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唐揚げ編-1

「何でも願いを叶える唐揚げ? 何それ?」


 メゾン・ヤモメのリビングで、亜弓は素っ頓狂な声を上げた。


 香坂今日子の事件が解決し1ヶ月以上がたった。気づくとクリスマスも終わり、年の瀬も近づいている。


 そんな中、火因町商店街(かいんちょうしょうてんがい)にはクリスマスに新しく店がオープンした。「ミチルの唐揚げ屋」というお店で、アイドルの様な可愛いルックスの店主が唐揚げを販売していた。店の外観もちょっとファンシーで、唐揚げを食べている熊やうさぎの看板が目立つ。可愛らしいが、もうアラサーの亜弓はちょっと入りづらく、一度も行った事はなかった。


「栗子さん、そのお店そんな噂があるんですか?」

「ええ。ネットでも有名よ」


 このおばさまは亜傘栗子(あがさくりこ)という少女小説家だ。


 ひょんな事からこのシェアハウスのメゾン・ヤモメに一緒に住むようになった。


 編集者である亜弓の担当作家でもあるが、少女小説家のくせしてコージーミステリを書きたいなどと言うちょっと変わったおばさまでもあった。見た目は人畜無害な羊のようだが、中身は狼のように強烈な性格なおばさま。というかオバタリアン。おっとりと穏やかなタイプでは全くなく、自己主張をハッキリとする性格だった。少々ワガママでもあるが、欲望に忠実に生きていてどこか憎めない人物でもある。


 しかし、香坂今日子の事件を一緒に解決し、仕事の関係以上の絆が生まれたのも事実だった。


 こうして夕食後、アイスやクッキー、チョコレートなどを食べながら、何でもない雑談を楽しむのが常だった。


 亜弓は板チョコを割り、口に入れる。カカオ率が8割超えの健康志向のチョコで、罪悪感も薄れる。火因町かいんちょうにある輸入食品店・ゴールドで購入したもので一枚200円もしない。砂糖もほとんど入っていないのでヘルシーだ。値段も安くコスパも最高のチョコである。


「願いが叶うってどういう事ですかね? おまじないみたいなものですかね?」


 そんな唐揚げがあるのか亜弓は疑問に思う。こう言ったファンシーなおまじない、言い伝え、占いやおみくじなどあまり好きではなかった。見た目は美人で女っぽい亜弓だが、中身はサバサバとした男っぽい面が強かった。非科学的な事も苦手だ。


「そうみたい。そんなのがあったらいいわよね」


 一方栗子は目を輝かせて、願いが叶う唐揚げについて語る。


「年末ジャンボ宝くじを当てたいわぁ」

「そうそう宝くじなんて当たりませんよ」


 平成生まれで不況の日本しか知らない亜弓は、そう言った地に足がつかない賭け事をする事も苦手だった。宝くじを買うぐらいだったら、貯金でもした方が良いとも思う。


「いいじゃない。願いが叶う唐揚げなんて夢がある」


 栗子は冷めている亜弓と違った。もともと金持ちのお嬢様でもあり少女小説家という職業柄、少し夢みがちなところもあるし、比較的に若い頃にバブルを経験した事も影響があるかもしれない。栗子の自室も少女漫画、ぬいぐるみ、かわいい絵なども飾られファンシーであり、お花畑な面がある事は否めない。


「そんな唐揚げ食べたぐらいで願いが叶うなら苦労しませんって」

「そんな全否定しなくてもいいじゃの。とりあえずミチルさんの作った動画を見てみましょうよ」


 栗子はスマートフォンを取り出して、動画サイトアプリを開いた。


 手慣れた様子でミチルの動画を開く。化粧品の広告がしばし流れる。


「栗子さん、動画サイト見るんですか?手慣れていますね」

「ルカの動画を作りたいと思ってね。ちょっと研究しているのよ」


 ルカはメゾンヤモメで飼われている灰色の猫である。この子も成り行きで飼い始めた猫だが、可愛らしいルックスで住民達の心を虜にしていた。今は大家でもある桃果の部屋で一緒に遊んでいる。


「動画始まりましたね、栗子さん」

「ええ」


 二人はスマートフォンから流れる動画をじっと見つめた。


 まるで魔法少女のようなコスプレをしたミチルが現れた。ヒラヒラとしたミニスカートがよく似合い、本当にアイドルの様な可愛いルックスだ。目を引くものは確かにある。


「この私の作った唐揚げは魔法の唐揚げよ」


 ミチルはステッキのような棒をくるくる振り回す。合成だろうが、キラキラとした粉をパァッと受ける唐揚げのアップ。


「この唐揚げを食べれば、あなたの願いは何でも叶う!」


 ミチルは昭和のアイドルのようにわざとらしくウィンクする。亜弓はだんだん白けてきたが、栗子は目を輝かせて見ていた。


「さあ、この唐揚げを神様の様に崇めましょう!」


 そうミチルが言い、再びウィンクをして動画が終わった。


「可愛いし素敵な動画だったわねぇ」

「そうですか? 確かにミチルは可愛いですけど、唐揚げにそんなパワーがあるとは思いませんよ」

「そうかしら」


 栗子はちょっとガッカリしたようにハイカカオチョコレートをかじった。


「そんな唐揚げが願いを叶えるわけないですよ」


 しかし亜弓のそんな言葉に反して、動画のコメント欄は願いが叶った人々の喜びのメッセージばかりが寄せられていた。


 一体どういう事だ?


 亜弓は首を捻った。

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