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謎は深まる

 「よくぞ聞いてくれましたっ!」


 何者なんだと言った俺に対して、自慢気に話し出す「声」。

 って、一番最初に聞いたんだが今更自慢げに言うな! 内心そう突っ込むが言葉にしない……顔には出すけど。

 訝しげにわざとそいつに視線を向けて訴えるがそいつは全く気付かなかった。

 そして、自分について語りだす。


 「んー、僕が何者か……ね。お兄さんとお姉さんはちゃんと理解できるかな?」


 普通ならそんな小馬鹿にされたら腹が立つ。

 でも、あんなに陽気だった姿が今は曇り空。

 真面目な顔から心底困ったような顔。

 俺はそんな姿を見て憤りを感じるより先に疑問が先に進んだ。


 「あー……まっ、いいかな」


 それは美しい。まるで、全ての美を集約したような美しさだった。 

 花のように可愛らしく、太陽のように燦燦と輝いていた「声」。

 昼が急に夜に変わったかのように真剣な表情になった。

 だが、夜になったそいつもまた美しかった。

 年の頃は10歳のそれ。背丈はも子供。

 だが……遥かに年上に感じられる夜の姿。

 

 銀色の髪が星のように輝き、月である彼、または彼女の存在を引き立てる。

 それは芸術を通り越し、「美」その物と言っても過言ではない。

 だが、急に夜が訪れたせいか人間味が急激になくなる。

 最早、その姿に美しさよりも恐怖が勝っていた。

 真実は知りたい———だが本能がこいつに関わるなとそう告げてくる。


 ただ、無情にも俺の気持ちには気づいてもらえず人の皮を被った化け物は淡々と語り出す。


 「僕はね……■■を■■■■……■■■■■だよ。世界の■■■にして■でもあり■でもある存在。それが……僕だよ」


 なんだ……。確かに声は聞こえる。だけど理解できない……。

 その不思議な現象が恐怖と言う形でのしかかって来た。

 そう言う唯も同じようで、困惑しているような声を上げていた。


 「あー、やっぱり駄目だったか。まだ、二人の魂の位階が低いからね。

 せめてこの世界に現れた魔王( ・・)クラスか勇者(・・)にならないと無理かなー。

 じゃあ、僕の事は凄い凄い、とてもすごーい精霊と言う事にしようかな」


 魔王に勇者だと? こいつ本当に何者なんだ。


 「それにお兄さん。さっきから僕の事を『声』だの『こいつ』だのって、冷たい言い方されるのは寂しいかな。

 そうだ! せっかくだからお兄さんが名前を決めてよ」


 最初のように無邪気さが戻って来たそいつはそう言うと、期待のまなざしで俺を見て来た。

 名前を決めてって何を言っているんだ……てか、俺の心を?

 得体のしれない奴にそんなの嫌———俺は真紅に染まる目を見た。


 初めてベリル(・・・)と初めて目があった。

 それは血よりも濃い赤。

 全てを見透かされているような違和感。

 心臓を鷲掴みにされているようなプレッシャー。

 更に—————————死、死、死、死ぬ、死ね、殺す、殺される。


 ———俺は死んだ。

 抵抗虚しく死んだ。

 最後に記憶があるのはベリルの――真紅の瞳。

 それを見た瞬間———殺された。


 ———撲殺。

 頭を鈍器で殴られて殺された。


 ———刺殺。

 腹を何度も刺されて殺された。


 ———毒殺。

 毒を大量に盛られて殺された。

 

 ———絞殺。

 首を縄で絞められて殺された。


 ———射殺。

 銃で心臓を撃たれて殺された。

 

 殴殺、扼殺、轢殺、爆殺、焼殺、圧殺———。


 ――ありとあらゆる方法で俺は殺された。

 

 終わりのない無限の死。

 無限回廊の階段を一段上る度に俺は一度死ぬ。

 歩みを止める事も戻る事も出来ずにただ先に進むだけ。

 まるでそこは孤独の摩天楼。

 悠久の時を一人で過ごしてきたそいつが久々の来客を逃がさないと言わんばかりに、俺を捉えて離さない。

 おもてなしを存分に俺を出迎えてくれた。

 ただ、そいつと俺の感覚は違う。まさに俺には地獄の日々が待っていた。

 絶望はとうの昔に忘れ、俺の心は死んだ———


 「———宗———宗田——————さん! 宗田さんっ!」


 あれ……。

 ここは? 俺は今まで何をしてたんだ?


