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もう少し

 夜の世界に似つかわしくないほどの眩い光を放つ一条の光が周囲を照らす。

 赤く太陽のように輝くその光は、重低音を轟かせ、弓から放たれ矢のようにアドゥルバを貫いた。


 最初に吹き飛ばされた時に激突した重機の所に、火球をみえないように待機させていたのだ。

 そして、その正面に来るようにアドゥルバを誘導。完全に油断しきったそいつ目掛けて俺の最強の威力を誇る一撃を放った。

 佐川 葵に裏切られたその日から、俺と唯は必死に彼女の行方を探していた。

 結局は見つける事が出来なかったが……ただ、その過程で魔法の扱いが各段に上手くなった。

 その一つが火球の操作だ。


 そして、その威力も以前に比べると各段に上がっている。

 今では炎弾でも十分にグールの体に傷を付ける事が可能となった。

 そして、それから初めて対戦車用ライフルを放ったが俺の想像を越えた威力を発揮してくれた。


 「あぎっ! キサマッッッ!」


 だけどそれでもとどめを刺すには至らなかったようだ。

 

 「マジかよ……」


 アドゥルバは寸前の所で身を捩らせてどうにか直撃を避けたようだ。

 それでも体の右側は完全に吹き飛び、大きな風穴が開いていた。だけど、高熱に焼かれ、溶けた皮膚がくっ付き血がせき止める。

 右足を失ったそいつは立っていることもままならず、俺と同じように地面に這いつくばる。


 「――死ねっ!」


 俺を見た双白色の目が怒りに染まると、呪詛のようにそう罵って来た。


 「まず――」

 

 そう思った時には遅い。全身に浴びた奴の血液が一気に爆せる。

 ゴミのように宙を舞い地面に叩きつけられて、数度バウンドして動きを止める。


 「あぎ……か……まだ…………」 


 何とか即死を免れたようだ。

 最早奇跡としか言いようがない。


 目は爆発の影響で完全に蒸発したのか、何も見えない。

 自分の姿はどうなっているのか……きっと悲惨な事になっている事は想像に難なくない。

 強いて言えば感覚が麻痺して痛みはない。変わりに全身が火だるまになったように暑い。

 喉は焼け、肺は潰れ声も満足に出せない。


 「は……やぐ」


 ポーションを……。

 最初のポーションで2割の魔力。

 対戦車用ライフルで更に4割の魔力を消費した。

 残りの魔力の4割のうち3割をポーションへと注ぎ込む。

 口のすぐ側にポーションを作り出すと、焼けてくっ付いた唇をべりべりと無理矢理剥がしてそれを口の奥へと移動する。

 酷い味に傷の影響で咽せそうになるのをこらえて全て飲み干した。


 「――あが……ぎぃっ!」


 人体からあまり聞こえてはならないよう音が鳴っては、あらゆる箇所が隆起しては戻るを繰り返す。

 再生と言うよりは体を改造されているように勘違いしてしまいそうなほど、いろいろな部分が意思とは関係なく動き、たまらず変な声が出てしまった。


 「――かはっ! ごほっ……! …………治ったのか?」


 そうして目をあけると光が戻った。


 「だけど、まだ少し痛むな……」


 それだけのダメージを負ったのだろう。あの濃縮されたポーションでも完全に治しきれない。

 右腕は復活したが、左腕は千切れ飛んだままない。血は止まっているが骨がむき出しとなっていた。

 見ている痛んで来そうだと、視線を逸らす。


 「あいつはどうなった?」


 アドゥルバの姿を探すと、まだうつ伏せに倒れたまま起き上がっていない。

 あそこまでの傷を負った影響か、再生するまでには時間がかかりそうである。

 だけど、こっちも魔力も殆ど残っていなければ肝心の武器すらない……攻めるにしても打つ手がない状態である。


 「まずいな……」


 そうしている間にもアドゥルバの体は少しずつ元に戻りつつあった。

 このままだと完全に再生するのも時間の問題か……。

 流石に腕が吹き飛んだ時は心が折れそうになったがどうにか耐えた。

 惨めに逃げて奴を誘い込んだはいいが、結局は振り出しに戻る……か。


 「ギザマッッッツ! コロスッッッ!」


 俺が立ち上がった事に気づいて呪いを吐くように叫び、残った左手で地面に爪を立て苛立ちをぶつけていた。

 スナック菓子のように砕けてボロボロになっていくアスファルトの地面。

 今は動けないからいいが、それが解放されたとなると――殺される。


 「ぐっ……やば……い」


 その鬼気迫る気迫に気圧される。


 「せめて斧を……っ! 危なっ!」


 左腕を失った事で平衡感覚がいつもと違い、足がもつれて転びそうになった。

 酔っ払った人のように、よろけながら離れた所にあった左腕の所まで移動する。


 「良かった。壊れてない」


 自分の体から離れてもしっかりと斧を握っている左腕。…………と言うより手の平の皮膚が溶けて持ち手部分と融合してるじゃん……。

 

 「なんかやだな……」


 それを無理矢理に引っ剥がす。

 神経は繋がっていないはずだが、何故か左手がまだあるような感覚と共に、痛みを感じた気がした。


 「見るの辞めよう……てか、もうあんなに治ってる」


 アドゥルバの方を見ると7割近くが回復していた。


 「反則すぎるだろ……」


 あの巨体に関わらず身軽な動きに、拳一つが必殺の一撃になる。そんでもって、血液は爆発性を持ち、あげくの果てには並外れた再生力まで持っている。

 極めつけはアンデットなせいで、魔石を破壊するか脳を破壊しないとしなないだろう。

 こういう奴にチートと言う言葉が会うんじゃないだろうか?


 逆に俺はと言えば、魔力は底を尽きかけているし左腕もない。おかげでバランスを取るだけでもやっとだ。

 武器はこの右手に持った斧のみ。

 こうしてアドゥルバが再生する所を指を咥えて待っていることしか出来ない……。


 「――ガアァァアッ!」


 咆哮を放ったアドゥルバは、不格好ながらに立ち上がった。

 まだ右足の再生が不完全だ。

 筋肉の繊維が丸見えの状態だったが、それでも立ち上がると、ゆっくりとだがこちらに向かって歩いてくる。

 地面を踏みしめる事に爆発性の血液を吹き出す。


 「ギィッ――ニンゲン、生きたまま腸引きずり出してぶちまけてやる!」


 目に怒りの感情を浮かべ、歯を剥き出しにするアドゥルバ。離れた所に居る俺にもそれがヒシヒシと伝わり鳥肌が立つ。


 「……ぐっ!」


 最初に遭遇した時のように体が金縛りにあったように動かない。奴の言っていた威圧による影響なのだろうか?

 

 「――あぁぁあっ!」


 気合いを込めると無理矢理足を動かした。すると全身を縛っていたそれが解除され、動けるようになる。

 そしてアドゥルバも足の回復が終わったようで、イノシシのようにこちらに向かって突進して来た。


 「くっ!」


 寸前で奴の突進を避ける。


 「――爆セロッ!」


 自分の体を引き裂いて爪に付いた血液を飛ばしてくる。

 間一髪避ける事はできたが――


 「――がはっ!」


 地面に付いた血液が爆発した。

 飛んできた破片が弾丸のように飛んでくると、背中と右足にめり込む。

 あまりの激痛に動く事が出来ない。


 「やばっ――」


 アドゥルバは凶器のような手を振り上げると、叩きつけるように振り下ろした――

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