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分かっていても

 「唯、俺が先に切り込むからとどめは任せたぞ」


 そう一緒に動いた唯に指示を出す。


 「はい! 分かりました!」


 前方から凄い速さでグールがこっちに向かって来ていた。

 休憩を取ると言った事で反応が少し遅れた三人に対して、俺と唯は即座に行動に移した。

 素早さだけなら唯を凌ぐ、最初はペースを合わせていたが指示を出すと一気に追い抜いた。


 「——おらっ!」


 右手に持つ斧を全力で振りかぶる。

 牽制のつもりで振ったそれだったが、グールは走って来た勢いのままそれをかわす事が出来ずに左の腕でそれを受け止める。

 半分程食い込んだ状態で、刃が止まると乱暴にその場からグールが飛びのいた。


 「逃がすかっ!」


 すかさず追撃をに向かう。侵入防止の線路沿いにある人の慎重程ある柵を軽々と飛び越えたグールは向こう側からこっちをニタニタと笑って見ていた。

 俺も負けじとレベルアップで得た身体能力をフルに利用して奴へと迫る。


 「——宗田さん、危ない!」


 目前まで迫った時、唯が叫んだ。

 

 「——っ!」


 斧を振ろうとした体勢を無理矢理変えてその場から転がるように避ける。

 線路に敷き詰められた石が体に食い込み痛かったが、それよりも俺がさっきまで居た場所にあった線路が見事に拉げている事の方が衝撃的だった。


 「二体目だと……?」


 俺が止めを刺そうとした時、別のグールが奇襲を仕掛けてきたようである。

 振り下ろされた鞭のようにしなる手から繰り出された一撃は、鋼鉄の線路ですら容易く破壊していた。


 「大丈夫!?」


 唯が俺に追いつくとそう声をかけて来る。


 「あぁ、何とかな……だけど奴ら——」


 グールが同時に二体現れたのは初めてだった。

 それだけでも驚きだが、一体を囮に罠を仕掛けて来た事に更に驚愕する。


 「唯、気を付けろ……今までの奴らとは何か違う」


 「そう……みたいだね」


 その二体から目を離さずに話を進める。そいつらは襲ってくるでもなく互いに横に並びながらこっちを見て嘲笑するように口元を歪めている。


 「まずは手負いの奴に仕掛けるぞ」

 

 「——はい!」


 そう返事を返して動き出そうとした時だった。


 「なっ——! 待てっ!」


 身を翻してそいつらは逃げ出した。


 「どう言うつもりだ? 誘っているのか?」


 今までにない奴らの行動に困惑する。まるで俺達を誘っているかのような行動に追うべきか迷っていると。


 「二人とも大丈夫!?」


 他の三人も俺達に追いついた。


 「大丈夫だが……あれを見てくれ」


 遠くに離れた所でさっきのグール二体がこっちを見ている。

 かと言って近づいてくる様子もなく何がしたいのか行動が読めない。

 これで近づいて逃げるようであれば、誘っているのは間違いないが……そうなるとこいつらも知恵を付けてきていると言う事となる。

 厄介だな……。


 「どうする?」


 「……追いましょう」


 「えっ! 隊長、本気ですか!?」


 そう抗議の声を上げたのはアリス。


 「本気よ。グールが知恵を付けた可能性があるわ。それを確かめないと」


 「で、でも真奈の姉貴……危険過ぎじゃ?」


 剛も反対なのだろう。おずおずとした態度だったが、自分の意思を伝えていた。


 「そうね……だから、ここは私だけが行くから皆は戻ってもらえるかしら?」


 「——なっ! 姉御一人で行くつもりですか?」


 「そ、そうですよ……リーダーに判断を仰いでからにしましょうよ」


 そう言ってアリスと剛は彼女を引き留めようとするが、首を横に振ってそれを否定する。


 「いえ、行くわ。紫苑にはテストは合格って伝えて貰っていいかしら? それに偵察だから問題ないわよ」


 そう言ってはいるが、恐らく向こうは俺達に気付いている。そうなると、偵察で済まないのは明白だ。

 

 「でも……」


 「あー、なんだ。俺は真奈と一緒に行くぞ?」


 「だ、ダメよ! 危険過ぎるわ!」


 そう叫んだ彼女だったが、俺は意見を変えるつもりはない。


 「残念ながらまだ警備隊に正式に入ってはいないからね。仮に真奈が行かないと言っても俺は行くよ」


 「と言う事は、私と宗田さんはセットなので……芋づる式に一緒になります」


 おいおい。いつからセットメニューみたいに俺達はなたんだ? でも、唯が居てくれる方が心強いけどね。


 「じゃあ、俺達も——」


 「——それは駄目だ」


 剛が言い切る前にそれを拒む。


 「あ、兄貴、なんでだ!」


 「二人は素直に紫苑さんに伝えてくれ。ここで俺達が全滅したら誰がそれを伝えるんだ? ついでに応援を寄こせるようなら頼むよ」


 俺は話を続ける。


 「それに、アリスと剛は単独でグールを倒せるのか?」


 そう言われて二人そろって苦虫を潰したような表情をする。

 遠回しに足手まといと言っているのだから仕方ないだろうが、命がかかっているんだから勘弁して欲しい。

 仮に誘われた先に想定外の相手が居れば二人を守る余裕なんてないのだから。


 「って、ダメよ。宗君も唯さんも戻って!」


 話がまとまりそうな所で、真奈がそう言ってきた。


 「あなた達がそこまでする必要は——」


 「——信頼だよ」


 「え?」


 「信頼が紫苑さんには欲しいだろうからね。先に俺達がそれを見せてやろうかと思ってさ……命を懸ける方が分かりやすいだろ?」


 命を懸けると聞いて、怒ったような驚いたような、呆れた表情をした彼女。すぐにその変化が戻ると目を伏せて何やら考え始めた。


 「もう一度聞くけど戻るつもりはないのよね……?」


 「ああ、ないね」


 俺は短くそう答えた。


 「……分かったわ。ただ、絶対に危険になったら逃げて欲しい」


 「……善処はする」


 間違いなくあいつらの後を追ったら、少なくとも危険が待っているだろう。 

 だからってすぐに逃げるなんてするつもりはさらさらない。


 「はぁー……分かったわ」


 渋々と言った感じで真奈が了承する。


 「そう言う時の宗君は頑固で言う事聞かないもんね」


 昔を懐かしむように表情が柔らかくなった真奈、よくこれが元で喧嘩しそうになっていた事を思い出した。

 互いに頑固だった一面を持ち合わせるが、結局はいつも彼女が折れてくれていた。

 今回もまたそうなったようで少しだけ申し訳ないと思った。

 

 「宗田さん」


 俺の服の袖をくいくいと引っ張って来た唯が上目遣いで名前を呼んだ。


 「どうした?」


 「ベルちゃんは逃げてって言ってるよ」


 と言う事は確実に厄介ごとが待っているのか……。だけど、今更引っ込みがつかないし、ここで戻るとなっても真奈は一人で行くだろう。


 「そうか……他には何か言ってたりする?」


 「いえ、他は特に。こっちから話しかけてもあまり反応しなくて……」


 あの騒がしかった姿からは想像が出来ないが、声だけとなった彼女には何かしらの制約でもあるのだろうか?

 自称精霊のベリルからのせっかくの助言だったが俺はそれを無視して、グール達を追う事にした。

 

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