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陰謀論者編-5

 メゾン・ヤモメのリビングには、栗子、亜弓、陽介がいた。


 桃果は商店街に出かけてしまい、幸子も仕事だった。


 栗子は本当は客間に陽介達を案内したかった。しかし、陽介は猫のルカを気に入ってしまい、ルカの定位置のリビングのソファが良いと言い張った。


 クールそうな見た目の男だが、猫のルカを目の前にしてデレデレと目尻を下げていた。ちなみにお茶菓子として出したチョコレートや紅茶は見向きもしない。チョコは添加物入り、紅茶は農薬まみれだろうと文句をつけた。栗子は明らかのムッとした顔をして陽介を睨みつけた。普段は一応、おっとりとした羊のような人のいいルックスなので、こうして睨みつけている姿はギャプがあり少々怖い。


「死んだ夫もよく人が出した料理をケチつけたわよねぇ。腹立つわ」

「それは仕方がないだろ。我々陰謀論者は支配者層が作ったような意識の低い食べ物は食べないんだよ」


 陽介は偉そうに胸を張る。正直なところあまり性格はよく見えないが、やっぱり顔が良いので亜弓はあまりムカつかない。チョコをぽりぽりと食べていると、突然栗子に話を振られた。


「こんな陰謀論者と結婚すると、大変よ、滝沢さん。実際私の夫は、こんな風に料理にケチつけるし、歯磨き粉まで文句言ってたんだから」

「歯磨き粉はフッ素入りの毒入りだ。病気になるぞ」


 そんな陽介の言葉を無視して栗子は言葉を重ねる。


「ガン治療もマスタードガスとかいって親戚の病気の人を脅して絶縁状態になったりしたのよ。本当に陰謀論者と結婚するものじゃないわよ、亜弓さん」

「えぇー、そうなんですか? でも意外と本当の事もあるって噂を聞きますが」


 さすがにそこまで陰謀論に染まっていたら結婚生活に支障があるだろうが、やっぱり亜弓は陽介の顔に引かれ、多少のことは目を瞑れそうな気もするだが。


「ふん、シープルおばさんには何がわかるもんか。幼児誘拐の件は教えないぞ」


 それを言われてしまうと栗子も、強く出られない。栗子はちょっと咳払いをして、幼児誘拐のことを陽介にきいていた。


「いいかい、シープルども。世の中っていうのは、反キリストの支配者層で出来てるんだよ」

「えー、嘘でしょ? だってアメリカの大統領だってクリスチャンばっかりだったはずよ。ねぇ、亜弓さん」

「ええ、そうですよ。演説の時に聖書持ってるの見たことありますよ」

「それは表向きだよ。実際は、ああいった支配者層達が拝んでいるのは悪魔さ」


 急にファンシーな話になり、亜弓も栗子も面食らう。


「本当?」


 亜弓はおずおずと陽介に質問する。


「なんか、ファンタジー小説みたいね。実際そういう少女小説もあったわ。悪魔を召喚する秘密結社が裏で社会を支配してるとか。私はあんまりファンタジー色が濃いものは書かないけど」

「それもあながち嘘じゃ無いんだよな。そう言ったファンタジーにしているのは、現実には絶対にあり得ないっていう洗脳する為のプロパガンダだろうな。支配者層たちは、悪魔を拝み、その恩恵で成り上がっていると言っていい」

「悪魔が何でそんな事する?」


 素朴な疑問を亜弓は口にしていた。ファンタジー小説のようでもあるが、陽介のちょっと劇のような口ぶりが魅力的で思わず信じそうにはなる。


「悪魔は人間がイエス・キリストを信じさせない為だったら何でも使うのさ。実際、悪魔はこの世を好きに様にできる力もそこそこあるのさ。悪魔を喜ばせて、そのリターンで拝んだ人間に金や名誉を与えるっていうカラクリさ。魂を売るという言葉があるだろう? その言葉の意味はこういう事なんだよ。まあ、悪魔を拝んだ連中は全員地獄行きだが」

「それと幼児誘拐がどうして関係あるのよ?」


 栗子が紅茶を啜りながら、ツッコむ。確かにこの時点では話は繋がらない。


「悪魔を拝んでる連中は、とにかく人間を生贄として悪魔に差し出すのが好きなのさ。人間の命だったら誰でも良いというわけではなく、特に子供が悪魔に喜ばれるんだよ。しかもただ殺すんじゃなく性的虐待をしたりカニバリズムをして酷ったらしく殺すのさ。霊的世界は、意外とキッチリとした契約社会なんだよ。こちらが捧げ物をしない限り、悪魔も動かない。逆にいえば特に意図しなくても悪魔に何を捧げたり、喜ばせる罪深い行動を取るだけでもヤバいって事だな」


