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二人仲良く

 静かな部屋の中に布団が一つ敷かれている。大きさは二人が入ってちょうどいいくらい。それが、部屋の大半を占めていた。

 紫苑さんに案内された部屋は宿直の先生が寝泊まりする部屋であった。ただ、そこは狭く布団を敷いてしまえば動けるスペースは殆どない。


 今は、眠れない人などがたまに利用するような感じで使われていると言う事だったが、今日はたまたま誰も利用をしていないとの事で、ここを案内された。

 

 「宗田さん……これ」


 「言うな……」


 互いにその布団をジッと見つめて固まっている。

 一緒に寝ていると言っても、寝ている部屋が一緒であって、布団まで一緒と言う事は無かった。

 だけど目の前にあるそれはどうだろうか? 白い布団に枕が二つ綺麗に並べてある。

 しまいにはここまで狭い空間だから、互いに意識をしてしまう。


 「ね、寝よう?」


 少しだけどもった彼女は緊張している様子だった。ロボットのようにぎこちなく動いて布団の上に移動すると、もぞもぞと中に入った。

 

 「宗田さんも……どうぞ」


 「お、おぅ」


 おずおずと俺も布団へと潜るが、恥ずかしくて彼女の顔を見れない。

 上を見てそれを誤魔化すが、横からは彼女のぬくもりが近く感じられて心臓の鼓動が早かった。

 

 「あ、あの……もしかしたら私臭うかも」


 結局は話し合った後、特に体も洗う事もなく部屋へと案内されてしまった。

 一緒に寝る事もだが、一人の女として体臭が気になったようである。

 言われて意識して鼻をすすって見たが多少、汗の臭いがするだけで臭いとは思わなかった。

 

 「あー、大丈夫みたいだよ?」


 そう言うと横でもぞもぞと動く音が聞こえ、少しだけ顔を傾けてそれを確認すると鼻の上まで唯は布団をかけて隠していた。

 それでも分かるくらいに彼女の顔は赤面しており、余計にこっちも意識してしまう。


 「嗅がないでよ……」


 小さく呟いた彼女がどうにも愛しく思えて理性の糸が切れかけようとしていた。このままではあの紫苑さんが言っていた事と同じになってしまうと、慌てて顔の位置を元に戻し天井の一点を見つめる。


 「あのさ……」


 「はい……」


 「寝よう……か」


 「そ、そうだね……」


 そんな短いやり取りを数回繰り返すと、瞼を閉じたが心臓の音が余計に響いて意識しない事が出来ない。

 だめだ——我慢が……。


 「……唯」


 勇気を持って彼女の方を振り向くと。


 「寝てる……?」


 その無防備で屈託のない表情に毒気が一気に抜けた。

 

 「疲れてたんだな……俺も寝よう」


 さっきの俺をマスターと呼んだ声に、嫉妬の使徒と呼ばれた真奈の事は気になったが……次第に睡魔が思考を邪魔してきて正常に考える事が出来なくなって来た。

 ベリルなら何か知っているだろうか? そう最後に思うと俺は意識を手放した。


 ——————————。


 「——真奈、どうしたんだ? さっきからおかしいぞ?」


 「いえ、特に……と言いたいんだけど何かおかしいの」


 そう言って、宗田と唯が居なくなった一室で二人は話をしていた。

 ただ、さっきまでの事務的な感じではなく親し気に、それでいて互いに妖美に絡み合っている。

 生まれた状態の恰好のままの二人は身を寄せ合うように抱擁を交わし、キスを繰り返す。


 「そうか……あの宗田とか言う男が関係しているのか?」


 胸を撫でまわしながら竹内 紫苑は彼女に問いかける。なまめかしい声を上げる塚本 真奈は身を捩らせながらそれに返答した。


 「そう……なのかな……。あっ……この話辞めましょう? 久しぶりなんだからそう言うの抜きにしてしたいの」


 分かったと紫苑が返事を返すと、より声が高ぶった。紅潮した表情の真奈は紫苑の首に腕を絡ませてより深く、そしてみだらに絡みつく。


 「紫苑……好きよ」


 「あぁ、俺もだ」


 そうして大人の時間を堪能する二人だったが、真奈の目の奥では何か別の感情を感じるが、紫苑はそれに気づいた様子はなかった。


 ああ、全て私の……私だけの————


 ♢


 ぼんやりとした意識のまま眠気と戦う事5分、このまま心地いい二度寝をしようとしたが断腸の思いでそれを振り切るとゆっくりと目を開けるとそこには見知らぬ天井があった。

 ここはどこだ?

