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お年玉大作戦編-3

 元旦の翌朝。よく天気が晴れ、テレビでは各地の初詣の様子やや福袋争奪戦などが生中継されていた。


 栗子は昨日、夜更かししたせいか眠い。半分瞼を閉じながら、食堂でテレビを見ながらお雑煮を啜っていた。


 幸子はブランド服やコスメに福袋が欲しいと都内のデパートに出かけてしまった。桃果もベーカリー・マツダとケーキ屋スズキの福袋、スーパーで配る紅白饅頭と干支の置物が欲しいと一人で出かけてしまった。


 本来なら栗子もキムの店のコスパ最高の輸入食品の福袋争奪戦に参加する予定だったが、キムは警察に捕まっている。元旦の楽しみは今年は無いかもしれない。


「栗子先生、起きてるんですか? すごい眠そうですよ」


 亜弓は呆れながら、栗子に雑煮を温めてやり、一緒に食べた。


「亜弓さん、結局あの後本当に真凛ちゃん見つかったの?」

「ええ」


 雑煮スープにつかったトロトロとした餅をゆっくり食べながらきく。老人が餅を詰まらせる事故が多いと聞く。流行っている疫病の死者よりも餅を詰まら死ぬものが多いらしい。そんな話を聞くとちょっと怖いが。


 栗子はゆっくりと慎重の餅を口に入れるが、弾力がある餅が口いっぱい広がる。多少のリスクを負ってでもこの味を楽しみたい老人達の気持ちはよくわかる気がした。


 栗子は亜弓から昨日の顛末を詳しく聞き、まだ眠い頭でありながらもメモをとる。


 ・真凛ちゃん発見

 ・真凛ちゃんがいうには、行方不明にあっている間、異世界にいた???

 ・イケメン龍神様が生贄として真凛を誘拐????


 こにメモだけ見れば少女小説の企画にすら見えるので、思わず栗子は苦笑する。そういえば10年ぐらい前『龍神様の花嫁』という和風ファンタジーを出版した事を思い出す。話は真凛が語った事と大差ない。舞台は大正時代の農村だが、ヒロインが生贄として選ばれ、なぜかわからないけれど異世界で龍神に溺愛されるというストーリー。ほとんど溺愛されるシーンでヒロインはどこが生贄だったのかよく分からない話でもある。当時の担当編集者に溺愛シーンばかり所望され、せっかく取材した昔の日本の生贄の風習などがほとんど活かされていない。


 初動はよく重版はかかったものの、当時は和風ファンタジーが全く流行っていなかったため、一巻で打ち切りになった。少女小説市場の流行に合わせた中華後宮が舞台のヲタクっぽいヒロインのハイテンションラブコメィを書く事になってしまった。


 この「龍神様の花嫁」はヒーローが異様に恋愛の事しか考えない男で、執筆中は栗子のメンタルをかなり悪くさせたので、打ち切りになってかえってよかったものだが。当時の担当編集者の溺愛多めにしろという指示も強引で疲れた。


 今、再びドロ甘シンデレラストーリー風和風ファンタジーも流行っていて、この既刊が全部売り切れてしまった。重版する予定はないが、担当編集者である亜弓は良い事ではないですかと喜んでいたものだが。


「そんな少女小説みたいな事が現実にありますかね?」

「絶対ないわ!」


 栗子は即答する。かなり実感がこもっている。栗子はモラハラ夫に苦しめられたので、少女小説ヒーローの様な男は絶対にいないと確信している。


「真凛ちゃんの作り話ですかね? でも妙に実感こもっていて、嘘には見えなかったんですよ」

「滝沢さん、子供は嘘がうまいものよ。特に大人の目を気にする子供は、自然と嘘つきになるらしいわ」


 以前孤児院を舞台にした少女小説を書いた事がある。西洋世界の孤児院設定だったが、実際に日本の養護施設に取材に行ったり、児童心理も調べた事がある。色々調べるとうちに抑圧された子供は嘘がうまいんんじゃないかという結論に達した。


「真凛ちゃんって美人ですし、子役でもやってたのかな。スカウトされた事があるとかって言ってませんでしたっけ?」


 亜弓は、スマートフォンでテキパキと真凛の名前で検索した。すると、子役デビューはしていないようだが、一時期子役の劇団に入っていたようだ。劇団のブログで真凛ちゃんは演技力を絶賛されていた。


「という事は、真凛ちゃんは演技してるって事ですかね?」

「十分ありえるわ。もしかしたら私の『龍神様の花嫁』を参考にした可能性もあるわね。まあ、少女小説テンプレで似たような話はいっぱいあるけど」

「でも何の為? さっぱりわからないです」

「香水の売名行為じゃない?」


 香水はあの動画の影響で、霊媒師の仕事が数多く舞い込んでいるとブログで上げている。その上、この一件ですっかり町のヒロインと化している。ローカルテレビの取材をうけるとか、公園で子供たちに囲まれたとか人気ものになった事をもSNSで報告していた。


 売名行為だとしたら、真凛や優奈の協力は不可欠だ。一体何の為にあの親子が協力したのか?


 栗子と亜弓はしばらく考えたがわからない。


 結局クッキーを配りながら、地道に町の人たちに話を聞くしか無いという結論になった。


 とりあえず亜弓は雪也と一緒にミチルにあたり、栗子はキムの所のバイト女性・佳織、できれば優奈、真凜に接触しようという計画を立てる。


「佳織さんとはどうやって会うんですか?」

「あの子もベーカリー・マツダのファンだからきっと福袋の列に並んでるはずね。とりあえ、行ってくるわ」


 栗子は手早く身支度を整え、商店街の方へ出かけた。


 同時に亜弓にも雪也から連絡が届き、ミチルの病院に行く事になった。

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