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嵐の後の静けさ

 嵐が過ぎ去った後は静かだった。

 テーブルの上にはさっきまで居た人物が食べていたお菓子を包んでいた包み紙が散乱している。

 隙間風が何処からか入り込み、それが「かさり」と音を立てると俺と唯はようやく動けるようになった。


 「……いなくなっちゃった」


 呟く唯。

 嵐が俺達の体力を根こそぎ持って行ってしまったように疲れた。

 登場の仕方も唐突であれば、いなくなる時もまた唐突だ。

 まだまだ聞きたい事があったがそれも聞けず終いである。

 でも、ベリルは魔石を集めればまた出会えると言っていたよな……。それに、魔王の所にも連れて行くと。


 「何だったんでしょう?」


 「さぁ? 話しかけてもダメ?」


 当初会話をしていたのは彼女だ。もしかしたら姿は見えなくても話なら出来るかもしれないと、淡いを期待を抱いたのだが……。


 「…………『眠い』だってさ」


 それはすぐに打ち砕かれる。

 あんだけチョコレート食べて寝ると牛になるからな、と小言を言うが聞こえるはずがない。

 何処までも自分勝手で能天気な奴である。


 「そう言えば、宗田さんはベルちゃんに何をされたの? 突然白目をむいたと思ったら崩れるように座りこんで驚いたよ……」


 あー、あの記憶が無い時の事を言っているのかな?

 って、白目むいてたのか俺。

 ただなー、思い出せないんだよな。

 

 「それがさ……思い出せないんだよ。

 気付いたら座ってて、唯が俺の名前を叫んでいたからさ……」


 心配してくる彼女には申し訳ないが、本当に覚えてない。


 「そっか……今は大丈夫なの?」


 「大丈夫だよ。心配かけてごめんね。

 あの時はベリルと目があったんだけどさ、そしたら……」


 そう言おうとした所で全身からぶわっと湧き出るように全身から汗が噴き出て来た。

 それ以上言うな、思い出すな、と警告のように感じる。


 「宗田さん?」


 「いや……なんでもない。

 てか、あいつが言っていた世界が変わるって事と魔王の元に連れて行くってのが気になるな」


 そう強引に話題を変えた。

 だが、嘘は言っていない。どちらもかなり重要な事だと思っている。


 「そうだね……世界が変わるってどんな事が起きるんだろうね。

 絶対に良くない事だよね?」


 「そうだな。今より状況が悪化するのは間違いないだろうし……魔石集めついでにいろいろと準備はしておこう」


 「はい。ベルちゃんの魔石集めクエストも継続だもんね」


 あー、ゲーム風に言うと確かにそうだな。

 しかし、あいつ滅茶苦茶気になる事しか言わなかった。

 運命だの因果だの、二度目とも言っていた。まるで、俺と会ったのが初めてじゃないような口ぶり。

 結局それも聞けず終いに終わったし、こっちとしてはかなり不完全燃焼だ。

 ちなみに、俺はあんな外人みたいな知り合いは居ない。

 一度も会った事もなければ、話した事もない。

 ただ、あのおかしな既視感は気になるが……。

 どうしてベリルなんて名前が出て来たのか。

 ただ不意に出て来たその名前を呟いた時、とても懐かしい物を感じたんだよな。


 魂の位階に魂廻(こんかい)、それと魔王の事を知っていた。

 更に俺達を魔王の所に連れて行くと言ったベリル。

 早めに魔石を集めて、いろいろと話を聞きたい。

 

 それに、これからの事が決まった。

 まずは魔石の収集だ。

 唯が言った

 『ベルちゃんクエスト』

 を達成しよう。

 いつでもそこに行ける状態にする。

 仮に俺達で魔王を倒せないなら、他の人材を探すまで。

 そのためにはもっと大量の魔石が必要となる。

 だから、魔石集めを最優先とする。


 次がレベル上げか……。

 ベリルの言葉が理解できない不思議な現象。

 彼? ———男か女か分からないからそう称すが……魂の位階が引いと言っていた。

 だから魔石収集ついでにレベルも上げる。

 ただ、魔王に勇者クラスと言っていたからな。

 ……てか、勇者も居るのか? ただクラスと言っていたから———複数居ると言う事?

 考えても答えが出ないか……。


 まぁ、いいか。


 当面はそんな感じで行こう。


 「だな。魔石集めにレベル上げを優先しよう」


 それと———佐川 葵。

 彼女の事を忘れてはいけない。


 見つけ次第———す。

 

 「それに、彼女も探さないだな……」


 「そうだね……今頃何処に居るんだろうね……。

 あー、許せない! 宗田さんを騙してそれに牙を向けるなんて———絶対にぶっ殺す!」


 彼女の話になると唯はキャラが崩壊する。

 最初はその姿を見て引いていたけど、慣れって凄いな。今はいつもの事のように受け入れてる。

 あ、あんまりテーブルの縁を強く握らないで! あっ、ミシッって言った。


 「お、落ち着いて!」


 彼女を宥めるとそれをすぐに辞めてくれた。

 ふぅ……良かった。

 見た目によらずの怪力。力だけなら間違いなく俺を凌駕している彼女に危うくテーブルを破壊される所だった。

 手形ついてるし。

 八つ当たりされたテーブルは悲しそうに泣いていた。


 「私、落ち着いてるよ。おほほほ」


 顎の下に手を開いてその甲の部分を顎の下に添えて、貴婦人が笑うような笑い方を真似てふざけているが目が据わっている。


 「……あ、暗くなって来たね」


 このままだとまた再発しそうだと強引に話題を変える事にした。

 

 「最近は日が落ちるの早くなったよね」


 秋が近づき以前よりも日が落ちるのが早くなって来た、8月半ば。

 夜が明けるのも遅くなり、闇が支配をする季節に移り替わろうとしている。

 トンボも空を飛び、夕焼けの赤が更に濃くなる。

 薄暗くなって来た部屋の中で俺と唯は、食い散らかされた袋を片付けていた。


 「そうだな。あ、ローソク取って」


 「はい。どうぞ」


 そう言ってテーブルの端に置いてあった小皿を取ると渡してくれた。

 そこには溶けた白いローソクが乗っている。それを受け取ると俺は火を付けた。


 「火よ」


 短くそう言うとライターくらいの火が指先から出る。

 それをその先端へとそっと近づけると、淡い光と蝋が溶け出す匂いが広がった。

 すっと、魔法を消して片づけが終わったテーブルへとそれを置いた。

 俺達のよるの唯一の光源。


 「なんか、ローソクの匂いって落ち着くよね。

 特に消した時の匂いが好きだなー」


 唯はローソクを見ながらそう言った。


 「あー、分かる分かる。

 たださ、あれって発がん性物質だよね? 炭化水素だっけかが溶けだした時に発生する臭いであまり体に良くなかったような……」


 「えっ! そうなの!?」


 にわか知識のそれだが、確かそうだったはず。

 それを告げるとさささとローソクから離れた。


 「大袈裟だよ。そんなに大量に吸わなければ大丈夫だって」


 そうやって雑学を交えながら、夜は更けていった。

 読んで下さった皆様ありがとうございます。

 そして、感想、ブックマークをして下さった方、自分のモチベーションに繋がっております。

 本当にありがとうございます。


 現在改稿中です。

 また、毎日投稿も継続中となっておりますので、よろしくお願い致します。

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