お年玉大作戦編-4
元旦とはいえ、福袋を販売店する店もあり、商店街は賑わっていた。もっともキムの輸入食品店やミチルの唐揚げ屋は静まりかえっていたが。桃果がケーキ屋スズキの前で列に並んでいた姿も見えたが、今は佳織を探す事が優先だ。福袋も気になるが、ここは全て桃果が戦利品を持って帰る事を期待しておこうと栗子は思う。すでにベーカリー・マツダに福袋は手にしていたので、その点は安心である。
今日も寒さが身にこたえる。栗子は貼らないカイロを握りしめ、ベーカリー・マツダの周辺をうかがう。1000円で800円分のチケットが入り、ジャム、スープ粉、食パン、シナモンロールが入った福袋はやっぱりお得だ。ベーカリー・マツダの店の前は行列ができている。
「あら、工藤さんじゃないですか。あけましておめでとう!」
行列の中には工藤の姿もあり、挨拶する。工藤は今日子の事件に巻き込まれた老人だった。癖のある老人だが、根がいい人物である事は知っているので、時々メゾン・ヤモメで一緒にお茶する仲にまでなった。
「おぉ、栗子さんかい。おめでとう。いやぁ、ここの福袋買うのが楽しみでな」
工藤もベーカリー・マツダのファンである。こうして目尻を下げて笑っているのを見ると、あの事件の傷はそう深くはないようで栗子は安心した。
「それにしてもあの霊媒師すごいな」
「香水の事?」
行列は進んでいないようなので、自然と立ち話になる。
「そうそう。子供が見つかってよかったけど、思わず俺も香水が販売しているパワーストーンやお札が欲しくなっちまったよ」
香水はネットショップをもっていてパワーストーンやお札などを売っていた。どれも五万円以上するが、さっく見たら全てソールドアウトになっていた。
「まあ、うちの奥さんはクリスチャンだからそんなもの買うなって止められたから買わないけど」
「そうよ。やっぱりそんなものは効果ないわよねぇ」
栗子も千尋に祈って貰い、実際体調が回復したので、やっぱり千尋が言っている事の方が信頼できる。しかも香水の事はインチキだと牧師生命を賭けるとまで言っていた。
「ところでキムさんのところの佳織ちゃん見なかった?」
「あの子なら行列の前の方で見たぞ。たぶん、もうすぐ店から出て来るんじゃないか」
「そうなの? ありがとう! あと、これはメゾン・ヤモメからちょっとしたお年玉よ。奥さんにも持っていってね」
栗子は紙袋からポチ袋風にラッピングしたクッキーを二人ぶんあげた。
「おぉ、クッキーか? これは嬉しいな!」
思わぬお年玉に工藤は喜んでいた。やっぱり喜ばれると嬉しいものだ。この調子でお年玉クッキーを配り歩こう。栗子は上機嫌になり、ベーカリー・マツダから出てきた佳織をとっ捕まえた。
福袋を持っているのに関わらず、佳織の表情はちょっと沈んでいた。
「栗子さんじゃないですか。どうしたんですか?」
「ちょっといい? キムさんの事で聞きたい事があるんだけど」
「えぇ…」
佳織は顔を曇らせながらも、栗子に従った。




