その3
私とお兄さんが知り合って12年が経つ。
親同士の再婚でその時私は5歳、お兄さんは14歳だった。
自分が赤ちゃんの頃に離婚したシングルマザーの母親と二人暮らしだった私は、男家族と大きな一軒家に最初は不安で一杯だったが、そんな心配はひと月もしないうちになくなっていた。
小さいながらも企業の社長である義父はおおらかで頼りがいのある人だった。
幼い頃、病気で実母とお腹の中にいた実妹を亡くしていたお兄さんは、私を本当の妹のようにかわいがり大切にした。
ときどき喧嘩をすることもあったけど、だいたいは年上のお兄さんが折れてくれた。
そのうちに兄妹愛だと思っていたお兄さんへの想いが恋心だと気付いた私は葛藤を抱えながらもそれを貫こうと決める。
(お兄さんの後を追っていけばそのうち私の気持ちに気づいてもらえるはず)
単純な考えで私はお兄さんの通っていた名門私立校へ猛勉強の末に入学した。
お兄さんは既に卒業していたけど、先生の中には在学時の様子を知っている人が多くいて、色々と昔話を聞く事が出来た。
お兄さんは生徒会の役員も務めた優等生で概ね好印象を持たれていた。
女の先生には端正な顔立ちを覚えられており、
「あの顔は私が今まで見た中でも3本の指に入るイケメンね」
それを聞いて私も大いに納得したのだった。
私は趣味や好きなアーティスト、好きな食べ物さえもお兄さんに合わせ、共通項を多く作る事で接点を増やすようにつとめた。
そういった努力も実って周りから見ても仲のいい兄妹と言われるようになり、私は自分の恋が少しずつ成就に近づいていると信じて疑わなかった。
(お兄さんの背中に追いついて、思いっきり抱きついてやる。絶対に離さないんだから)
しかし、突然の海外勤務が全てを無駄にするかもしれない。
見えていたはずの背中がはるか遠くに離れようとしている。
それどころか消えようとしている。
私はただただ号泣するしかなかった。