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真の能力

 アドゥルバが何かを言い切る前に俺は追撃の一手を加えようと駆け出していた。


 「いいぞいいぞ! さぁ、もっとだ!」


 仁王立ちしたアドゥルバは俺の攻撃を避けようとも、防ごうともせず、全身でそれを受け止める。

 斧が振るわれる度に、肉が削がれて血を吹き出す。


 ――兜割りの連撃。


 何か秘策があろうとも……油断している今だったらば倒せるはず。

 吹き出した血で全身を赤く染め、血の臭いに混ざってガソリンのような――ガソリン……なんで?


 ――まさか!?


 慌てて離れたが、全身に浴びた奴の血液からはガソリンのような、鼻を刺す刺激臭いがした。


 「イヒッ! もういいのか? 今なら我を殺せるかもしれないんだぞ?」

 

 全身血だらけでズタボロなアドゥルバだったが、痛がる素振り一つ見せずに悠然としていた。


 「……ふむっ。来ないのか。つまらんな……」


 そうしてさっきと同じように傷が塞がると元通りとなってしまう。

 

 「余興はこの位で終わりだ――」


 ――えっ!


 アドゥルバがそう言った時だった。


 「腕が……アアアアッ! 腕が! なんで!」


 小さい爆発音と共に、左腕の感覚がなくなった。そして地面に転がっている俺の体の一部だった物が見えた。

 そして、左腕があった部分を見るとそこには付いてるはずだった物はない。

 鋭利な物で切断されたわけじゃなく、無理矢理引きちぎられように剥き出しとなった骨と肉があった。


 「痛い痛い痛い!」


 叫び膝から崩れ落ち、左腕腕を押さえてうずくまる。


 「イヒヒッ! それだよそれ! ニンゲンのその悲鳴、絶望、恐怖が見たかったのだよ! アヒャヒャ!」

 

 俺が苦しむ様を見て、さぞ楽しそうなアドゥルバ。


 「アヒャヒャッ! 今回のニンゲンは当たりだったようでなによりだ! 極上の餌! あぁ……早く食べたいなー」


 まるで料理の味付けをして、出来上がりを待つ人のように舌なめずりして俺を見下ろしていた。


 「お前を食った後はあの二人、そして学校とやらに居るニンゲンも全部我が食い尽くす」


 辞めろ……。

 そう思うが、兜割りの連発、左腕から流れ出た大量の血のせいで立ち上がる事ができない。

 諦めそうになる心に鞭を打ちアドゥルバを睨み付けるが、あざ笑うかのように。


 「まだ心が折れないのか? 存外、渋といな……なら、これでどうかな?」


 そうして両手を拍手するように一度叩くと。


 「――アアアッ!」


 今度は右腕が吹き飛んだ。


 左右の手が失われて完全に攻撃する手段を失ってしまう。

 爆発の衝撃で一瞬体が仰け反ると、力が入らずそのまま俯せに倒れた。

 火照った頬を冷えた地面に優しく触れる。

 

 「イヒヒッ! これで終わりかな?」


 奴が近づいてくる足音が聞こえる。


 「やっ、辞めろ! 来るな!」


 涙目で命乞いをして、芋虫のような無様な格好で少しでもその場から離れようとする。


 「アヒャッ! ヒヒヒッ! いいぞ! もっと逃げろ!」


 顔は見えないがご満悦と言った感じだろうか、顔を歪ませて喜んでいるそいつの表情が想像できた。


 「ヒヒッ! ほら、次」


 すると今度は左足の一部が爆発する。

 最早、感覚が麻痺したのか熱は感じるが痛みはなかった。辛うじて繋がっている左足には力が入らない。残った右足だけでどうにか移動する。


 「さて、次は何処がいいかな? 我の血液に触れた部分……あぁ、顔にしようか」


 血液が触れた? そして、ガソリンのような臭い。

 恐らく自分の血液を触媒に何らかの方法で爆発を起こしてるのだろう。

 俺の体にはどれだけ奴の血が付着しているんだ……? 