 瞬きを何回か繰り返すうちに頭が次第に覚醒していく、そしてぼんやりとした視界も鮮明になると昨日までの事を思い出した。


 「さて、このままだとまた寝てしまいそうだ……起きるか——」


 と思ったが左腕に巻き付く彼女の所為で身動きが取れなかった。

 腕を引っ張ろうとするがびくともしない、理性の無い今ここに来て彼女の怪力が発揮されていた。

 ただ唯一の救いは、それをへし折る事がない事だろうか? だけど、徐々になんか締め付けが……あれ? 痛いぞ!


 慌てて彼女を揺するがむにゃむにゃと起きる気配がない。熟睡しているのはいいがこのままだと腕にもう一つ間接が出来そうなんだが。


 「ぐぐぐっ!」


 力の限り左腕を引き抜くことに成功したが、腕が絡みついていた部分が赤くなっていた。

 これって、彼女と一緒に寝るだけで命がけなんじゃないか? 可愛い寝息を立てる彼女を見ながらそんな事を思うと背中に冷たい汗が噴き出した。

 早く力加減を覚えて貰わないとだな。

 後頭部を右手でかきながら、欠伸をして彼女の頭を撫でる。


 「起きたのはいいけど、どうしたらいいんだろうか?」


 とりあえず外に出てみようかな? 彼女を起こさないように慎重に布団から出て縮こまった筋肉を伸ばして扉の方へと移動した。

 ゆっくりとそれを横にスライドさせると、学生の時よく聞いた懐かしいガラガラ音が扉から奏でられる。


 「懐かしいなー」


 身を乗り出して外を覗くと、まさに学校と言うような風景が広がっていた。

 昨日は暗くてあまり感じなかったが、こうして改めて見ると子供の頃を思い出す。

 黒味がかった青色の廊下のタイルに、白い壁が端から端まで伸びていて、味気ないと言えばそうかもしれないが、学校とはこう言うものだったと思い出させてくれる。


 「さてと、何処に行ったらいいんだ?」

 

 窓から見るに、今は朝か昼。だけどあまり人の気配が感じられなかった。

 避難所と言う割には他の人をまったく見かけないな。


 適当に散策させてもらうかと思って歩き出した時だった。


 「あ、兄貴! おはようっす」


 相変わらずの巨漢の男、剛が後ろからこっちに駆け寄って来る。

 首を少し上に傾けて挨拶を返すと、「おっす!」と返事を返してくれる。皆に対してこうなのか、それとも俺の事を慕ってくれているのか、兄貴を呼んで来る彼は何処かそわそわとしていた。


 「あの……すんませんしたっ!」


 深々と頭を下げて、俺よりも小さくなると彼は謝罪にの言葉を述べて来る。

 そんな彼の後頭部を眺めながら、何のことだろうかと考えるが思いつかない。


 「頭を上げてくれ。てか、突然どうした? 何の事だかさっぱりなんだが……」


 ちらちらと少しだけ頭を傾けて何やら様子を伺っていたが、一向に下げたそれを戻す気配がない。

 こんな所を誰かに見られたら勘違いされそうで困るんだが。


 「あ、宗田さんだ! ぐっともーにんぐ」


 ガラガラと、俺達が寝ていた横の部屋の扉が開いたと思ったら、佐藤 アリスが姿を現した。

 日本語は流暢なのに、英語の発音は並み以下。本当にハーフなのかと怪しくなるくらいだが、その顔を見ればそれが真実だと言う事は誰から見ても分かる。


 「アリスか、おはよう。てか、剛は突然どうしたんだ? 頭を上げてくれと言っても上げてくれないし」


 助けを求めると、やれやれと両手の平を天井に向けて首を数回振る。

 

 「ほら! 宗田さんが困ってるでしょ! さっさと頭上げなさい!」


 と彼のお知りにトーキックをかますが、逆にダメージを負ってのたうち回ってしまった。


 「ん? なんだアリスか……そんな所で寝転んでるなよ。流石に……汚いぞ」


 「誰の所為よっ! この石尻!」


 二人がきゃいきゃいとやり取りをしていると。


 「うー……もう、騒がしいな。どうしたの? むにゃむにゃ」


 目を擦りながら姿を見せた唯は、まだ完全に覚醒しきっていないのかそう言ったきり、ぼーっとこっちを見て前後に揺れている。 

 まさか、このまま寝ないよな? 


 「——ひっ! おはようございますっ!!」


 なんか剛、怯えてない?


 「——はっ! お前は誰だ!」


 剛に向かって警戒感MAXの唯がそう言ったが、たぶんまだ寝ぼける。


 「俺っす!」


 「誰っす?」


 漫才みたいなやり取りを繰り返して話が進まないため、彼女の頭にデコピンをお見舞して目を覚まさせてやることにした。

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