 「宗田さん! しっかりしてください! 急にどうしたんですか!」


 慌てた様子の彼女。

 俺は何かを忘れているような? なんだっけ?

 いつの間にか膝立ちになっていた。 

 肩をがくがくと揺さぶる唯。


 「いやいや! 驚いたよっ! 

 まさかここでも! 君はやっぱり凄い。これで二度目だ!」


 「あなた、何をしたのよっ!」


 その子供の胸倉を掴んで持ち上がる。

 怒り心頭の唯。理解の追いつかない状況に、必死に何が起きたのか思い出す。

 

 最後にベリルの目を見たと思ったら……。


 「…………ベリル」


 自然とそう言葉が漏れた。

 知らないはずなのに知っている言葉。

 これは……名前? 誰の? 俺が付けた?

 自分が自分じゃない錯覚。

 俺がその誰のか分からない名前を呟いた時だった。


 「あはははははははははははっ! ここでも! ここでもその名前を付けるのかい!

 君は本当にどうなっているんだ? 世界線? 因果? 運命? その全てを捻じ曲げようとするなんて!

 信じられない! 僕が意識を宿して随分と時間が過ぎ去ったが……こんなの初めてだ!」


 胸倉を掴まれて持ち上がれた状態で、苦しさは一切見せずにベリルが歓喜に震える。


 「さて、本当に僕の名前はそれ(・・)でいいのかな?」


 怒りに震える唯を無視して話を進める。


 「ああ……それでいい。お前の名前は———ベリルだ」


 そして大声で笑う彼女は更に声高く愉快に美しく不気味に、喜びに震えた。


 「あー! 流石僕が見込んだだけある。世界に唯一の■■■だ。

 もう待てない。早く! 早くっ! 僕を■■■てくれ!」


 欲しかったプレゼントをもう少しで貰える子供のようにそう催促してきた。

 ベリルの言っていた事の一部はやはりフィルターが掛かったように分からなかったが、その興奮した感情だけはヒシヒシと伝わって来る。


 「い、いったいなん……なのよ」


 その狂気とも言える姿に、唯は怯え手を放してしまった。


 「ふむっ……少し興奮してしまったようだ。僕とした事が申し訳ない」


 地面に着地するとローブの裾をつまんで社交界のお嬢様のようにペコリ謝罪の言葉を述べた。

 ようやく白い靄が掛かった意識が鮮明に戻り始め、へたり込んでいた体をゆっくりと起こして立ち上がった。

 そうして、怯えた彼女をこっちに引き寄せて自分を精霊と言ったそいつから引き離した。


 「あ……」


 手を引っ張られ抱き寄せられた唯が小さく声を漏らす。

 

 「うんうん。その彼女との出会いも運命だよね」


 何か納得したようにそいつは頷く。

 

 「お前の目的は……なんなんだ?」


 彼女を庇うように胸の中に抱きしめて、こいつの真意を確かめた。

 すると、人差し指を顎に当てて上を向きながら何かを考え始めた。


 「目的かー……今回出て来たのはたまたまかな? 魂? 運命? そのどれもが絡み合って呼ばれたって感じかな?」


 また訳の分からない事を……。

 魂に運命? 言葉は知っているがそれにどんな意味が込められているかについては理解までは出来なかった。

 だから、質問の内容を変える事にする。 


 「意味が分からない……。なら……お前は魔王を知っているのか?

 さっき魔王に勇者と言っていただろ?」


 そう聞くと彼女は俺を真っ直ぐに見つめる。

 また、あの真紅の瞳と目があったが今度は俺の体に何かが起きる事は無かった。

 ルビーのように赤い瞳が俺をその中に入れると。


 「———知ってるよ」


 ニヤリと笑ってそう答えた。

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