子ども捜索大作戦編-4
住宅街を見て周ったが、特に収穫はなかった。当然ICレコーダーの出番も無い。
二人でとりあえず商店街に向かった。ミチルの唐揚げ屋は定休日のせいか、行列は見えなかった。
ベーカリー・マツダの行き、シナモンロールやカレーパン、塩バターパンやラスクを買い込む。ラスクは今日、ミチルが来る予定なので、お茶菓子として振る舞おうと栗子は計画していた。チョコ味とキャラメル味がセットになっているラスクで10枚入っていて200円でお得だ。
「お会計お願いします」
ここは栗子が会計する事になった。このベーカリーの若き職人・和水が笑顔を見せながら対応する。
「それにしても今日は寒いわねぇ」
「二人とも顔真っ赤ですが、どこか出掛けてたんですか?」
そういえば栗子も桃果も住宅街を彷徨いていたので、寒さで顔が赤くなっている。
「この子探してたの。この町内で行方不明だなんて居てもたっても居られなくて」
栗子が例のチラシを見せると、和水はちょっと顔が曇った。
「あぁ、真凛ちゃん」
「知ってるの?」
ぐいと栗子は身を乗り出して聞く。
「いや、どこに居るかは知りませんが、お母様が毎日うちの店にも探しにきて」
「そうなんだ」
「真凛ちゃんは、あの動物パンが好きでね」
和水が指さした方のトレイには、ウサギやクマ、カメなどの動物パンがあった。チョコペンで顔が書かれいる。表情は一つ一つ異なり、笑ってる子、怒ってる子、泣いている子と色々いる。なんとも素朴で可愛らしいパンだ。中身はチョコレートクリームとポップも貼ってあり、一個120円で子供のお小遣いでも買える範囲だ。
「他に気になる事はなかった?」
栗子はちょっと動物パンに惹かれつつも、さすがに子供じゃないからと我慢して和水に質問を重ねる。
「そうだなぁ。なんかミチルさんの唐揚げ屋が気になるとか話してたかも。叶えたい願いがあるから毎日唐揚げ屋に通いたいって言ってたかな」
「叶えたい願いって?」
桃果も身を乗り出して聞く。
「さぁ。子供だから大した事じゃ無いでしょう。給食がカレーがいいとか、先生に叱れないようにとかそんなところでしょう」
新たに和水から情報を得たが、それが事件につながるかわからない。栗子は会計をすませ、買ったパンを受け取ったとき、外から何か騒がしい音が聞こえた。
「何かしら?」
もしかして何か事件だろうか。コージーミステリだったら、この辺りで死体が転がっているはずだ。栗子はちょっと目を輝かせながら外に出た。
「ちょっと、シーちゃん、待ってよ〜」
桃果がそんな栗子の後をのろのろと追いかけた。
どうやら駅前のロータリーの方が騒がしいようだ。栗子と桃果は人だかりをかきわけ、騒ぎの中心に行く。しかし、別にそこには死体などはなかった。
「ワクチンは危険! この疫病騒ぎなど茶番だ!」
三十代ぐらいの男が飛沫を飛ばしながら叫んでいた。当然疫病対策のマスクもしていない。
まさかあの男がこの町に居るなんて!
栗子は膝から崩れ落ちるような思いがした。この男は有名な陰謀論者。船木陽介という。死んだ夫がが陰謀論に染まるきっかけになった男でもあった。
「シーちゃん、あれ陽介さん…」
何かを察した桃果の優しい声も聞こえたが、栗子の胸は嫌な気分で満たされていた。