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呪われた火因町編-1

 その日の午後、さっそくメゾン・ヤモメのキッチンでみんなでクッキー作りを始めた。


 料理下手の亜弓は食器を洗ったり、ラッピングを用意する係になった。逆に料理が上手い桃果はレシピを持って、全体の監督役。細かい作業が得意な幸子は、粉などの材料をはかり、栗子は全体的にみんなのお手伝いという役割になる。


 そういえば少し前に作家仲間の妻・文花が来た時、一緒にシュトーレンを作った事があった。栗子はその日も自然とこんな風に役割分担ができていた事を思い出した。


 おばさんとアラサー女達とはいえ、女4人が集まると、キッチンの中は賑やかだ。みんなで、きゃっきゃとはしゃぎながら、生地を作り、型を抜いた。クッキーカッターは星やハート、菱形、お花、クマなど種類も豊富で、思った以上に天板に並べたクッキーの見た目は華やかだ。


 あとはオーブンに入れるだけ。四人で手分けしたおかげか、あっという間にここまでできた。


「こんなもんね。クッキーを焼き上がるまで、リビングでお茶でもしましょうか」

「賛成!」


 桃果が提案して、他のみんなも同意。お茶とチョコレートやせんべいなどを持って、みんなでリビングに行く。


 クッキー作りといっても立ち仕事であり、体力を使わないわけではない。みんなソファに座ると、ホッとしたため息が出る。


 クッキーが焼き上がる間、しばしお茶とお菓子でくつろぐ。猫のルカも栗子のそばに座り、ゴロゴロと喉を鳴らし、ふにゃふにゃとした抜けた表情を見せていた。野生の動物には見られないような、飼い猫らしい腑抜けら表情だったが、やっぱり可愛い美人な猫だと栗子は思う。


「それにしても真凛ちゃんは、どこにいるのかね。本当に心配だわ」


 あのあと、優奈と栗子、亜弓でスーパーの周りや駅前、商店街や公園を見て回ったが、真凛どころか子供の姿一人も見なかった。その時の優奈の諦めに満ちた表情を思い出すと、やっぱり栗子の心は痛む。


「私はなんとなく、この町の霊媒師の香水って女が一枚噛んでいる気がするの」


 珍しく幸子が意見を言っていた。いつもは大人しく、おっとりと微笑む人なので、栗子は少し驚いた表情を見せた。


「それはなぜ? 根拠は?」


 桃果がせんべいをボリボリ齧りながら幸子に質問する。


「最近、田辺哀夜(たなべあいや)先生の『愛人探偵』を読んだんです」


 幸子は、テーブルに置いてあった『愛人探偵』の文庫本を見せる。栗子の作家仲間の本だ。その妻・文花とも親しいし、亜弓もこの夫婦と少なからず因縁があり、ちょっと渋い顔を見せていた。


「この中に出てきた霊媒師が怪しんですよね。まあ、犯人じゃなかったけど、この本を読んでたらこの事件も香水が関わってる気がしちゃいます!」


 幸子は小さな声ながらもはっきりと言い、さらに言葉を続けた。


「『愛人探偵』って田辺先生が巻き込まれた事件をモチーフにした実話がベースだって、昼出版の公式ホームページに載せているインタビューに書いてあったもの」


 亜弓は発売当時に読んだ『愛人探偵』の内容を思い出す。夫の愛人を調べる妻が、殺人事件の犯人を見つける話だ。登場する霊媒師が、動画でとある婚活カウンセラーを呪い殺すと宣言し炎上。婚活カウンセラーは実際何者かに殺されてしまう。ヒロインの夫の愛人がその婚活カウンセラーだった為、事件に巻き込まれるというストーリーだ。霊媒師は犯人ではないが、ヒロインがスピリチュアルや見えないモノに対する考えが風刺的で、読んでいると確かに霊媒師が怪しいかもしれないと亜弓は思うが。


「でもそれって、小説の話ですよね? 硬い証拠とは言えるかどうか…。いくら実話ベースといってもかなり誇張してるって田辺先生の奥さんも言ってましたよ」


 亜弓は言葉を濁しながら、冷静に言った。栗子がコージーミステリを根拠に推理をしている時は、激しく突っ込むが、おっとりとした幸子には少々ツッコミづらい。なぜここの住人は小説を根拠に推理するのだろうか。亜弓は不思議で仕方ない。


「でも香坂今日子さんの事件でもシーちゃんの『パティシエ探偵花子!』がなぜか結構活躍してたわよね」

「そうよ。あれが、結構犯人逮捕に繋がったのよ」


 おばさん二人はその事を持ち出して、胸を張る。香坂今日子の事件の時は、『パティシエ探偵花子!』と犯人手口が偶然一致していて、犯人が攻撃を仕掛けた事があった。もっともそのおかげで、犯人が誰だが栗子達が特定できた訳だが。


「私もなんだか、香水が犯人のような気がしてきたわ。そうだ、彼女の動画をちょっと見てみましょう。何かヒントが得られるかもしれない」


 栗子はスマートフォンを取りだし、動画サイトを開いて香水の名前で検索した。


 するととんでもない動画が上がっていた。いつのまにか香水のチャンネルができていた。その中の動画の一つだった。


「何この動画?」


 栗子達は、スマートフォンで動画を齧りつくようの見ていた。

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