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暴行事件編-5

 そんな事を話しているうちに列が進み、会計を済ませる。ストッカーで買ったものをエコバッグに詰めていると、行列に疲れたと栗子がぼやいた。


「もう歳ねぇ。疲れちゃって」

「もうしょうがないですね。イートインコーナーでちょっと休憩していきましょう」


 イートインコーナーには座席が10席ほどあり、何人かの客が弁当やパンを食べていた。栗子も亜弓も席に着く。


「それにしてもちょっと座れるところがあるのは良いわね。商店街は疲れてもちょっと休むところが無いのは難点ね。まあ、そういう時は幸子さんのカフェに行ってケーキでも食べるんだけどね」


 栗子は少し休憩して回復してきた。イートインスペースにある自動販売機でコーヒーを買って飲み、栗子に機嫌もだんだん良くなってくる。


「ところで本当にキムさんが犯人だと思う? 亜弓さん」

「警察に捕まったんだからそうなんでしょう」

「でも動機は何? 二人との繋がりが見えなのよ」

「確かに。あの二人、何か関係ありましたっけ? 歳も20歳ぐらい違うはずですよね」


 亜弓の指摘はもっともだった。栗子は少し考えこむが、答えが出るはずもなかった。


「あなた、本当に愛人のところに行かないでよ!」


 そこに遠くの席から、女性の必要ば声が聞こえてきた。女が男に縋りついている。


「あの女の人、真凛ちゃんのお母さんじゃないですか」


 亜弓は小声で栗子に教える。先日チラシを配っていた女性だ。チラシのよると名前は佐竹優奈(さたけゆな)。おそらく側にいる男は夫だろう。


「本当に? 確かに真凛ちゃんに似た綺麗な人ね。でも修羅場?」


 栗子はワクワクした表情を隠しもせず、優奈の方を見ている。ちょっと不謹慎(ふきんしん)である。


「真凛が行方不明なのよ! こんな時にどうして愛人の家に行くの?」


 優奈は悲痛な表情を浮かべていたさすがの栗子も胸が痛む。あの夫は不倫中のようだ。顔が整った30代ぐらいのイケメンだったが、妻にこんな仕打ちをするなんて。しかも娘が行方不明なのに。


「うっせーな! どうせお前が、真凛を適当に教育していたんだからこうなるんだ!」


 夫の方が鬼のような顔で暴言を吐き、スタスタとイートインスペースから去って行ってしまった。典型的なモラハラ夫だ。栗子は死んだ夫の事が重なり、眉間に深い皺ができていた。


「かわいそう、真凛ちゃんのお母さん」


 一人残され、俯いている優奈を見て亜弓も心が痛む。やっぱり栗子が言うように顔で配偶者を選ぶと失敗するのかもしれない。


「真凛ちゃんのお母様ですよね?」


 栗子はいてもたってもいられず、優奈に声をかけた。亜弓もその後を追う。


 優奈は顔の整った美人だったが、さすがにこんな時にオシャレをする気持にならないようで、ノーメイクに地味な格好で、髪も少し痛んでいた。左腕にはピンクの小石のパワーストーンをつけていた。それが地味な格好の中で少々浮いていた。


「あ、ごめんなさい。ちょっと騒いでしまいました」

「いいんですよ」


 二人はすぐさま笑顔を作って、優奈を安心させた。


「実は私達も真凛ちゃんを探しているんです!」


 栗子は完全に人の良さそうな羊の皮をかぶっていた。この様子では、優奈も警戒心を見せていない。


「まあまあ、本当ですか。何か手がかりありました?」

「それが…」


 栗子は顔を曇らせた。現状、陰謀者に説得されて生贄のために誘拐されたなどは口が裂けても言えない。手がかりなどはなかったと言う他ない。


「ああ、そうですが…」

「でも、私は本当に探していますから。どうか気を確かにもって」

「そうですよ。あんまり思い詰めないようにしてくださいね」


 栗子と亜弓に励まされて、優奈は少し泣きそうだった。


「私達、商店街の近くのメゾン・ヤモメっていうシェアハウスに住んでるんです」


 栗子がそういうと、優奈はメゾン・ヤモメ知っているようだった。


「あの大きいお屋敷の奥さんだったんですか?」

「そうなの。大家は別にいますけどね。この亜弓さんも一緒に住んでるのよ。何か困った事があったら、いつでもうちに来ていいからね。部屋も実はまだ空いてるのよ。いつでも泊まりに来たって良いんだからね。なんなら一緒に住んでもいいのよ」


 そういう栗子の優しさに優奈は少し泣き始めてしまった。


「まぁ、本当にありがとう。この町にもこんな良い方がいたのね…」


 そんな二人の会話を聞きながら、栗子はいろいろ欠点も多いおばさまだが、心根は温かいと亜弓は思った。コージーミステリのヒロイン気取りで、事件調査をすることも多少は多めに見ても良いのかもしれない。

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