院したら寿司でも食いに行こうぜ」

「良いわね」


 恋人関係である二人はさっそくデートプランを立てている。こうしてみると仲の良いカップルで微笑ましいものだが。


「で、何を聞きに来たの? 正月から、亜弓さん」


 話題が自分にうつる。ちょっと戸惑ったが、ミチルに質問する事にした。仕事は編集者で、ミステリを作る為に取材をしていると前置きをし、本当にキムが犯人だったのか聞く


「そうよ。廃神社でキムに殴られたんだから。警察にもそう言ったわ」

「本当にキムさんだった? 確認した?」

「そうなんでしょ」


 ミチルは全く表情を変えず、他人事のように呟いた。何か違和感が残る。嘘はついていないだろうが、冷めている。心は別の所にあると感じた。


「なぜ廃神社にいたの?」

「ちょっと探し物があったのよ」

「探し物って?」

「教えないわ」


 それは話すつもりは無いらしい。


「ミチル、教えてよ。何探してたの?」


 ミチルはちょっと悲しそうな顔を見せた。


「あのね、私は実は火因町出身なの。小学生までここに住んでいたの」


 驚いた。


 雪也は亜弓以上にビックリしていた。


「どこの小学校だったの? まあ、俺はお袋が親父と離婚してからは隣町に住んでたけどな」

「第二小学校よ」

「俺は第一だ。なんだ、別の学校だったら接触ないわな」


 二人はしばらく地元トークに花を咲かせていた。亜弓は全くついていけない会話だった。


「廃神社は昔は神主もいたのよね」

「いつからあんな風になったんだっけ?」

「さぁ」


 亜弓はこの地元トークに入りにくいが、一応ミチルに何を探していたか聞く。ミチルはふっとため息をついて、悲しそうな表情を見せた。


「お姉ちゃん。行方不明になった姉を探してたの」

「行方不明って? まさか誘拐?」


 亜弓は真凛の事もあったので、嫌な予感がした。


「さぁ。でも最後に目撃されたのはあの廃神社。この町に帰ったのも姉を探す為よ。両親は亡くなったし、親戚にも止められているんだけどね、どうしても諦めがつかないんだ」

「そうだったの…」


 ミチルから事情を聞き、亜弓は居た堪れない気持ちになる。願いが叶う唐揚げなどと言って下らないスピリチュアル女だとは思っていたが、人は見かけによらないかもしれない。もっとも田辺のようなスケベな恋愛小説家と不倫していたぐらいなので、人を見る目は自信は無いが。


「キムさんとあなたのお姉さんの事は何か関係あるのかしら?」


 ふと頭に思いついた疑問を亜弓はき口に出していた。


「関係ないでしょ」


 即答だった。そう言い切ってしまうのはなぜだろうか。違和感が残る。


「キムさんは10年前ぐらいは、中国に居たって。前どこかで雑談した時聞いた事ある」


 雪也は、付け足すように説明した。そう言われるとキムが過去の誘拐事件に関わっている可能性は低いと思うが、ミチルの言動は引っかかりを感じた。とはいえ、実際に襲われて被害を受けているのだ。真凛が見つかった時は、ミチルはこの病院の中。ミチルが誘拐事件に関わっている可能性は低そうだった。


「そろそろいい? ちょっと話して疲れちゃったわ」


 ミチルは、本当に疲れた表情を見せた。亜弓と雪也はそそくさとミチルの病室を後にした。


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