 

 ――やばい。


 「ヒヒヒッ! …………っと思ったけどやーめた。アヒャッ! 死んだらつまならないからな」


 アドゥルバの気まぐれで、どうにか爆発死は避けられたようだ。


 「ぐぅっ……嫌だ」


 少しずつ奴が近づいてくる。


 「死にたくない……助けて……」


 誰か助けてくれ。

 いい年こいた大人が失禁して這うように逃げる姿は、あたから見たらさぞ滑稽だろう。

 そんな無様な姿を晒しながら俺は逃げようとする。


 「くそっ……誰か――っ!」


 足が滑り体勢が崩れると、そのまま仰向けとなってしまう。

 こんなに酷い目にあっているのに、燦々と輝く星々が憎らしく思えた。

 

 「どうしてこんな目に合うんだよ……」


 怒りが恐怖に変わり、更にそれが怒りに変わる。震える声で呪詛めいたように呟いた。


 「ヒヒッ! もう、逃げるのは終わりか?」


 あいつが何か言っているが正直どうでも良かった。

 そんな事より、早くこの戦いを終わらせたい……それしか思えない。


 「あの大量のニンゲンどもみたいに眷属するのも良かったんだがな……あぁ、もう二人のニンゲンは殺さずそうしようじゃないか。イヒッ!」


 そうして俺の目前までそいつが迫る。

 大きな影が俺を覆う、周囲が暗くなった。


 「さて――」


 「――終わりにしようか」


 そいつに合わせるようにそう言った。


 「アヒャヒャッ! ニンゲン、最後まで笑わせてくれる。終わりにしようか? それは自分の事を言ってるのか? ヒャッ! ヒャッ!」


 しゃくりあげるように盛大に笑うアドゥルバ。

 

 「これ以上、冗談はよしてくれよ」


 肩をひくつかせて今も笑っているそいつは隙だらけだ。


 「なんだ、ニンゲン? 何が面白い?」


 口元をにやけさせた俺はそれに対して無視をする。


 ――ここはよく見える。


 「答えろッ!」


 無視をされて怒りを露わにした。

 今にも踏み潰さんとばかりに迫って来るが、俺は動じない。


 「なぁ……最後に聞いていいか?」


 俺はそいつに問いかけると、ピタリと踏み潰そとした足を止めた。


 「ここにいた人を……どうした?」


 「アヒッ! そんな事かよ――ほら、あそこに居るだろ? お前の仲間と今遊んでよ」


 唯と真奈が戦っているその方向を指差した。


 「全員……俺の眷属にしてやったさ。アヒャッ! 逆らう奴も命乞いする奴も――全員な」


 こいつは人をグールに変えられるのか? ゾンビからの進化を飛ばしてそれなら、かなり厄介だ。


 「そういえば、この子だけは助けてくださいとか言っていたニンゲンもいたな」


 待て、もしかして子供まで?


 「もちろん、最初はどっちも殺すつもりだったんだが……足にすがりついて命乞いするその姿が面白くてな」


 その時の事を思い出しているのだろうか、恍惚にだらしなく表情を歪めて俺の顔を覗きこんでいる。


 「だから、生かしてやった」


 なら、その子供は生きて――


 「――もちろん、そのニンゲンは我の眷属にしたがな……するとどうなったと思う? 必死に庇った小さきニンゲンを自分の手で食いやがった!」


 ばっと起き上がって、抱きしめる前の人のように両手を広げた。


 「辞めて辞めてと泣き叫ぶニンゲンに、構わず腕、足、腹、そして最後に頭……残さず全部食ってしまったよ!」


 息遣い荒く興奮するそいつ。


 「あぁ! そこからだ……。我はその時の快楽が堪らなく忘れられないっ! そうして、一人ずつゲームをしてやったんだ……無様にも命乞いするニンゲン! たまらなかったな! 結局誰一人、そのゲームをクリア出来なかったけどな」


 クズ野郎……。


 「アヒャヒャッ! せっかくだからお前も同じようにしてやりたいが……ルールはルール。あの二人には生きてるうちには手を出さないと言ったからな――だから、さっさと殺して我の腹を満たさせろ」


 もうこいつの声すら聞きたくない。


 沸々と湧き上がる溶岩のように熱された怒りが津波のように押し寄せた。

 

 少しでも早く消えろ。 


 ——イメージはライフル。

 

 ——鋼鉄の戦車を貫く黒き玉。

 

 ——如何なる物も貫き破壊する。


 「死ね、クズ」


 ——対戦車用ライフル。

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