 栗子は嫌な予感がした。


「それって悪魔を拝んでる連中が、生贄として子供を誘拐して差し出してるって事?」

「ご名答。シープルおばさんの割にはカンが良いじゃないか。つまり、この町で居なくなった娘も悪魔崇拝者に生贄として誘拐された可能性がある。というかそれしか無いだろう。この町ではどうか知らんが、カルトが組織的に幼児誘拐をしている地域もあるようだ。某夢の国も誘拐をやってるという噂もあるのさ。なかなか明るみに出ないんだがな。まあ、神社やカルト関係者は怪しい」


 陽介は自信満々だった。


 確かに説得力はあるか、こんな田舎の町で?栗子も亜弓も信じられないという顔をしている。


「日本でも昔から人柱(ひとばしら)と言って、生贄を捧げる風習があるんだよ。日本の神社は性的なものを崇めて祀っている所もあるし、祭りの起源は乱行パーティーという説もある。知ってか知らずか、ナチュラルに悪魔崇拝やってたって事さ。姦淫(かんいん)の罪も悪魔が喜ぶ行為だしな。キリスト教は西洋の宗教というイメージもあるが、聖書に書かれている内容は国籍関係なく、全人類共通なのさ。悪魔は日本では、龍神やアマテラスなんかに化けてるかもな。悪魔は一見良いものに化けるプロだ。聖書にも悪魔は光の天使に偽装するって言ってる。神社を清らかなパワースポットと思い込むのは良くない」

「それは一理あるかもしれないわね。昔、和風ファンタジーを描く為に取材した時、神社で子供を生贄に捧げる風習を調べた事があったわね。確か生贄に選ばれた方が名誉みたいな感じなのよね。白羽の矢が立つって言葉も生贄の風習が語源らしいわよ。あと、日本だけじゃなくてアステカやエジプトでも生贄が盛んだったのよね。アステカ人のポゾールっていう生贄儀式料理も本で読んだわ」


 珍しく栗子は陽介に同意していた。確かに今は生贄になるヒロインの和風シンデレラストーリーの少女小説が流行っているが、現実はそうでもないらしい。そう言った夢を見せている小説はある意味罪深さも感じてしまう。


「そういえば私もローマ法皇が幼児虐待してたっていうニュース見たことあるわよ。あぁ、そういえば昔会社にいたアメリカ人上司が、悪魔崇拝の生贄誘拐はあるとか言ってたけど」


 関係ないかもしれないが、亜弓は一応言ってみた。


「そうそう、あれも一種の悪魔崇拝で、幼児を痛めつけて殺して生贄に捧げてたって事だな。ローマ法皇も悪魔を拝んでる奴らだぜ」


 陽介に褒められ、亜弓は赤面して俯く。そんな亜弓に栗子は冷めた表情で紅茶を啜った。


「ニャア」


 猫のルカも小さく鳴いていたが、どことなくバカにしたような声だった。


「という事はやっぱりこの真凛ちゃんも幼児誘拐というか悪魔崇拝者達の生贄になったって事で合ってるの?」


 褒められて調子に乗った亜弓はチラシを指差してて言う。


「その可能性は十分あるね」


 陽介はなんの迷いもなく断言していた。ここまでハッキリ言うと逆に怪しいと栗子は思う。もしかしたら真凛の行方不明にか関わっているのだろうか?と栗子は訝しがる。疑いの目を隠せない。それぐらい栗子は陽介が大嫌いだったし信頼もしていなかった。


「ロリコンの可能性はないの?」


 栗子が聞く。


「それもあるけど、だったら警察がすぐ捕まえてるはずさ。まあ、日本の警察は小説やテレビドラマで言われているほど優秀ではないな。あれも一種のプロパガンダで洗脳だよ。有名人の自殺でもろくに調べやしねぇ」


 その後、陽介は先日自殺したアイドルや俳優は本当は他殺だったという陰謀論を自慢気に披露していたが、栗子は興醒めだった。何の証拠もないし、よくそこまで人を疑って観れるものだと思う。自殺とされた芸能人達も生贄で殺された可能性があると聞くと気になる事は気になったが、何の証拠は無く下らない話だ。


 亜弓はうっとりとした目で下らない陰謀論を聞いていた。亜弓の残念美人っぷりにため息が出そうになる。栗子は死んだ目で紅茶をすすり、ルカの背を撫でた。もふもふとした温かい毛並みを触っていると少しは怒りがおさまり落ち着いてくる。


 そんな時、外が何か騒がしかった。パトカーや救急車の音もする。


「大変よ! 事件が起きたみたい!」


 客間に買い物から帰ってきた桃果が駆け込んできた。



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