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実力テスト

 重い空気が充満する部屋の中で、テーブルに置いてあるランプだけはそれを感じさせず、軽々とした感じで炎を揺らしている。

 最後に挑戦的な物言いをした俺に対して、視線を外す事無く直視する紫苑。

 そして、女性陣二人はその行方を固唾を飲んで見守っていた。


 「……ほう、そこまで言うなら何か見せてくれるのか?」


 紫苑も挑発的な態度を取って来る。


 「そこまで言うなら、グールでもゾンビでもネックリーでも倒してもらおうか……」


 「ちょっと、紫苑それは流石に——」


 「なんだ? そんな事でいいのか?」


 「宗君も……二人とも辞めて」


 悲痛な声を漏らす真奈だったが、せっかくのチャンスを逃すわけにはいかない。

 最悪これならば、このコミュニティへの参加を見送ろうとも思ったが、ここまで言われたら俺も引き下がるつもりはない。

 どんな条件を突き付けられようとも俺は受けて立つつもりである。


 「そんな事か……その自信は何処からか来るのかと聞きたいが、詮索は辞めておこう」


 やれやれと言った感じの彼は話を続ける。


 「なに、君を馬鹿にしているとかじゃないんだ。そこだけは訂正させて貰うよ……要するに信頼さ、この世界で戦えるだけの実力があるかどうかが分からないもんでね」


 唯に関しては剛とアリスと言う証人が居るが、俺は何もしていないもんな。

 流石に手を抜き過ぎたか……少しだけ自分の実力を見せるべきだったと若干後悔する。

 ただ、彼の言っている事はごもっともだ。少し嫌悪な雰囲気にはなったが、どれくらいの実力があるか分からない人物を死地に向かわせるのは責任者として失格である。

 ならば、実力を見せろは妥当な所だろう。


 「俺は一向に構わない。唯と一緒に居れるならば、それくらいやってのけるよ」


 のろけにも近い物言いで俺が言うと、真奈は少しだけ寂しそうに眉を潜めた。 


 「二人とも……そう言うのは辞めてよ…………」


 悲哀の表情を見せる彼女。


 「——真奈さんは宗田さんの事を信用していないの?」


 俺達の会話を黙って聞いていた唯が口を開いた。

 それは獰猛な肉食獣のように、目をギラギラとさせて挑発的に真奈へとそう言った。

 今回は俺も止める気はない。むしろ、話を邪魔しているのは真奈の方である。

 

 「そう言う訳じゃないけど……」


 「なら、邪魔しないでください。彼は私より強いですから」


 おいおい! 言い過ぎだって!

 魔法が使えないなら、間違いなく唯の方が実力は上だと認識しているがそんなに尊大な物言いをされると、それなりにプレッシャーなのだが。


 「ほう、ならなんで彼はそれを黙っていたんだ?」


 彼が言う事はごもっともだが。


 「信頼です」


 さっきの言葉をそのまま返すと、感情を殺したように事務的にその事を伝えた。


 「元々は彼女の実力も隠すつもりでした。ただ……剛君がグールに襲われそうになった所で、彼女が俺の代わりに行動に出てくれたんですよ」


 襲われた、彼女が行動してくれた、と言う部分を敢えて強調してこっちには助けた恩があるんだぞ、と遠回しに二人へと伝える。

 結果として剛君は怪我もなくここへと戻って来たのだからそれに関しては文句はないだろう。


 「先程、紫苑さんが言っていた事と同じように私達からしても、この学校に集まった人々に対して信頼がない。ただ——それだけの話です」


 うん。信頼って大事。

 こんな世界なら尚の事、人の本性がさらけ出される。それこそ犯罪を犯しても咎める人はごく少数だ、そんな中で一度でもタガが外れてしまえば戻る事は出来ないだろう。

 あの佐川 葵もそうだった。

 きっと彼女もこころのうちに秘めていたそれが解放されて、自分の欲望に逆らえなくなった結果なのだろうと俺は思っている。


 だからこそ、その自制の効かない集団が集まってしまえばそれば山賊や盗賊の類と変わりない。

 俺はそんな集団に参加するのはごめんである。

 とは言え、ここは特に問題ないと思っているのが本音だ。竹内 紫苑に真奈。それに剛君にアリス、それら四人を見ていれば何となく分かる。

 まだ人を思いやる心を残しているからこそ、こうやって頭を下げて力を貸して欲しいと彼は言ったのだから。


 だけどこの件に関しては絶対に引き下がらない。卑怯だと思うが敢えて紫苑の言葉を借りた。

 唯と行動するのには魔石の件、レベルアップの件、をするにあたって効率がいいから……と言うのは建前だ——ほとんどは意地と嫉妬だ。


 「そんな言い方ってないんじゃないかな……?」


 真奈は明らかに怒っている様子だった。

 彼女が怒る時は眉毛がピクピクと小刻みに動くから分かりやすいが、睨みつけるその顔にはそれが現れていた。


 「そう言うなら、なんで彼は俺を信頼してくれないんだ?」


 「それとこれとは——」


 「——違う、って言いたいのかな?」


 敢えて主導権を握らせないために、真奈の言葉に合わせてそう言う。

 何か言いたげだったが、言葉に上手く表す事が出来ずに不機嫌に椅子に座り直した。


 「真奈も少し落ち着いてくれ。宗田君が言っている事はごもっともだ」


 「分かってくれたようで何よりです」


 さて、そろそろ話しの決着としたいのだがな。


 「それと、ここで言い争いをするつもりはありません。言い過ぎた事に謝罪します。

 そして、俺は改めて紫苑さんが提示してくれた条件を飲もうかと……そして、その実力に人柄、それらの信頼を得てみせます」


 腕を組んで納得しきれていない真奈。それとは真逆にしてやったりとした表情をしている唯。

 紫苑は……よく分からんな。あまり感情が表に出ないタイプなんだろう。

 今も考える素振りをしているが、どう答えが返って来るか予想は出来ない。


 「いいだろう……。ならその実力を見せてもらいたい。そして、私たちが信頼に足ると言う事も見せよう」


 分かったと腕を差し出して握手を求めると、紫苑はそれを握り返して来た。


 「よろしく頼む」


 「こちらこそ、改めてよろしくお願いします」


 こうして、互いに信頼関係を結ぶためにする事は決まったが、どうやってその実力を見せるべきか?

 模擬戦でもいいが、経験がないため不安だしな。

 それなら、ゾンビ100体狩りとかの方が楽で助かる。


 「それで、俺はどうやって実力を見せたらいいんだ?」


 「あぁ、それは簡単な事——彼女……真奈と行動して認められれば十分だ。こう見えてここで一番強いのは彼女だからね」


 そう言って彼女を見たが凄いこっちを睨んでいる。これで公平に判断できるか怪しいが……まぁやるしかないよな。

 

 「分かった。ただ……まだ信用できた訳じゃないから唯も一緒に行動させてもらっていいか?」


 もっともらしい理由を述べる。


 「いいだろう……。明日の夜、間引きの仕事でその実力を見せてもらう事にする」


 こうして俺達の話は一旦まとまった。

 あー、疲れた。息の詰まる話し合いが終わると、どっと疲れが肩にのしかかって来る。

 そう言えば今はまだ夜だったもんな……眠い。


 「さてと、今日の所は休んでくれたまへ。一応部屋は余っているからな……二人同室の方がいいか?」


 別に一緒じゃなくても——


 「——はいっ! もちろんです!」


 おい! また勝手に言うなよな。

 

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