暴行事件編-3
『ビバ⭐︎年末年始お年大作戦!
お年玉を配りながら容疑者達から事情を聞こう!』
翌朝、栗子は一晩練った計画をわざわざパワーポイントで作り、印刷したものを食堂でみんなに披露していた。
亜弓はベーカリー・マツダのロールパンを眠そうにかじる。桃果は同じくベーカリー・マツダの食パンに林檎ジャムを塗りながら聞いていた。幸子はルカに餌をあげていた。もともと食が細く、幸子は朝食を食べない主義だった。
「お年玉大作戦っていったって、まだ今日は30日よ、シーちゃん」
「そうですよ。本当にまたコージーミステリのヒロイン気取るつもりなんですね……」
二人とも栗子ほどこの事件に興味はないようだった。ミチルは助かったし、キムが捕まったという事は、ほとんど解決したようなものではないかと思うのだが。
「でも真凛ちゃんは見つかっていないし、この事件は何か裏があるわ。昨日一晩考えたんだけど、この事件と真凛ちゃんの事件は繋がっている気がするのよねぇ…」
栗子もベーカリー・マツダのロールパンに林檎ジャムをつけてムシャムシャと咀嚼する。年寄りにも優しい柔らかさでいくらでも食べられそうではあるが、年始にはお餅を食べる予定なので少々自重しなければと栗子は思う。体重、血糖値、がん予防を考えると暴飲暴食はそうそうできない。
「繋がっているってどういう風に? シーちゃんはどう思うの?」
「コージーミステリだったらミチルを襲った犯人と真凛ちゃんを襲った犯人は同一人物ね。とにかく序盤で捕まる犯人なんて絶対誤認逮捕よ」
「コージーミステリを根拠に推理するのやめましょうよ」
亜弓の冷静なツッコミは、栗子の耳には届いていないようだった。今後の計画としてお年玉を配りながら、ミチルの関係者に話を聞くという事を語り、事件を解決すると栗子は目を輝かせていた。
「お年玉ってお金あげるの? やめときなよ、お金もったいないじゃない。それに小銭で容疑者達が話すと思えないよ」
「そこで桃果様に協力を請いたいにですが…」
栗子は人畜無害の羊のような表情を見せて、桃果に上目遣いをした。
「ちょっと栗子先生、何を企んでるんですか?」
「ちょっと黙って、亜弓さん。実は、お年玉代わりにクッキーか何か焼き菓子を配り…」
亜弓は、栗子がしたい事を察した。コージーミステリのヒロインらしく美味しいお菓子を配りながら容疑者達の口を軽くして事情を聞きたいのだろう。香坂今日子の事件の時は、案外それができなかったので今度こそしたいのだろうと察した。
「いいじゃないない。私もお菓子作りを手伝うわよ」
今回は幸子は完全に栗子に味方であった。栗子はにんまりと笑い、幸子に礼を言った。幸子はおっとりと優しそうな美女だが、案外好奇心が強いのかもしれないと栗子は思う。実際、猫にルカがきてから猫動画やブログ作りをあっという間に初めていた。
「幸子さんが言うなら、仕方ないわね。いいわ、クッキーでも作りましょうか」
桃果は、渋々といった表情で同意した。結局、栗子は押が強いのでこういう事になるのは亜弓もわかってはいたが。
結局みんなで話あって型抜きクッキーを作る事にした。洋酒を使うケーキなどは好き嫌いがあるかも知れないし、クッキーなら誰でも好かれるお菓子であるし、比較的日持ちもする。
栗子はニコニコと材料や必要なものをメモしていた。
「小麦粉、卵、バターね。あと何かトッピングのナッツも買いましょう。桃果、クッキーカッターはある?」
「型抜き? あるわよ」
「栗子さん、ラッピングのも買わなきゃ」
幸子に言われてラッピングの袋などもない事に気づき、慌てて栗子はメモをする。
「買い物は私が行くわね!」
「そうね、それはシーちゃんが行ってよ。でも商店街はお正月で閉まってるわよ。いつもナッツを買ってたキムさんのお店は閉まっているでしょう」
桃果に言われて、仕方ない。商店街よりちょっと遠いが、近所のスーパーに行く事になった。
「栗子先生、私も一緒に行きますよ」
「本当? 亜弓さん」
「ええ、栗子さん一人で行かせるのは何となく危なっかしいですし」
本当に亜弓はそう思う。町の事件はたいして心配していないが、どうもこの栗子は歳の割に落ち着きがなく、頭がお花畑だ。それは仕事に活かされているだろうが、実生活をちゃんと地に足つけれて送れてるのか疑問にも思う。栗子には決して言わないが、彼女の夫が「シープル」といい蔑称を使っていら事は理解できてしまう。まあ、そこが栗子の良い面でもあるのだが。
「本当? 亜弓さん、嬉しいわぁ!」
一緒にスーパーに買い物に行くだけなのに、栗子はキラキラとした笑顔を見せた。




