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コミュニティ

 「雨止まないね」


 すぐに止むと思っていた雨だったが今も止む気配はない。

 それ所かむしろ屋根を叩く音が強くなっているようにも思える。

 一通りじゃれ合いを終えた剛とアリスと唯。そして俺を含めた四人は互いの事情を話していた。


 この二人は間引きを担当する係のようでゾンビを倒して回っていたそうだ。

 そしたら雨が降りそうだったため、近くにあった民家へと避難したらしい。


 しかも、俺の予想通り生存者が大勢いるとの事で。

 この先の学校を避難場所に互いに助け合いながら生活をしている。

 もちろん俺も唯も誘われた。

 

 「分かった。是非俺達もそこに参加させてもらえないか?」


 「おお! 兄貴よろしくなっ!」


 その返事に握手を求めて来た剛。

 手もデカいなと思いながら右手を差し出してその肉厚な手を握った。


 「やった! 唯ちゃんも来てくれるんだもんね!?」


 「あ、はい。よろしくお願いします」


 少し他人行儀な唯だったが、俺に目配せをすると了承の返事を返した。


 「やったー! 私嬉しいわ! やっと同年代の子が来てくれた!」


 規模としては100人前後の集団と言っていた。

 この話から、同い年の知り合いが誰も居ないのだろう。

 両手でブンブンと唯の手を振り回して喜びを露わにしていた。

 たゆんたゆんと揺れるその象徴、ピッタリと肌に着いた黒いタンクトップのせいでそれが余計に強調されていた。

 肩からは激しく動いたせいで白いブラの紐がはみ出していた。

 それを見てさっきの下着姿の光景を思い出して胸が高鳴った。


 ぎゅっと豊満な胸に抱き寄せられた唯は手足をじたばたと動かして藻掻いている。

 身長差のある二人。アリスさんは俺より少し低いくらいで、170センチくらいの背丈だ。

 女性にしては長身なそれのせいですっぽりと唯の顔はその谷間に挟まった。


 「たく……アリス、いい加減にしろよ。無駄肉のせいで嬢ちゃんがくたばっちまう!」


 無駄肉だがそれは贅沢な一品だ。

 変われるならそこの位置を変わってはもらえないか?


 「うっさいわねっ! だって唯ちゃん小さくて可愛いんだもん!」


 その暴言を聞いたアリスさんだったが、抱きしめる力を緩める事はしたが完全に唯を離しはしなかった。

 顔の横半分がそこに埋まり、俺に助けを求める視線を送っている。

 諦めろ。そう目で訴えかけると残念そうにその中に埋まって行ってしまった。


 「なぁ、兄貴達はずっと二人だったのか?」


 言い合いを終えた剛が俺に話しかけてくる。


 「あー、まぁ、そうだな。基本的には唯と俺の二人だったがどうした?」


 「基本的にか……いや、いいや。

 兄貴も嬢ちゃんも魔術が扱えるとか?」


 魔術か……。

 以前その言葉を聞いた時からずっと引っかかっていた。

 だから。


 「いや、使えないよ」


 とそう言う事にした。

 アリスさんは俺の返事を聞くと少し落胆したのが分かる。

 そして、緩んだ隙に唯がその山のから脱出に成功する。


 「うぅー……死ぬかと思った」


 よろよろと生気なく俺の方へと向かってきた。

 そして寄りかかるようにちょこんと座って項垂れる。


 「……隠すの?」


 耳元で小声でそう言った。


 「あっ……逃げちゃった」


 少し寂し気なアリスに苦笑いを返えすと、ばれないように唯の頭を撫でながら頷いた。

 

 「ところで、嬢ちゃんと兄貴は付き合ってるのか?」


 そう聞かれて吹き出しそうになる。

 

 「本当に仲良しよね。私と剛なんて子供の頃からの付き合いなのに優しくもしてくれないのにさ」


 その話を聞くに二人は幼馴染と言う事なのだろう。

 心を通わせたるような二人の掛け合い。だが、カップルの仲の良さとは違うそれを感じ取っていたがこれで納得した。


 「二人も十分仲が良いと思うんだけどな……あー、一応言っておくと唯と俺は付き合ってないよ。

 こんな世界になる前に同じ職場で働いていたんだ」


 本当にそれだけの関係だった。

 だがそれを二人に告げた時、不貞腐れた唯の顔が視界に入る。

 なんでそんな顔するんだよ。


 「なるほど。魔術も使えないのに今まで生き延びたんだから凄いな!」


 魔術ねー。

 ちょっと聞いてみるか。


 「なぁ、さっきから魔術って言ってたけど魔法(・・)? みたいなもんなのか」


 「兄貴、聞いて驚かないでくれよ……レベルが上がると不思議な事に頭に呪文が浮かんできてさ。

 それの通りに唱えると魔法みたいな不思議な力が使えるんだぜ!」


 それを聞いて俺は驚愕する。


 「なっ、驚いただろ! 俺も最初はそうだったが、ゲームに詳しい仲間の話じゃ適正? がある人じゃないと使えないらしいんだ」


 その驚きを別の方へと勘違いしてくれたようだ。

 やっぱり違う———魔法じゃない。

 疑問は確信へと変わった。


 「あぁ、かなり驚いたよ! アリスさんも使えるの?」


 「アリスでいいわ。さん付けは背筋がぞわぞわするもの。

 っと、魔術は私も使えるわよ。お陰でゾンビを間引く係りに選ばれたんだからついてないわ」


 「でもさ、さっきから魔法みたいなものと言ったけど魔法ではないの?」


 「あー、なんか厳密には違うらしいわね。

 紫苑(しおん)さんがそう言ってたし。あ、紫苑さんは私達をまとめてる、あー、ボスみたいな人ね」


 なるほど。

 その紫苑って奴から詳しく話を聞いておきたいな。


 「おっ、雨が止んだみたいだな」


 剛が窓の方を見る。

 カーテンが掛かっていて外が見えないが、音でそう思ったのだろう。


 「本当ね。そろそろ行こうかしら。二人を紫苑さんにも紹介しないとだし」


 これは願ったり叶ったりだ。 

 俺達四人は荷物をさっとまとめると外に向かった。

 玄関を出て道路に出る時、以前に庭に入らないように作ったバリケードがそのままになっていて少し懐かしく思った。


 「この積み上げられた冷蔵庫とか、誰かここに隠れてたのかしらね?」


 アリスの呟きにドキッとしたが俺はそれには何も反応せず横を通り過ぎた。


 「あー、一応二人は俺達の後ろをついて来てくれ。

 ゾンビの相手は慣れてるから任せてくれればいいからさ」


 俺と唯は素直に分かったと言うと後方に下がる。

 この二人はいい人だが、そのコミュニティ全体が善とは限らない。

 完全に信用できるまでは俺達の力は黙っておく事にする。

 また、佐川 葵のような悪魔を作り出してしまいたくないのだ。

 それに変に利用されて唯まで危険に晒したくない。

 

 剛とアリスには悪いが今はおんぶに抱っこ。この優しさを利用させてもらう事にする。

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